第5話
ほんの小さい頃に、河童にあった。
たしかイチゴ狩りにと家族で関東の北のほうへ出かけたときのことだ。関東といえど山間の町でイチゴ狩りができると言うことでわたしはそのイベントをとても楽しみにして前夜あまり眠れなかった。
それがいけなかったのだろう。
いちごをたらふく食べてハイキングコースの木漏れ日揺れる小川(と言っても都会育ちのわたしには随分立派な川に見えた)のそばで休憩をした時……父母も油断したのだろう。小川の淵のそこそこ大きな岩に腰掛けたわたしは、うとうととしだす。父母はレジャーシートを……あれは片付けていたのか、それともこれから使うのだったかは覚えていない。二人が風に遊ぶビニールに気を取られた隙にわたしは腰掛けた岩からバランスを崩し背中から川に落ちた。
何が起きたかわからない。苦しくて口を開ければ水で肺が満たされた。
背中をごつごつと岩がぶつかっていく。流されているのだろう。幼いわたしはただ痛くて苦しくて声にならなかったが母を呼んだ。小川は意外に深い淵を持っていた。
背中を、押された。
あたたかなやわらかいなにか手のようなもの。
それが胸を強く抱きしめる、口から水が噴き出してえづくわたしに構わずそれは強く強くわたしの背中を川の底から上へ上へ突き飛ばした。
気づくとわたしはずぶ濡れで河原の草むらに座っていた。
大人たちがわあわあと走ってくるのをキョトンと見、肺の中にいっぱい空気を吸って川を振り向く。ぱしゃん、と赤い顔が水面に沈んだ。
遠野の河童の顔が本当は赤いのだと知ったのは、高校の時だった。
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