106
いつもならここでアビーといつも一緒にいるデボラがなにかおしゃべりをしたり、メテオラやニコラスが、モリー先生の話題を出して、モリー先生はどこに行ったの? とかあるいはアビーは飛行術がとても上手だけど、なにかコツとかあるの? とか、あるいはどうしてアビーがモリー先生の小屋にいるの? とかそんな会話をメテオラたちはしているはずなのだけど、なぜかこのときはメテオラもニコラスも、アビーも黙ったままだった。
メテオラたちが無言でいる間、ざーっという雨の音だけが部屋の中に聞こえていた。
やがて、ニコラスはうとうとし始めて、そのまま窓際のところで眠ってしまった。
眠ってしまったニコラスに、アビーは毛布を用意して、それをそっとニコラスの体にかけてくれた。
モリー先生の小屋の中で起きているのはメテオラとアビーの二人だけになった。
突然の大雨となった外の天気は、それほど長い時間もかからずに一旦降り止むか、もしくは止まないとしても雨の勢いはすぐに弱くなるだろう。
今の雨はフライングのようなもので、本当の本降りになるのは、もう少し時間が経ってからだ。そのときを見計らって、メテオラたちはそれぞれの家に帰ればいいだけだ。
だからメテオラはここでじっとして雨が止むのを待っていればいいだけのはずだった……。
でも、本当にそれでいいのだろうか? という疑問がメテオラの頭の中に浮かんでくる。
ずっとアビーが黙っているのは、なにか僕の言葉を待っているからじゃないのだろうか? とそんなことを根拠もなくメテオラは思ってしまうのだ。
この時間は僕とアビーのために神様が用意してくれた時間ではないのだろうか? そんなことをメテオラは頭の中で考えていた。
それは時間が経てば、機会を失ってしまう今しかない時間だった。時間が経てば経つほど、消えていってしまう言葉だった。だから今しかない。今しかないのだけど……、なにを話せばいいのかわからない。
ここで僕が取るべき行動……。言うべき言葉……。それは、いったいなんだろう?
そんなことをメテオラが考えていると、アビーが先に言葉を紡いだ。
「……僕がモリー先生の家にいるのは、僕が銀の民の混血児だからなんだ」
アビーの言葉を聞いて、メテオラはアビーのほうに顔を向けた。
そこにはアビーの水色の瞳があって、そのアビーの頭にはモリー先生と同じ銀色の髪の毛があって、アビーはモリー先生と同じような目をして、自分の姿を見ているメテオラの顔をじっと静かに見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます