第三世

第五話 鴉

 ここにカラスが一羽 りました。

 名は何と申すのか、知らずともい事でしょう。

 このカラス、負けず嫌いで自身に厳しい者でした。

 その性格には息苦しい事だったのですが、片方の翼が折れ、思うようには動けぬのです。

 出来ない自身を何度も責め、悔し涙を抑えることが多々ありました。

 今やその翼さえ見せぬがごとくではありますが、時折此処へ遠方から声を鋭く届かせるのです。

 苦の不滅をどう見やろうかとさえ苦にするをどう見ようとするでしょうか…カラスにとっては口角を上げるのも速いでしょう。

 他より不利を生きるのは、どうしても歪んでしまうモノもあるというもので。

 そうそう、丁度 カラスの片翼がその不利とやらと言えるでしょう。

 しかし、カラスは長いことこの苦と共にりましたので、他より上手く息を吸うのです。

 自身が沈んでしまった後の、立ち上がり方を心得ておる、というだけのことですが、周囲に心をます者の声も在り、聞くほどそれらが面白い。

 ああ、なんて馬鹿らしいのでしょうか……と。

 その分、甘味は嫌いになってしまいました。

 ある日、周囲の者と共に、スポーツとやらに手を伸ばしました。

 一羽不利であっても、それを理由に逃げようなぞ、何処の甘味にございましょうか。

 折れた片翼で必死にもがくがカラスの姿。

 して、結果はやはりと想像もつくでしょう。

 深い悔し涙を呑み込み、口角を上げまして、周囲の者から遠く離れておりますると、大人一人がカラスへ近寄るのです。

「(来るな。)」

 ただそう願えどもその足止まらず。

 その者申すには、甘味であった。

 カラスは外側だけそれらしく見せまして、心の内でその者を心底嫌いました。

 何故って?

 先ほど止めた涙がじわりじわりと浮かび、止まらなくなるのですから。

 嗚呼、思い出すと息苦しい……あんた様にゃわかりませんよねぇ?

 いやいや、いのです。

 カラスは一つ、思うのでした。

「(要らない。)」

 許されない……許せない……。

 まるで恐れて踏み留まるように。

 れをある者はこう申すのです。

「強い。」

 と。

 しかし、カラスはとてもとても……それはもう何と表しましょうか、弱く脆い者なのです。

 他人の言葉で寧ろ立てなくなる性格なので、他人の優しさを無駄にする事も多いので、顔だけしっかり演じておくのです。

 それでカラスが、他人が、あるいは両方がこうを手にする時は来るのでしょうか?

 いなこうれにも収まらず。

 それからどうなったのかって?

 あまり良くは無い話、カラスは自殺を計画し、実行に移りました。

 何がそうさせたのか、おわかりでしょう?

 この息も難しい世の中で、休まる心はカラスにあらず。

 いくらカラスが立つ心得を手にしていると申せど、誰にでも限界というモノは存在するのですから、カラスは遠く泣きながら、縄を首にかけました。

 カラスが命を捨て逃げるのが下手だった、と申せば結果はまれましょう。

 なかなかその首、吊ることが出来ずにとうとうその縄を外してしまいました。

 聞いた甘味が後から後から胃を満たし、迷子になった心は答えを求めるのみ。

 生き物には必ず一つ一つ、出来ぬ事が存在しますが、そこでやっとカラスは甘味の一つを覚えました。

 カラスが今までのように悔いながらでも、そこにまた立ってるというのは、元の性格だけとは申せませんね。

 こうとまでは表せませぬが、カラスは心底楽しそうに笑むのです。

 もう二度と、死のうという心を持つこともなく、カラスは前より上手く息を吸うようになったそうな。




 この甘味、く事は出来ませぬが、あんた様には必要そうだ。

 今更の事ながら、問うや声やと申しましたが、春夏秋冬には関係の無かったこと。

 カラスはよく歌うのです。

『ただ一つを見るのみは盲目』と。

 探し物は見つかりそうにありませんが。

 何せあんた様へ申しながら、懐かしさのあまり心が重くなりつつありましたから。

 ささ、もう少々参りましょう……。

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