第一世

第一話 猿

 ここにマシラが一匹 りました。

 名は何と申すのか、それはれに聞きましょうか……。

 子の時からとても頭の賢く、何でも器用にこなす者でした。

 今やマシラの姿は見えぬが、時折ときおり此処ここへ声を寄越すのです。

 今が過去へと変わるのに、何が必要だったと言うのでしょうか……マシラにとっては面白いことこの上なかった筈。

「なぁ、けってのをしてみません?」

「賭け?」

 んだ口から流れた言葉は彼を一度振り返させた。

「テメェに賭けるモノはあるのか?」

「さぁて、何を賭けましょうかねぇ?時間、とでも言ってみましょっか?」

 何を意味のわからぬことをと首まで傾げさせて、マシラはクツクツと笑った。

「俺の首が飛ぶか、あんたの首が飛ぶのか、予想を当ててみましょうか。きっとあんたの首が飛ぶと思うけれどね。」

 トントンッと自身の首を手の側面で叩きながら、嫌な目を見せつける。

 あぁ、不快な事この上ない。

「それじゃ、テメェの首が先に飛ぶと予想しとくぜ。」

 苛立ちを声に出しながら、彼はそうマシラに答えを出した。

 彼はマシラが賭け事に強いとは知っておりながらも、このいくさの世……言う事賭ける事、結果を出すのは自身と言えるので、今回ばかりは最後の賭けだと答えただけの事。

「お互い時間を賭けて…勝った方にはこうをってね。最高だとは思いません?」

「テメェの言ってる事は毎度わからねぇ。」

「どちらが先に死ぬのかって賭けだから、首さえ飛ばなけりゃいいってもんでもないけど、どうせなら首は飛ばされたくないね。」

 話を合わせる気も無いようで、教える言葉も残さずにそう言って、いつの間にか姿を消していた。

 彼は溜め息をき、そう終わらせた。

「成る程。」

 興味を惹かれるわけでもなく、そうとだけ返答を寄越す。

 その賭けから三年経ったが、彼もマシラも死ぬことも無く、そもそもマシラがそれを覚えているかもわからず。

 しかしこの話を知る者は増え、気に留める者も居る。

 マシラには守るべきお人も居るだろう。

 彼にも守るべきモノがるわけだ。

 その間に戦が何度あるのだろうか?

 その時は今まさに。

 雑音が響くこのうずの中、二つ目立つ赤が散った。

 地に落ちて、赤は並んだままくうを見やる。

「あの世は……どんな所であろうか………?」

「……どんな所だとしても…俺はあんたと共に。」

 目を閉じたのは同時だった。

 赤がもう一つ散り落ちた。

 戦が終わり、一年経った秋の地。

 あの話が再び流れた。

「あの賭けは、結局どうなったんだ?」

「あぁ、アイツは賭けには勝ったが、勝負には負けたんだ。」

 守るべきお人のそばで死んだマシラの顔は心底幸せそうだったそうな。



 マシラが彼に持ちかけたのは賭けのみではなく。

 意味がわからぬと言うつもりなら、秋のにでもうてみて下さいね。

 マシラはよく笑うんですよ。

『最初から結果はわかっていた』と。

 最期さいごまで幸せだと言うには、何が必要なのか…彼とマシラの何が違ったと言うのか……。

 そんな事はどうでもいいんですよ。

 最期まで、どう生きましょうね?

 さぁ、お次は…

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