純白

 結局その後、僕は病院へ行った。医者の言う通り1日だけ学校を休み、家で安静にした。

 しかし、真っ白なあの子の事が気になってよく眠れなかったので、放課後練習の見学前に保健室に寄ってみる。

 *

「左足はどう?少し良くなったかしら」

「はい、一昨日より回復しました。ありがとうございます」

 まだぎこちない、右に体重をかけた歩きで保健室に入った僕は、保健室の先生と対面した。自分の限界を顧みないせいでとっくに愛想尽かされたかと思っていたが、意外にも心配してもらえた。

 長椅子に腰かけたまま、話を続ける。

「それで先生、お聞きしたいことが…」

「何?」

 先生がそう言うと、僕は一呼吸置いて口を開いた。

「先生が処置をして下さった時にいたもう1人の生徒ですけど…こう、雪の様な女の子で…」

「ああ、あの子なら中等部の1年よ。もうすぐ戻ってくるは…」

 言い終わらないうちに、ドアが開いた。

 うちの学校のセーラー服を着た少女が、そこに立っている。背中まである白髪ロングヘアに、透明なくらい白い肌。身体はとても華奢で、背丈も少し低い方だろう。

 間違いない、あの子だ。

 一昨日は目を合わせられなかった灰色の円らな瞳が、訝し気な様子で見つめていた。

「一昨日、捻挫してた生徒よ。高等部の1年」

頷く。定席なのか、その子は同じベッドの奥の席に着いた。

 その直後。インターホンが鳴る。

「そこで待っててね、すぐ戻ってくるから」

 どうやら急用らしい。どちらに言っているのか、そう告げて廊下を駆けていった。

 暫くの沈黙。

 ずっと気になっていたんだ。折角の2人きりだし、まずは名前を訊いてみる。

「えっと、こんにちは。僕は柊翔シュウト尾嵜柊翔オザキシュウト。君の名前は?」

 すると、彼女はとても小さな声で答えてくれた。

柄本ツカモト優璃ユウリ、です…」

「いい名前だね。よろしく、優璃ちゃん」

 優璃はコクンと頷いてくれる。

 僕にはそれが、嬉しくて堪らなかった。鼓動が弾んでいる。

 いつの間にか、サッカー部の練習見学をすっかり忘れてしまった。

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