第9話 非日常の胎動

「眠い……」

「翠ちゃん、授業中もガクンガクン首が揺れてましたね」

「後ろからも分かるほどだったな」

「ぐっ……。ま、まぁノートはちゃんと取ってあるから大丈夫だし……」


 2時間目、国語・古文終了。

 机に突っ伏しながら夕菜と勇人の二人に言い返す私であったが、ものの見事に眠気にノックアウトされていたのであった。のーすりーぷのーらいふ。

 ちなみにノートには眠りながら書いたおかげでミミズが時々腸捻転起こした感じの文字? が並んでいる。

 板書はできる限り取ったつもりではあるので、時間はかかるだろうけどなんとかなる、と思いたい。


 今日の一時間目は体育の授業だったから、眠気覚ましの意味でもちょうどいい時間だった。

 体操服は洗ったものを授業の翌日には学校に置いていくようにしていた為、着る物には困らず。

 寝不足で体調や運動能力が少々心配ではあったけれど、むしろ普段よりも体の調子はいい感じであった気がする。


 しかし、二時間目の授業中から早くも眠気がぶり返してきた。

 体育の時間に体力を使いすぎたのかもしれない。あまり得意でない古文の授業であった事も災いした。

 私自身には課題や問題に席順的には当たらないのもあって、かなりの時間こっくりこっくり舟を漕いでいたと思う。

 

 私は窓際の席。その右隣の席に夕菜。真後ろの最後尾席に勇人。

 授業中は差し込む日光のおかげで体がいい感じに温まるのも眠気に拍車をかけてくれた。

 窓際は外を眺めてぼーっとできるのが好きだけれども、今日の日差しは少し恨めしい。

 何度か勇人に後ろから軽く椅子を蹴られて起こされた記憶もある。

 あまり居眠りに関して注意しない温和な先生で助かった。


 そんなこんなで2時間目も終わった後のお昼休み。

 ある者は購買に惣菜パンを買い求め、ある者は学食へメニュー制覇への第一歩を踏みに、ある者は弁当を持ち寄って友人同士話を興じたりする。

 私も普段は夕菜と勇人と一緒に教室で弁当なのだけれども。


「あ、今日、私、学食で食べてくるから。二人で食べてて」

「珍しいですね、翠ちゃんがお弁当じゃないなんて……。

 そう言えば親戚の家に今お世話になってるんでしたっけ?」

「え?あ、うん、そうそう。親戚の家親戚の家。流石に親戚の食材勝手に使えないからね」


 一瞬、親戚って誰だっけと、自分がついた嘘を忘れかけそうになって慌てたけど、慌てて軌道修正。

 そう、あの豪邸はひとまず私の親戚の家という事にしておく事にする。

 そう考えると、しばらくは学食になるのだろうか。

 料理を自由にできるようになれば自分で作れるし、ハウンドとその辺り相談するのも良いかもしれない。


「それじゃあ、俺達も一緒に行くか、学食」

「そうですね。お弁当ならどこでも食べられますから」

「え? 悪いからいいって。学食って結構うるさいし、席取れないかもだし」


 実際、うちの高校の食堂は広い。が、それは学生の数も多いからである。そして、やはり利用者も多い。

 今の二人のように食堂利用者と一緒にお弁当を広げる人もいなくはないけれど、そこそこ騒がしいからその数は少ないはず。

 

