135 過去と未来をつなぐもの

 過去と未来をつなぐもの


 魔法の森には一年を通じて四季が存在し、その季節に合わせて魔法使いたちは四つのお祭りを行う習慣があった。

 冬の精霊祭は、そのの四つのお祭りの一つだ。

 このお祭りには特別な理由がない限り森の魔法使い全員が自主的に参加する。これは『基本的に単独行動を好む』魔法使いにしてはとても珍しい行動だった。本来であれば大規模な複数の契約が必要になりそうだが、そうはならない。みんなが自然と集団行動をとれるのだ。なぜお祭りのときだけ魔法使いが自然と団体行動がとれるのかは今も解明されておらず謎のままとなっていた。

 そんな不思議な習性に守られて問題なく毎年続けられているこの伝統的な四つのお祭りなのだけど、古き森の時代に比べて新しき森に住処が移ったことで、いろいろと変化したところもあった。

 たとえば春に行われた千年祭というお祭りでは、本来の意味である森のみんなで集まってお花見をして春の到来と魔法使いの永遠の幸せを祝う、という目的のほかに、その開催地である『北の山』まで集団で飛んでいき空渡りの予行練習をする、という新しい目的が付け加えられていた。これは簡単に言うと『避難訓練』を兼ねているということだ。

 それはアスファロットの厄災によって突然の空渡りを余儀なくされた九年前の反省と教訓から考えられたことだった。

 春の千年祭はその華やかさから四つのお祭りの中でも人気が高いのだけど、メテオラはそのお祭りが苦手だった。その理由はいうまでもなくメテオラが空が飛べない落ちこぼれの魔法使いだったからだ。

 お祭りのとき、メテオラはマグお姉ちゃんの杖の後ろに、ニコラスはニコラスのお母さんの杖の後ろに乗せてもらって北の山まで飛んでいった。

(このとき、アネットがどうしていたのかは、メテオラもニコラスも知らないことだった)

 それはなかなかに恥ずかしい経験だった。

 最初は大勢いた保護者同伴の同年代の子供たちも、だんだんと自分たちで空を飛ぶようになり、その数を減らしていき、今ではメテオラたちしか残っていない。今年こそはと思っても、空は飛べるようにはならず、結局毎年同じことが繰り返されてしまうことになるのだ。だからどうしても、メテオラは春の季節になると憂鬱な気分になってしまうのだった。

 もちろん、それは春が悪いわけではない。

 空が飛べないメテオラが悪いのだ。


「どうかしたんですか? メテオラくん」

 通信機の向こう側から、マリンがそんなことをメテオラに聞いてくる。

「いえ、なんでもありません」メテオラは言う。

「それではそろそろ一旦、通信を切りますね」マリンが言う。

「はい。わかりました。マリンさんも気をつけて」

「ありがとうございます」

 その言葉のあとで通信が終わった。

 一人になったメテオラが周囲をみると、そこには闇だけがあった。

 メテオラは気配を消して、その闇と同化した。

 するとしばらくして一人の魔法使いの姿が見えた。

 闇の中を小さな明かりが螺旋階段を上るようにして、移動している。よく見ると、その魔法使いはパーシー先生だった。

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