第40話「」の話


 鍵括弧、「」の話です。

 現代文では、人がしゃべった言葉、それをセリフとして「鍵括弧」でくくります。


 彼は「おはよう」と言った。


 ってな具合に。



 でも、


 彼は、おはようと言った。


 でもいいんです。これは伝達というより、表現の範疇になるんでしょうかね。


 「」でくくると、なんか人が喋っている感じになるから不思議です。


 で、この鍵括弧。いろいろとルールがあります。

 ぼくが子供のころの作文の時間には、「おはよう。」と書けといわれた記憶があります。「こくご」の教科書もそう表記していたかもしれません。いまはルールが変わったのか、あるいは小説はもともと違うルールなのか? セリフの文末に「、」や「。」はつけませんね。ただし「?」や「!」はつけます。



 すこし話がそれますが、文中の?や!は、それが文末であるときは、直後にスペースをひとつ入れます。知ってましたか? 知らない? 案外これ、知らない人、多いんです! これは、そこで文章が終わりましたという合図なんです。


 が、逆に、そこで文章が終わってない場合は、スペースを入れません。これを知らない人も結構いるんじゃないかな?と思います。だた、これは表記のルールで、つまりは読みやすくするための手法ですのでWEB小説なんかで絶対やらなきゃならない!ということもないと思います。


 さて、「」の話にもどしましょう。

 「」にはもうひとつ、ルールがあまりして、ちょっと数学っぽいですが、 「 で始まったら、 」 で終わらせないといけません。当たり前ですが、そうしないと、訳分からんことになります。


「おはよう、きょうはいい天気だね)


 だと、ん?ってなりますよね。


 もうひとつあります。「」の中に「」はいれてはいけません。


 最近よくある表記で、「「」」というのありますね。



「みんな、いくぞー」


「「「おうっ!」」」



 みたいなやつ。

 本来はできません。


 だってこんなことになりませんか?


 たとえばサッカー小説で。





「みんな、今日の試合がんばるぞ!」


「「「「「「「「「おうっ!」」」」」」」」」


「おい、いま一人、返事しなかったやつがいるな?」




 でも、これも案外WEB小説界隈では見ますね。少し前に読んだ電撃文庫の「86エイティーシックス」では、一般書籍なのにこれが使用されていて、へえーありなんだ?とびっくりしましたが、あれって読者のみなさん、「」の数をちゃんと数えてるんでしょうかね?


 この「」を重ねないは、セリフ以外でもあります。


 たとえば小説の題名なんかで、「」の中に「」を入れるときは『』や≪≫を使います。


「カーニヴァル・エンジン戦記3「惑星「ナヴァロン」の狙撃姫」」


 ぼくの作品名ですが、こう表記すると、訳分からんですね。なので、「「」」をルールにしたがって書き換えます。


「カーニヴァル・エンジン戦記3『惑星≪ナヴァロン≫の狙撃姫』」


 となります。これは、読みやすくするためのルールであり、手法ですね。でも、これ、あんまり読みやすくないんで、こうしまょうか?



『カーニヴァル・エンジン戦記3 「惑星≪ナヴァロン≫の狙撃姫」』


 というように、「」と『』では、強さが少しちがいます。細かいことですが。


 さて、なんでこんな話を延々しているのかというと、ある小説を読んだときに、 「 や 『 で始まるセンテンスは行頭一字下げはしない、というコメントを見たからです。


 「」ルールに、行頭一字下げルールが絡まる複合技ですね。


 行頭一字下げは、通常の文章では、普通に行われています。これは小学生の作文でもおなじはずです。一般書籍もそうなってます。

 これも、読みやすくするために工夫ですね。

 小説本文はもとより、レビューやコメントなんかでも、行頭一字下げしろよ!読みにくいから!と思うのはぼくだけでしょうか?


 ただし、行頭が 「 の場合はしません。つまり、それがセリフであるならば、一字下げしないんです。





 朝起きたら、そばに姉がいて、ぼくの顔をのぞきこんでいた。びっくりしつつ、ぼくは言う。

「おはよう」

 彼女はにこやかに笑った。とても幸せそうな笑顔だった。その笑顔にぼくは癒された。





 が、これ、若い人は知らないかもしれないですが、むかしの文庫本には、出版社によっては、一字下げをしていました。ぼくもセリフの行頭一字下げを試したことがあります。




 朝起きたら、そばに姉がいて、ぼくの顔をのぞきこんでいた。びっくりしつつ、ぼくは言う。

 「おはよう」

 彼女はにこやかに笑った。とても幸せそうな笑顔だった。その笑顔にぼくは癒された。

 



 気づきましたか? すっごく下がって見えるんです。それは、 「 がそもそも半角スペース分くらいさがっているからなんです。下がりすぎていて、却って読みづらい。そこで、 「 が行頭の場合は、一時下げをしない、というのが昨今のルールです。



 が、たとえば国際宇宙ステーションの日本実験棟できぼうってのがありますね。このきぼうなんですが、文中できぼうなんて表記すると、極めて読みづらい。なので『きぼう』と括弧でくくって表記しましょうか。で、通常の表現でこんなことを書く。




『きぼう』は国際宇宙ステーションの日本実験棟である。そして、その運用はジャクサによってうんちゃらかんちゃされているのである。




 行頭一字下げは、 『 が行頭なのでしません。が、ちょと下がって見えるので、問題ないですね。これが表記としては正しいです。

 正しいのですが、小説ではどうでしょうか? ちょっと書いてみましょう。




「こちら、月着陸船。地上管制、感度は良好か?」

『こちら、地上管制。きわめて良好なり』

「おお、小林。久しぶり。元気だったか?」

『ああ、こちらはなんとかやっている。そちらは?』

「極めて良好。ところで、あの映画は見たか?」

『うるさい黙っていろ』。それが映画の題名だ。おれは出発前に、小林にぜひ見てくれとあの映画を勧めていたのだ。

『いや、まだ観ていない』

「そうか。しかし、あれはいい映画なんだぞ」

『うるさい黙っていろ』は、もともとは自主映画として撮られたものなのだが、じわじわと人気がでて、しまいには全国的に上映されたほどの名作なのだ。

『すまん、なかなか時間がなくて。その映画、そんなに面白いのか?』

「もちろんだ、絶対お薦めだよ」

『うるさい黙っていろ』は、おれが見た中では最高の名作だ。

「とにかく、見ろよ。話はそれからだ」

『うるさい黙っていろ』

「え?」

『うるさい黙っていろ。勤務中だ。私語は慎め』

 怒られてしまった。






 まあ、これは極端な例です。

 「 や 『 が行頭にくるときは、一字下げの必要はありません。が、その「」がキャラクターのセリフではなく、名詞にかけたものならば、行頭一字下げをした方が無難です。

 思わぬ混乱を生む可能性が、小説の場合は多々あるからです。


 これは、ルールではなく、ぼくの主観的意見ですけどね。




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