「でも、三人で一緒にご飯を食べるのが習慣になってましたから。せっかくだし、今日も一緒に食べたいです」

「ま、今日の食堂が余裕ないほど詰まってたら素直に諦めるよ。席取りなら俺達で先にできるしな」

「それなら……大丈夫かな? ありがと、二人共」


 普段あまり利用しない食堂を一人で利用するのは少々心細くもあったので、幼馴染二人の提案は正直ありがたい。

 お礼を言ってから二人を伴って、いざ食堂へ。

 教室のある校舎とは別の建物になっているので、移動に少々時間がかかるのが欠点でもあるが、話しながらなら体感時間的にすぐついた。

 そうしてたどり着いた食堂は確かに人も多かったが、席はところどころまばらに空いており、3人座れるような場所はいくつか見受けられる。


「それじゃあ買って来るから席取っといて!」


 二人は了解と言って、適当な席を探し始めた。私が買ってくる頃にはちょうどいい席を三人分確保してくれてるだろう。

 その間に私は食料の確保を優先。

 とりあえず何が良いかは分からなかったので、食券販売機に並んで無難な日替わり定食を頼む事にした。

 買った食券を食堂のおばちゃん達が待つ窓口へ持って行った後、しばらくすれば頼んだ物が出てくるシステム。


 いちいちおばちゃん達が並み居る学生達とお金のやり取りしながら注文した物を渡したりすれば混乱したりするかもしれないし、いいシステムだと思う。


「これお願いしまーす」

「あいよ、日替わり定食ね。ちょいお待ち」


 私も食券を渡せば、おばちゃんは奥に引っ込んでいく。

 何をしているのだろうと窓口からそっと奥を伺えば、そこはおばちゃん達による料理の戦場になっていた。

 注文されたものや不足分を手早く作ったりする場合もあれば、出来上がっている物を手早く盛り付けている場合もある。

 やがて、私のところにも注文した日替わり定食が運ばれてきた。


「あいよ、今日の日替わり定食はミックスフライ定食だね」

「ありがとうございまー……す?」


 出来立て揚げたてほやほやな湯気に包まれた定食の載ったトレーを渡される。

 ずいぶんと重いソレを眺めていれば、ご飯はこれでもかというくらい盛られていて、キャベツやフライも通常見る盛り付けよりも二倍くらいの分量に見える。

 ワンコインで買える量としては破格すぎるその量。一体何事かとおばちゃんの方を見てみれば、にかりとした笑みをおばちゃんが返してきた。


「あんた細いからね、大盛りにしといておいたよ。若いんだからしっかり食べな。大きくなれないよ!」

「え、いや、そんな大きくなるつもりは……」


 私の小さい抗議は食堂の喧騒と次々来る食堂利用客の波に飲まれてかき消されてしまった。

 残ったのは大盛りにも程がある定食載せトレーだけ。


「……まぁ、食べきれなかったら夕菜と勇人におすそ分けしよう」


 幸い三人なので、食料のシェアくらいはいいだろう、多分。

 そういえば、本来ならどのくらいの量なのか少し気になったので窓口の様子をしばらく眺めたところ。


「あんた小盛りでいいのかい? ほら、少し盛ってあげたからこれくらいお食べ」

「あんたガタイいいねぇ。大盛りかい? よーし、更に盛ってあげるからたんと食べて大きくなりな!」

「つべこべ言わずに、悩んでるなら大盛り食べるんだよぉ!」


 このおばちゃん来る人来る人全てに通常の量より盛るようにしていた。

 なぜ、いっぱい食べさせようとするのだろうか。

 太らせて食べるのだとしたら、どこのお菓子の魔女かとツッコみたい。


 なんにせよ、タダで大盛りになった点はお得ではあるので、冷めないうちに急いで二人が待っているであろう席へと向かった。


「翠ちゃーん、こっちこっち」


 夕菜の声が聞こえた方へと視線を向ければ、ガラス張りになっている壁際の席に二人が席取りをしていた。

 この食堂、グラウンド側の壁一面がガラス張りになっているおかげで、開放感と日差しはしっかり確保されている。

 それに座りながらでもグラウンドの様子を確認することだってできるのだ。

 今は外に出てる生徒はいない。朝方の体育の時はともかく、今の時間に外で運動すると汗だくになりそうだなぁと燦々と照りつける太陽を見ながら思ってしまう。


「……ん?」


 ふと、生徒以外の人影が一つグラウンドにいるように見える。

 最初は教師かと思ったけれども見覚えはない。

 ただどこかで見たことがあるような気はするけれども、遠目にしか見えないのでよく分からないまま。


「どうしたんです?」

「どうしたんだ?」


 立ち止まってグラウンドの方を見続けていたからか、二人から同時に声をかけられてしまった。

 このまま立ち止まっていても他の人の邪魔になるだけだしと、少し早足で二人の座っている席に近づいていく。


「えーっと、今グラウンドに……って、あれ?」


 二人に説明しようと、席につきながら再びグラウンドの方へと視線を送れば、先程まで見えていた人影がいなくなっていた。

 その人影がいたのはグラウンドの真ん中辺りなので、いなくなったにしては唐突すぎるような気がするのだけれど。


(でも、何か動きが変だったような……?)


