57 時計の間

 時計の間


「さあ、見えてきました。あそこが本日の目的の部屋。私たちが初めて全員で顔を合わせる場所になる記念すべき部屋ですよ」

 シャルロットは笑顔で薄暗い通路の一番の奥にある大きな両開きの扉を指差している。

 そこは地下の図書館の閲覧室として使用されている通称『時計の間』と呼ばれる大部屋だった。室内には本を読むのに十分な光が灯されており、その真ん中には大きな丸いテーブルとそれを囲むように複数の椅子が置かれている。

 椅子の数は全部で十二個。

 ちょうど丸時計の数字と同じ場所、同じ配列で等間隔に十二個の椅子が置かれていて、ご丁寧に椅子とテーブルには数字まできちんと彫ってある。この部屋が時計の間と呼ばれる所以だ。

 その12時、1時、2時、の場所に魔法使いの姿があった。

 1時の席にデボラ、2時の席にアビー、そして12時の席に、眠たそうな眼をした小柄の男の子が座っている。

 あの子が噂の『天才魔法使い』マシューその人なのだろう。

 魔法の森に住んでいる魔法使いなら誰もがその名前を知っている天才魔法使いマシュー。メテオラたちはマリンからマシューの名前を聞いたとき、話題には出さなかったけど、それがあのマシューであることは当然のように三人とも察しがついていた。

 一説にはソマリお兄ちゃんのあとを継いで、次の大魔法使いになるのはマシューだ、という話は森の大人たちの中では、すでに当然と言った様子で話がされているらしい。

 そんな天才魔法使いマシューは、半分閉じかかっているその薄紫色の瞳をメテオラたちに向けている。

 それから軽く片手を上げて「やあ」と口にしたあと、ずるずると椅子から滑り落ちてマシューは床の上にそのまま落ちそうになった。

「マシューくん。眠いならちゃんとベットで寝ないとだめですよ。床の上で寝るのはいけません」

 シャルロットがマシューを起こしにかかる。手慣れた手つきだ。きっとこんなことはシャルロットにとっては日常茶飯事のことなのだろう。

 だけどそんなマシューの行動に慣れていないメテオラたちは、噂の天才の虚像と実像とのギャップに戸惑いのようなものを感じて、少しあっけにとられていた。

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