壱ノ五 焔の憂い
目が覚めると、夜になっていた。
焔は今朝の出来事を思い返し、鉛のように重たい溜息を吐き出した。
人間の体に閉じ込められるという原因不明の異常事態。そして、少女との接触。――本当に、厄介な事になった。
件の少女は、今は
しかし、そこで焔は思い直す。
――矢張りこの少女は、異常だ。
彼女にとって――多くの人間にとって、妖怪とは空想の産物という認識でしかない筈だ。妖怪という単語が持つ意味合いや、そこに含まれる多種多様な分類を知っていたとしても、それは所詮創作物の範疇を出るものではない。
妖怪である焔の観点から見ても、それは無理からぬ事であるように思える。
数百年前と比べて、人間と妖怪が接触する機会は格段に減った。人間の文明の発展に伴い、未知が既知へと昇華されていくに連れて、信仰や畏怖に
そういった時流の中で残った者達も、不用意に人間の前に現れるような真似は
今も
人間の寿命は短く、今や実在の妖怪を知る者は
そのような状況下では、妖怪という言葉の響きが本来の意味を
現代に
最初の反応を鑑みるに、彼女も妖怪の存在を知らない大多数の内の一人であったことは間違いないだろう。
しかし、それにしては事態を受け容れるのが余りにも早過ぎる。
違和感には、接触して
もともと幽霊さんなのかなって思ってたくらいだし――という少女の弁が思い起こされる。あの時は深く掘り下げても
少なくとも焔の知る限りでは、人間とは未知に対してそれ程寛容ではない。現代に生きる人間にとっての一般的な感性では、非日常との
この少女からは驚愕や困惑の様子は伝わってきたものの、彼女にとって常識の
無論、人間の中には非常に順応性の高い――焔に云わせれば
しかし、この少女は妖怪に
確かに焔は
更には、
己の肉体を他者が動かすことを、
此処は
焔はまた一つ長い溜息を
仰向けで眠っている少女の右腕を持ち上げてみる。長年車椅子を扱っているせいか、小柄で華奢な体格に比して、彼女の腕はやや筋肉質だった。その対比は、見る者に
月光を透かすように天井に向けた掌を、握り拳へと変える。
脚に至っては――この
果たして、この躰と折り合いを付けながら脱出の方法を探ることが出来るのだろうか――考えれば考える程に、憂慮の種は尽きない。
『――飛んだ
声に出して呟いた焔は、それ以上の思考を放棄して、
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