 緩慢にうろついているような動きというべきか。正直不審者と言ってもおかしくない気はする。


「グラウンド……?」


 私の言葉に、二人もグラウンドの方へと視線を向けたようだけれども、何も見つからなかったみたいで首を傾げつつ私の方へと視線を戻していた。


「いや、私の勘違いだったみたい。ごめんね、待たせちゃってさ」


 先程見えた人影については頭の奥底に追いやっておく。

 今は目の前のご飯のほうが大事だし。

 さらに二人の視線も、いつの間にかトレーの上に置かれた定食へと注がれている。


「……やけ食いか?」

「あまり食べすぎるとまた眠くなりますよ」

「やけ食いは違うから。それと眠気はそうなりそうだけどなんとかするから!」


 眠気に関しては確かに由々しき問題だけれども、今は気にせずに目の前の大盛り定食を食べきる事だけを考える。そんな事言ったらご飯食べられないし。

 キャベツと揚げ物に備え付けのソースをかけて味噌汁を一口。

 さすが食堂のおばちゃんとも言うべき年季の入った美味しい味付けところ。


「それで、テスト終わったらどうしますか? 久しぶりに三人で出かけたりとか」

「俺はどこでも大丈夫だが、そもそも出かけられるかが心配なのが一人いるな」

「い、いけるし、大丈夫だし……」


 食べながらの話題は、そろそろやってくる期末試験関連。

 夏休み直前というのもあり、そろそろ追い込みしなければな時期でもあるのだが、成績を気にしなくてはいけなさそうなのはどうやら私だけな様子。

 中間試験は赤点取ってないし、きっと大丈夫、おそらく、もしかしたら、そうであってほしい。


「それじゃあ、翠ちゃんの成績が良い事を願いつつ、どこに行くか決めましょうか。私は、今度できるタワーに行ってみたいですね」

「ああ、あそこか。近々オープンするっていう」

「あの、ニュースになってた? 確かに興味はあるかな」


 昨日深夜に見たニュースに地元の高層建築物として紹介されていたのを思い出す。

 城玉スカイタワー、通称”タワー”と呼ばれているそれは全長三百メートルの電波塔も兼ねた建築物で、地元である城玉市の観光名所を目指して建設されている。

 だが、それなら都心の赤いアレより高くして話題性を上げればいいのにと思うけれど、建築計画を出した人の思惑があるのだろう。どんな思惑かは私は知らない。

 見た目は頂上付近以外普通の超高層ビルって感じだし。


 話はそこから膨らんでいき、夏休み中の計画まで及び、その準備の買い物の為にも一度タワーに行ってみようという話で落ち着いた。

 その話の間に私の定食がなんとか胃袋に収まった事は僥倖というべきだろう。いくつかフライと二人の弁当のおかずと交換したりしたけれど。

 トレーと器の返却時におばちゃんからまた来なよと言われたけれど、毎度この量を食べることを考えると少々考えたほうがいいかもしれない。

 美味しいのは良いけれど、太る。確実に。


 昼食も雑談も終われば、昼休みも後わずか。

 教室に戻って次の授業の準備を始める事にする。

 だが、いつもの日常とは違う変化は突然起こったのだった。


『緊急の職員会議を行います。教師各位は職員室へ集まってください。生徒の皆さんは、それぞれの教室で自習をお願いします。繰り返します……』


「……何かあったのかな?」


 3人で話しながら準備を終わらせていると突然流れた校内放送。

 淡々とした放送ではあったが、明らかに何かがあったと思わせる内容だ。

 何があったのだろうかと三人で顔を見合わせてみるけれど、答えが出るわけでもなく。


