171 メテオラの魔法ノート その二

 十一階に落ちるとメテオラは螺旋階段の付け根あたりを見た。そこにはカタリナがいるはずだったが、その場所にカタリナの姿を見ることはできなかった。

 きっと孤児院にある自分の部屋に帰ったのだろう。迷子のカタリナが、きちんと友達と再会できていたらいいな、とメテオラは思った

「にゃー」 

 胸の中にいるスフィンクスが鳴いた。

 その声を聞いてしまったとメテオラは思った。スフィンクスのことをすっかりと忘れていた。

「ごめんね、スフィンクス」とメテオラはスフィンクスに誤った。

 スフィンクスは鼻を鳴らして、あとはお前に任せる、と言わんばかりにその顔をローブの中に引っ込めた。 

 メテオラはそんなスフィンクスを見て一度だけ笑うと、今度は真顔になって、魔法の杖にまたがった。

 その姿勢のまま上を見上げると、もう何人かの魔法使いが空の中に飛び出していた。

 先頭はマグお姉ちゃん。

 その背後にはアビーとデボラ。ニケー先生の姿もある。……でも、さすがに誰も間に合わない。マグお姉ちゃんでも無理だろう。 

 だから僕しかいない。

 モリー先生を救えるのは、僕一人しかいないのだ。

 メテオラは下を見る。

 そこには落下中のモリー先生がいた。

 モリー先生とメテオラの落下の速度には、ほんの少しだけずれが生じていた。それは魔法力の力だった。

 魔法力が空っぽになったモリー先生は重力の力を人間と同じように完全に受けてしまうので、魔法力を残しているメテオラよりも落下の速度が速いのだった。

 メテオラは空の中を最高速で加速した。

 こうして加速することだけなら、メテオラは得意中の得意だった。

 なにせ魔法力を暴走させればいいのだから。

 メテオラは一瞬でモリー先生のところまで移動した。

 そしてメテオラはモリー先生の手をつかんだ。

 モリー先生はメテオラが思っていた以上に軽かった。

 よし。作戦の第一段階は成功です。

 あとは第二段階がうまくいくかどうか……。

 メテオラは暴走した魔力を抑えて、空の中に浮かぼうとする。でも、その飛行術にメテオラは今まで一度も成功したことがなかった。

 空を飛ぶ種族である魔法使いなのに、一人で空が飛べないからこそ、メテオラは落ちこぼれの魔法使いだったのだ。

 でも、この日、このとき、この瞬間は、本当の本当に絶好調だった。

 メテオラはモリー先生の手をつかんだまま、空を飛んだ。

 空が飛べない魔法使い、メテオラは、この日の夜、生まれて初めて、たった一人で空を飛ぶことに成功したのだった。


 メテオラの魔法ノート その二


 ギフト(贈り物)について


 根元の海の偏りによって、いわゆる『大きな雫』としてこの世界に生まれ落ちてきた数奇な運命を背負った魔法使いたちのこと。

 その大きな才能の代わりに、大きくなにかを欠落、及び成長、成熟に時間がかかる傾向にある。

 いわゆる天才と呼ばれる魔法使いたちのことを指す言葉。


 魔法使いの瞳と血について


 魔法使いの特殊な魔法はその魔法使いの瞳に宿るが、魔法使いの研究の上位に位置するような原初の魔法はその『魔法使いの血』に宿っていることが多い。

(そもそも固有魔法は、その血の中から失われた原初の魔法が、数代の血系を経て、個人の中で稀に復活する現象のようだ)

 いわゆる血系であり、原初の血。あるいは純血種、希少種とも呼ばれる。黄金の民がその血を守ろうとするのはこのためであり、銀の民が汚れとして嫌われていたのも、この血のためである。

 新しい魔法の森には存在しないらしいのだけど、実際には不老不死の力を宿す不死鳥や死者蘇生の力を持つとされる麒麟と呼ばれる一角獣、言語を話す千年を生きる古龍といった、それだけで一生の魔法使いの研究になるような力を秘めた魔法使いの一族の生き残りも、この広い世界のどこかには存在しているらしい。

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