壱ノ二 焔
耳障りな話し声で目が覚めた。
元来夜行性である焔にとっては
氷室病院入院病棟五〇三号室――それが、今の焔にとっての
焔は同居人――本来の部屋の主である少女の様子を窺う。今し方診察を終えた
この二週間で、焔は彼女に就いて様様な事を知った。
名は猫宮ほたる。年齢は十六歳。儚げな雰囲気を
生来の病気が原因で、幼い頃からこの病院に入退院を繰り返しているらしい。その病はこれまで確認されたことのない全く未知のものらしく、未だに治療の目処も立っていないようだった。病気の影響で足腰が弱く、移動に際しては常に車椅子を使用していた。
彼女は基本的に一日の
親族を始めとする彼女の周りの人間関係に
彼女自身が己の境遇をどう思っているのか、焔には能く判らなかったが、対外的に明るく振舞おうと努めている様子は
物憂げな表情で独り重たく溜息を吐く彼女と、曖昧な笑顔で何かに媚びるかのように人当たり良く会話に応じる彼女――その二面性を垣間見た焔は、餓鬼の癖して難儀な性格してやがる、と淡泊な感想を抱いた。
彼女の境遇を不憫に思わないこともなかったが、
ともあれ、そんな彼女との或る種の同棲生活にも、
医師による加療こそ受けないものの、焔が此処に身を置いていたのは、この病院という場所に最も即した目的――
二週間前――あの嵐の夜に負った傷。此処に
(
改めて少女の様子を窺う。彼女は未だに心此処に在らずといった様子で、窓の外の一点をただ
少女の
少し許り悩みはしたものの、そういった打算的な考えの上に、焔は本の僅かな危険性よりも己の欲求を優先させることを選んだ。
此処から脱け出すのに、物理的な動作は必要ない。意識を集中し、水に融け込んだ肉体を一から再構成するような
(……何?)
焔は
脱出を試みて初めて気が付いた。
――外に出られない。
『
想定外の事態に、焔は思わず声を上げた。直後に、しまった、と思う。
「……だれ?」
その問いを発したのが誰なのかは、確認するまでもなく明らかだった。
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