「俺達が今どうこう言っても分からなさそうだし、とりあえず待機してようぜ。この後何があってもいいようにな」


 スマホを取り出してメールか何かを確認していた勇人の言葉に頷きながら、さて自習するとして何をしようか考える。

 周りのクラスメイトは、各々次の授業の準備をしたり、課題を終わらせるラストスパートかけてたり、普通に雑談に興じてたり、今度来るテストの勉強をしていたりと結構自由。


 隣の夕菜の方をちらりと見れば、彼女はスマホを少し弄った後、カバンから文庫を取り出して読み始めていた。

 文庫の中身については聞かない方がいい気がする。以前聞いた時は、湿り気が多いから翠ちゃんにはまだ早いと言われたから色々と察してしまったのだ。

 座りながら後ろを振り返れば、勇人は机に突っ伏して小さく寝息を立てていた。そういえば今朝は眠そうにしていたっけか。

 自習時間に眠気解消はある意味正しいとは思うけれども。


(くっ、やっぱり成績優秀組は余裕……!)


 私はひとまず、まだ終わっていない午後の授業までの課題を終わらせるべく、ノートと教科書を取り出して集中する。

 担任の教師が早足で教室に入ってきたのは、その課題がそろそろ終わる頃だった。


「よーし、皆席ついてるね。今日は全員早く帰るようにって指示が出たから午後の授業は中止。帰りのホームルーム始めるよ。あー、号令はいいから座ったままでいいよ」

「なん……だと……」


 ようやっと課題を終わらせたというのに、その努力も水の泡となったらしい。まぁ、次の授業の分と思えばいいのだけれど、それでも何故全員早退させる事になったのか気になるところではある。


「なんでも、この辺りで捕まってた強盗事件の犯人が昼頃脱獄したって話があってね。

 大げさだとは思うんだが、上から早めに生徒を帰らさせろって指示が出ちゃったのさ。

 脱獄した連中が、もし学校に立てこもったら生徒が危険だって事でね」


 教師の口ぶりからはあまり危機感は感じられなかったけれど、話される内容はなかなかレアな状況な気はする。

 実際、脱獄できたなら、まずは逃げる事を優先しそうだと思うし。

 だけど、昼休みに見えた気がするあの人物は……? と考えると、私は笑い飛ばす事はちょっとできなかった。


(そういえば、あの時私を人質にした人に似てたような……?)


「だから、今日はこれでおしまい。全員速やかに家に直帰するように。

 一人で帰ろうとするんじゃないぞー。変な近道通ろうとしたりな。特に東雲!」

「ひゃ、ひゃい!……あ、えーっと今後は気をつけるよう善処して鋭意努力する所存であります、はい」


 考え事をしていたので、いきなり名指しされてびっくりしながら席から立ち上がってしまう。

 なんで名指しと思ったけれど、そういえば私前科あったわと苦笑いしながら周りに頭を下げつつ座り直した。

 教室中から苦笑している気配が漂ってきて、そういえば担任もラインチェックできるようになってたなぁと思い出す。


 その後、つつがなくホームルームも終わり、各教室から一斉に帰る生徒がごった返し始めた。

 ホームルーム中に話された事情に関して生徒同士で噂話など飛び交っている様子ではあったが、特に大きな混乱もなく帰る事ができている様子。


 私達三人は、ひとまずいつもの集合場所まで歩いて帰る事にした。

 三人の自宅から考えてちょうど中間地点でもあるので、そこからどうやって帰るかはそれまでに決めようという流れである。


 校門を出たのは、帰りの波が一度引いた後だったので、道は混雑していないのだけれども、生徒以外の人の姿はいつもよりまばらで、時折警察の人が巡回していたりパトカーで各所を回っているようだった。

