134
数年後に銀の民が初めて大規模な反乱を森の魔法使い、とくに支配階級である黄金の民に対して起こした。
その反乱は北の王国の騎士団と合同で出陣した森の魔法使いたちによって、すぐに鎮圧された。
魔法使いはその魔法を戦争の道具として利用し、かつ北の王国の他国への侵略に協力するという形で、二つの種族は他種族という垣根を超えて、融合しようとしていた。
アスファロットの発明した魔法具も戦争の道具として利用された。
通信機器、飛行機械、爆弾、兵站の道具、武器や防具、とありとあらゆるものに魔法具は役に立った。
それはアスファロットの望んだ魔法具の使われかたではなかった。
しかしそれは誰にも止められない流れだった。
時代は、嵐の時代だった。
その巨大な嵐にアスファロットとミーティアだけではなく、世界中の生命が巻き込まれ、振り回されていた。
北の大地に根付く竜族が討伐され、南の大国は滅亡して、北の王国は世界の一地方の支配を成し遂げた。
だけどそれはさらなる世界戦争に向かう序章に過ぎなかった。
魔法具の発明と、その戦争目的としての利用で、多大な功績をあげたアスファロットはこのとき、大魔女アサツユのあとをついで、史上初めて、魔力を持たない、魔法が使えない魔法使いとして、森の魔法使いたちの代表である大魔法使いとなった。
しかし、そこにアスファロットの幸せはなかった。
アスファロットの秘密の結婚相手である北の王国のお姫さま、ミーティアはこのときすでに、この世界からあちら側の世界に旅立ったあとだった。
人間と魔法使いの神様は違う。
人間は死後に天国にいくが、魔法使いは根源の海に還る定めにあった。アスファロットとミーティアの二人は、これからどんな奇跡が起ころうとも、永遠に出会うことはできない運命だった。
北の王国が森の魔法使いと連合を組んで、中央に侵略を開始する際に、アスファロットは森と王国に対して大規模な反乱を起こした。
それは銀の民や、竜族の生き残り、人間たちの反乱組織を巻き込んだ大戦争となった。
結果、森の魔法使いと北の王国の連合軍とアスファロットの反乱軍は双方、とも倒れとなった。
……それから約十年の歳月がたった今では、豊かな土地だった北の大地はなにもない不毛な大地に変わった。
あらゆるものが燃え尽きて、あらゆるものが灰になった。
アスファロットの死体も見つからず、ミーティアのお墓も燃えてなくなってしまった。
すべては記憶の中に……。
夢を追いかけて、愛を求めた孤独な魔法使いとお姫さまの物語は、こうして一度、歴史の闇の中で幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます