第88話 令和の時代は


 新年あけましておめでとうございます。令和二年になるのでしょうか。


 が、今回はちょっと過去の話、平成の話をしようかと思います。

 平成の時代は、まさにオタクの時代でした。


 昭和のころは忌み嫌われ、最底辺に押し込められていたオタクが、その力を発揮し、下克上をなしとげ、天下を取った時代だったと思います。


 オタク特有の専門知識、特化した能力、それらが持てはやされ、そして実際に華々しいを戦果をあげました。


 またそれにより、日本国民全員評論家の時代でもありました。

 マニアックな知識。そして、物事をいかに評価するかの審美眼。そんなものに価値が見いだされた時代ではなかったでしょうか。


 たとえば昭和末期のコミック『美味しんぼ』。これはグルメブームを呼んだとされるコミックでしたが、食を題材にしながら、その本質は作ることではありませんでした。いかに食を評価するか?でした。


 半面、映画評論家という人種が一掃されたのも、平成でした。

 それまでは、映画というと有名な映画評論家がテレビに出て、これはどう、あれはどうと批評を並べていたのですが、彼らは平成の時代に姿を消しました。なぜって、国民全員が評論家だから。


 じつは映画評論家が消え去ったのには、ある事件がありました。


 『踊る大捜査線 THE MOVIE』の大ヒットです。

 『踊る大捜査線』は織田裕二さん主演のテレビドラマでした。ドラマがヒットし、テレビスペシャルが製作され、その流れで映画化という、いまでは当たり前ですが、当時は革新的かつ大胆、そしてファンにはありがたい製作スタイルを確立したのが本作です。


 が、この映画を、映画評論はたちは口をそろえて酷評しました。

「テレビを観ていないと、意味が通じない」

 映画評論家が口をそろえて、こんなのだめだといった『踊る大捜査線 THE MOVIE』でしたが、いざ公開されてみると、すべての映画館のまえに大行列ができました。あんな大行列、『スターウォーズⅡ 帝国の逆襲』以来、見たことがありませんでした。


 折も折、時代はインターネットの普及が始まっていました。映画の批評はなにも、映画評論家にお願いする必要はなくなりつつあったのです。

 その映画が面白いか面白くないかを決めるのに、評論家は不要になっていました。自分たちで決めることができる時代になっていたのです。

 WEBページのBBS、すなわち掲示板に書き込めば良くなっていたのです。


 そして、この掲示板で語られる会話、披露される知識。そんな流れの中で、普通の人は知らないような知識をもっているオタクの人たちが注目され台頭し、神とあがめられるようになります。


 あの頃は、オタクであれば尊敬されました。人が知らない知識を持っていれば、それだけで評価されました。それが平成でした。


 でも、時は流れ、やがて令和になります。



 すでにオタクの時代は去ろうとしています。人が知らない知識? そんなのネットの検索エンジンより詳しい人間がいるでしょうか?


 時代劇の怪異な悪役。阿部頼母あべたのも。そんなの知っているの、昔はオタクだけでした。知っているオタクだけで盛り上がっていました。

 でもいまは、検索すると、画像も動画も出てきます。


 漫画に詳しい人。アニメに詳しい人。むかしのアニメのビデオをたくさん持っている人。昔は英雄でした。が、いまは検索すれば全部出てきます。


 都内の道に詳しいなんて、なんの自慢にもなりません。今は車がしゃべって道を教えてくれます。縦列駐車だって車がやってくれます。それが令和の時代です。


 もう、何かに詳しいだけで威張っていられる時代は終わりました。これからは、何を発信できるか、の時代だと思います。


 いまは動画も絵も小説も、プロではない一般人が簡単に世界に発信できます。

 そんな時代に、詳しい知識がいくらあっても、もう自慢にはなりません。どんなにゲームに詳しくても、面白いゲーム小説は書けません。どんなにミステリーに口うるさくても、面白いミステリーが書けなければ、その人は屑です。

 そういう時代になってきました。


 だから、みなさん。


 読んで面白い小説を、もっともっと、書きましょうね。と、思った新年でした。



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