 やはり、教師から聞いた話は本当らしい。スマホで確認した人によればニュースにもなってるとかなんとか。


 そうして周りに人影が見えない集合場所に着いてから口火を切ったのは勇人だ。


「じゃあ帰りの順序は夕菜、翠、俺の家を順繰りに回るでいいな?」

「あー、それなんだけれど……」


 私が今住んでいるガーネットの屋敷はここからでもそこそこ遠い。

 私を送って、そこから戻るとなると結構な時間になるだろう。

 流石にそうなると勇人に何かあったら気まずいし、何よりかなり面倒になるだろうし、私はここで別れてそのまま帰ることを提案。

 やはりと言うかなんと言うか、二人からは抗議の視線を向けられたけれども。

 その視線から私は目をそらしてごまかしつつ。


「大丈夫! 私にはこれがあるし!」


 そう言って取り出したのは背負っていた竹刀袋。中には普段の部活に使っている竹刀が入っている。

 さすがにこれだけで何かに出くわしても撃退できるとは思えないけれども、怯ませて逃げる事くらいは可能だろう。


「だから勇人は夕菜の事をしっかり送ってあげて。あ、送り狼になっちゃだめだからね」

「え、勇人さん狼なんですか? ……実は今日家に両親がいないんですよね、なんて」

「夕菜の家は一人暮らしなんだから、いつも両親居ないだろうが。それより本当に大丈夫なんだろうな?

 また一人の時に人質になりました、じゃ笑い話にもならないぞ」

「ぐっ……痛い所を」


 それは私も避けたいところではある。毎日ラインにネタを提供するつもりはない。

 それに、二人に今住んでるところを紹介したら、なし崩しにガーネットやハウンドのことまで紹介しなくちゃいけなくなる気がする。


「大丈夫、私だってそこまで危ない橋とか渡りたくないし。何かあってもすぐ逃げるから」

「……本当ですよ?絶対に寄り道とかしないでくださいね」

「それは約束する。だから安心して、夕菜」


 じーっと見つめる夕菜を宥めつつ、二人にお願いと言うように手を合わせた。


「はぁ……分かった。何かあったら大声で誰か助けを呼べよ」


 ひとまずは二人共納得してくれたようで、夕菜と勇人は夕菜の家の方へ向かっていった。

 それを見送りつつ、私は早足でガーネットの屋敷へと向かう。


 そして、二人と別れてしばらく歩き続けると分かるのは出歩いている人の少なさ。

 まばらではあるけれど、まだまだ人はいるのでそこまで不安にはならないと思う。ただ、もう少し時間が経ってからだとどの程度人が居なくなるかわからないのが難点か。

 

「んー……近道しようかな」


 あまり回り道になるような所を通るよりかは近道をして早く戻った方がいいのではないか。

 そう考えて思い出すのは昨日の自分。

 確か、近道しようと裏道を通って人質になったのだが。


(――前回失敗したのは、人通りが少ない道を通ったからだし!)


 ならば、この時間でも人が多そうな所を通ればいい。

 その考えに至ったところで視線の先にあったのは公園。

 

 その公園は幽世でガーネットにベンチで膝枕された場所で、結構広いおかげで遊んだり休んだりできる場所が多いため、犬の散歩に近所の子供や老人の憩いの場所になったりと、日中は常に人がいるような場所だ。

 こんな状況でも、誰かしらいるだろうと思って進路をそちらへと変更する。

 公園をまっすぐ突っ切れば、普通に帰るより数分くらい短くなりそうだし。


 ふと、公園に入った時に何か違和感のような物を覚えたが、気にせずに公園の中を進んでいく。

 もっともすぐにそれを後悔してしまったのだが。


「おや、こんな所で出会う事になるとは奇遇ですねぇ。

 いやはやもう少し経ったらお嬢さんの通う学校を訪ねようと思ったのですが、手間が省けました」


 見覚えのある人影が公園の真ん中に現れたのだ。

 シルクハットにペストマスク、ダークスーツに杖を持った悪魔、ビフロンス。

 徐々に色がつくように現れたので幽世から現れたのだろうか。


「昨夜ぶりですね、お嬢さん。元気にしていましたか?」


 私は返答の代わりとして全速力で回れ右をしたのだった。

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