ここで唐突にホラー展開
第42話 ダンス・ウィズ・妖怪
ぼくはまったく幽霊とか霊魂とかは見えないんですが、過去に一回だけ、妖怪に会ったことがあります。といっても、相手は妖怪。単なるぼくの、いえぼくたちの勘違いかもしれないんですけどね。
むかし、本屋でバイトしてました。若いころですね。
そこは結構大きい書店で、バイトの数も多く、バンドやってる人やゲーム好き、マンガ好きなど、いろんな人種が集まってきてました。プロのバレリーナなんて人もいましたね。
毎月宴会が開かれて、みんなでカラオケ行ったり、集まって鍋やったり、ほかにもバカな企画で遊びまくったものです。
『パフェ・トライアスロン』とか『ガンプラ大会』とか、名前からしてバカな企画もありました。
で、そういった遊びのメニューのひとつに、『光線銃』ってのがあったんです。
これは、むかし発売された『サバイバー・ショット』というオモチャの光線銃なんですが、赤外線ビームで撃ち合う玩具なんです。
ちょっと大きめの銃本体からコードが伸びてまして、頭に巻くヘアバンドに受光機が装着されてまして、そこに敵の撃った赤外線が当たると、バイブレーターが振動してこめかみに衝撃がくるという仕組みです。
この振動が結構激しくてですね、最初に撃たれた人はだいたい悲鳴をあげます。
が、慣れたガンナーは、もう無言で、着弾直後の無敵状態を利用して、硬直が解けた瞬間反撃に転じるために、有利なポジションへ移動するというね。なかなか戦略的な部分もあったんです。
この光線銃でぼくらは、夜の公園とか広い場所を探しては撃ち合いました。
不思議なもので、人は「撃たれる!」と思うと体力の限界を超えて走ることができるものです。
そして、この光線銃。サバゲなんかとちがって、撃ち合うのが赤外線なので、安全なんですね。しかも射程距離が、よく狙うと50メートルくらいはあるという優れモノでした。
一度、開店前の書店で撃ち合ったことがあります。
おなじ参考書担当バイトのカッキー先輩と、朝いつもより一時間くらい早く出勤して売り場で撃ち合い。
夏で、しかも早朝なのでクーラーが動いていなくて、二人とも汗だくでした。
ほかの従業員が出勤してくるまえに撃ち合いは終えて、休憩室に座ってましたが、二人とも汗だくで息は荒い。そこへうちの上司ともいうべき社員のヒロコさんが出勤してきてぼくらを見てびっくりするわけですよ。
「二人ともこんな朝早くから、どうしたの?」
すかさずカッキー先輩、
「学参会議です」
んなわけないんですが、素直なヒロコさんは信じちゃって感動しちゃって、他の人に、
「あの二人、偉いのよ。朝早く出勤して、汗だくになって会議してたのよ」
と語っていたらしいです。
すみません、会議じゃないです。撃ち合いです。
だいたい、会議してあんなに「はあはあ」はしないと思うんですが。
で、このカッキー先輩が、JRの高架下にある、荒川沿いの公園が、「撃ち合いに良さそうだよ」という情報を持ってくるんですよ。通勤の電車の窓から見える公園が、バトルのフィールドに適していそうだと。
で、ある夜、仕事あとに、カッキー先輩とぼく、後輩のシュウくんで、下見を兼ねて『撃ち合い』に行くんです。
なんもない公園でした。遊具はなく、植え込みも低い。植え込みが低いということは、
ただし、というか、だから、というか、人は全くいない。ならば、せっかく来たのだからと、持参した三丁の光線銃を取り出して、撃ち合いを始めました。
三人なので、二人が一対一で戦い、一人が休む形で撃ち合いました。
植え込みが低いので中腰で走るため、体力の消耗が激しい。カッキー先輩なんかは、もう地面に這いつくばって、服が汚れるのも構わずゴキブリのようにがさがさ移動してました。このあと電車乗るんですけど……。
そのうち、自然と一対一から、バトルロワイヤル形式での撃ち合いに移行し、やがてへとへとに疲れたぼくらは、もう回避とか匍匐とかそういうことは一切しないで、棒立ちしてふらふら歩きながら、お互い目に入った相手の受光部に向けて緩慢にトリガーを引き始めました。
ぼくとカッキー先輩、そしてシュウくん。三人で銃は三丁。ふらふら歩きながら、ぼうっと他の二人を撃っていた時、ぼくはふと、一人多いことに気づいたのです。
全部で三人だから、ぼくの他には二人のはずです。でもそのとき、そこには、ぼくの他に、カッキー先輩とシュウくんと、そしてもう一人知らないやつが混じってました。そいつも銃を持った手を伸ばし、頭に受光機のついたヘアバンドを巻き、ぼくらと一緒にふらふら歩きながら、お互いの頭に向けてトリガーを引いていました。
やがて疲れ果てたぼくらは、帰途につきます。駅までの道すがら、シュウくんに尋ねました。
「一人、多かったよね」
「多かったですね」
「あれが、座敷童ってやつか……」
ちなみに、シュウくんは、見える人らしく、別の公園にみんなで撃ち合いにいったとき、その公園で以前殺人事件があったという話を聞いたメンバーが、「霊が出るかも」とビビっていると、シュウくんが笑って、
「だーいじょぶだって! ここはいないから!」
と断言していました。
何年かのち、みんなで集まったことがあり、この光線銃の話題もでました。
そのときに、シュウくんは、嬉しそうにぼくに言ってきました。
「そういえば、ぼくたち、座敷童に会ったことありましたね!」
そうだね!
しかも、光線銃で撃ち合ったからなっ!
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