第8話
仏や墓前に供える水のことだ。閼伽だけでも通じる。
スマホに入った電子辞書で確認し、ううんと唸った。
あがさま、あか。
池と水。なんとなく答えのような気もするが、余計にわからなくなってくる。魅入られるとはなんだ。
まあまだ話が一つしか集まっていない、まずは集めまくるしかないなあと思い、真澄はこの夜は寝ることにした。
民俗資料館は民宿からバスに乗って三十分ほどのところにあった。
民宿やあのあがさまの村よりは都会だ。
駅前にあったベローチェに入り簡単にフライヤーを見直す。土偶にはあまり興味がない。それでも歴史の教科書に載っていたような写真に再び出会って、なんだかかわいいかもしれないと思い始めた時だ。
「藤堂さん?」
声をかけられ顔をあげれば、若い女性が立っていた。グレーのスーツ姿のその人は大人しそうな栗色の髪の可憐なひとだった。
「民宿のお客さんね、わたし智枝です」
「今日はよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると智枝はふわっと微笑んだ。
「こちらこそ。
大学でこの辺の歴史調べるんだってね、この辺何にもないから困ったでしょう」
「そんなことないでしょう」
思わず強く言葉が出た。そのことが少し恥ずかしく、モゾモゾと次の言葉を続ける。
「魅力的な……伝承を見つけて」
そんなのあったんだ、と彼女は微笑んだ。
「でもねえ藤堂さん」
微笑んだまま彼女はパンフレットを渡してくれた。これから行く民俗資料館の。
「あがさまだったらやめた方がいいよ」
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