第二世

第三話 狐

 ここにが一匹 りました。

 名が何と申したのか、れに聞きましょうかね。

 この、嘘が得意でよく誰かを騙していたようで、村の者からは良い目で見られることは少なかったのです。

 今やの姿は見る事叶わず、しかし時折ときおり此処へ声を響かせるのです。

 こうを求め不幸を得る容易さは、何と例えましょうか……にとっては笑むことも出来たでしょう。

 長くに渡り雨が降らず、田畑が干上がり農作物が育たぬ苦。

 困った村人は神に生け贄をさしだし、雨乞いをしようと計画をたてはじめました。

 何を生けにえにしようかと悩む目に、一匹 が映りました。

 見えぬまこと、嘘とはそういうモノで、誰も気付きやしない。

 そのを生け贄にしようと目を細めるのでした。

 さてさて、そうともなればどうを捕らえてやろうかという話です。

 よく騙すその方を、逆に騙してやろうと誰かが一つ、申しまして。

 ある若者が、へ結婚を持ちかけました。

 交流を深める内、若者かれは心を通わせるようになったように見えてきた。

 夜になれば、明日あすはまだかと、ゆうになれば、時よ止まれと想いに想う。

 しかし、は気付いていました。

 この若者には、その心が無いのだと。

 その若者の心はにあらず、の命にあると。

 見えぬまこと、嘘を誰よりも知っているのです。

 それでもは、知らぬ振りを続け、ただただその若者を想いました。

 その苦しささえ幸せと言い聞かせて。

 は、村の為、若者かれの為に生け贄となる決意を抱き締めて、一歩、一歩と若者かれから離れて行く。

 その背を若者かれは追うように手を伸ばし、叫んだが、はそっと笑んだのみ。

 いつしか若者かれの心には、いつわりではない想いが巣を作ってしまっていました。

 赤く染まったそののちに、幸せそうに笑む目から、の涙が静かに流れ落ちました。

 その次の日、晴れた空から突然村中に雨が、の涙のように優しく、静かに降り注いだそうな。



 の恋とに降る雨は、優しいのみとは申せませんがね。

 夏の雨には問うより先に、感じるんじゃありません?

 はよく呟くのです。

[嘘なんて見えぬまことばかりじゃない]と。

 最期さいごまで隠し通すにはどうすればいいのか…若者かれの心もどうなったのか……。

 そんな事より、どう息継ぎしましょうか?

 ゆるりと行きましょうや。

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