56 魔法の森の用語辞典 魔法使いのルール破り

 メテオラたちはシャルロットに自己紹介をすると、シャルロットの案内で地下の図書館の中に入っていった。

 黒曜石で作られた石造りの構造であることは魔法学校と同じだが、魔法学校の中にはどこか古いお城のような雰囲気があるのに対して、地下の図書館の中はまるで罪人を閉じ込めておく牢獄のような薄気味悪さを感じた。

 実際に地下には牢獄もあるので、もしかしたらこの地下の図書館も、以前はそのような用途で使用されていた場所なのかもしれない。

 図書館が不気味なのは昔からずっとそうで、魔法学校で暮らしている孤児の魔法使いたちは地下の図書館に行くのを嫌がるくらいだった。

 そういうメテオラも数年前まではこの場所が苦手だったし、今も得意というわけではない。慣れてきたとは言っても多少の不気味さくらいは感じてしまう。ここはそういう場所なのだ。

「図書館にはお化けが出るって噂があるんですよ」

 シャルロットがそう言うと、ニコラスとマリンが「え!?」と言って、震えるようにして怖がった。二人の様子を見て、シャルロットは少し面白がっているようだ。そんなシャルロットをアネットが注意する。

「すみません、アネット姫さま」シャルロットがアネットに謝った。

「シャルロット。謝るのは私にではなくて、二人にでしょ?」アネットが言う。それからシャルロットは優雅に頭を下げて、ニコラスとマリンに謝罪をした。

 そんなやり取りを横目で見ながら、シャルロットの話を聞いて、メテオラはふと今朝、自分が星組の教室で見かけた見知らぬ魔法使いの正体は目の錯覚じゃなくて、もしかして『噂の幽霊』だったのかもしれない、と突然思い至った。

 魔法学校に幽霊が出るという噂はシャルロットの冗談ではなくて、実際に昔から魔法学校で噂になっていることだった。


 魔法の森の用語辞典


 魔法使いのルール破り(ルールブレイカーズ)

 

 デボラとアビーの困ったいたずらコンビのこと。よくいう言葉は、僕たちは最強だからね(デボラ)、僕たちは最強だよね(アビー)、と言う。

 魔法の研究、あるいはいたずらのためなら、魔法使いのルールを平気で破るその姿勢は問題視され、いつしかデボラとアビーの二人は魔法使いのルール破り(ルールブレイカーズ)と呼ばれるようになった。

 そんな不名誉なあだ名で呼ばれるようになっても、デボラとアビーの二人に反省の色はなかった。(むしろ、そのあだ名を名誉な称号として、喜んで受け入れている節もあった)

 魔法使いのルール破りは今も、魔法の森のルールを破り続けている。それはデボラとアビーの魔法の森の嫌われ者だった二人が知り合って、『世界で一番の友達』になった、ずっと昔からのことで、今に始まったことではないのだ。(魔法の森のみんなも、魔法学校の先生たちも、二人のいたずらをやめさせることを、半ば諦めているようなところもあった)

 

 魔法使いのルール破りのジンクス


 デボラとアビーの二人は簡単に言うと魔法の森の『トラブルメーカー』だった。そんな不名誉なあだ名を森の魔法使いたちからつけられた二人だったが、そんな不名誉なあだ名に加えて、ある一つの厄介なジンクスをこの二人は持っていた。

 それは『魔法使いのルール破りが、魔法使いのルールを破ってあらわれるとき、そこには必ずなにかの厄介な事件が起こる』と言うものだった。

(このジンクスは森の魔法使いたちの間では知らない者はいないくらい有名なジンクスで、高確率でよく当たり、魔法の森では冬になったら雪が降るのと同じくらいには常識とされている現象だった)


 魔法使いの研究室(アトリエ)


 魔法使いが持つ自分専用の研究室のこと。それぞれの魔法使いの研究によって、その特徴が一つ一つ異なる。見習い魔法使いが自分のアトリエを勝手に(大人の魔法使いのアトリエを模倣して、あるいは受け継いで)作ることもある。

 メテオラとニコラスも、自分たちの秘密の空を飛ぶための特訓場、という名前のアトリエを持っている。

 デボラとアビーの二人も、灰の谷の近くに秘密のアトリエを持っているようだ。

 とくにデボラは魔法薬の研究を得意としているため、いろんな魔法薬の材料を大量に秘密のアトリエの中に集めているらしい。

 しかも最近は、新たに魔法具オタクであるマリンが、仲間に加わったことで、そのアトリエはさらにマリンの持ち込んだ大量のガラクタで溢れ、今まで以上にさらにカオスな状態になっているようだ。

 デボラ、アビー、マリンの三人は三人ともどこか天才気質というか、大好きなことや、一つのことに集中すると周りのことが見えなくなるタイプのそんな魔法使いの子供たちだった。


 デボラは毎日のように新たな魔法薬を作り、その魔法薬でどんないたずらができるのかを考え、アビーはそんなデボラの手伝いをして、それから空を飛ぶ練習をしたり(アビーは飛行術の天才だった)、マリンは熱心に自分が興味を惹かれいる魔法具を日々研究したり、そこで得た魔法具の知識から独自の魔法具の研究を続けて、新しい自作の魔法具の製作まで行い、それを魔法の森の魔法使いたちに発表する、という日常を送っていた。

 マリンは魔法具の研究中や、自作の魔法具を完成させてその性能を試しているときなどに、にへへ、とだらしない笑顔で笑う癖があり、それからさらに実験がうまくいくと普段のマリンからは考えられないようなもっとひどい癖があって、それは……、……。(この先の文字は何者かによって消されてるようだ)

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