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「アスファロットは魔法が使えない自身のために、魔力がなくても使える魔法として、あらかじめほかの魔法使いの魔力を保存しておくことでそれを『擬似的な魔法』として使うことができるという奇跡の道具『魔法具』を生み出しました。その奇跡を可能にしたのは彼の才能はもちろんですが、その並外れた努力と集中力にあります。それだけ強い志をアスファロットが保てたのは、彼がほかの魔法使いから魔法が使えない魔法使いという負のレッテルを貼られて、『差別』を受けていたからでした。その感情が魔法具という奇跡の発明を生み出し、数年で森の魔法使いたちの生活を変え、そして彼は新しい森の魔法使いの代表として大魔法使いとなり……、それから彼はその力を使って世界のすべてを焼きました……。それは自分を拒絶した魔法使いたちに復讐をするためです。アスファロットはずっと、その笑顔の下に世界への怒りと憎しみを隠していました。そして残念なことにその事実に気がつくことのできた魔法使いは森には誰もいませんでした……。これが森で語り継がれている大魔法使いアスファロットの伝説です」

 マグお姉ちゃんはそこまで話して言葉を止めた。

 そのあとしばらくの間、小屋の中は沈黙する。

「なんだか……とても悲しいお話ですね」とアネットが最初に口を開いた。「ええ、そうですね」とマグお姉ちゃんは言う。

 マグお姉ちゃんは古き森が実際に燃える風景を見ている。マグお姉ちゃんはアスファロットの厄災を実際に体験しているのだ。そのときの記憶をもしかしたらマグお姉ちゃんは思い出しているのかもしれない。  

 ……森がすべて焼けていく。……世界が真っ赤な色に染まっていく記憶。

 メテオラは地下の図書館から借りた大魔法使いアスファロットの伝説の中の描写を思い出しながら、そんな世界を空想した。

 先代の大魔法使いアスファロットが世界を燃やした話……。悪の魔法使いアスファロットを倒したあとで、自分の自由を捨て、森のためだけに生きている現在の大魔法使いであるソマリお兄ちゃんの話……。そして魔法樹の苗の栽培を成功させた天才魔法使いマシューの話……。

 いろんな話をメテオラは思い出した。

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