12 魔法の森で暮らしている魔法使いのお話 その一 星の祈り

 かなり無茶苦茶な運動をしたはずなのにメテオラは体のどこにも痛みを感じることはなかった。それはマグお姉ちゃんがメテオラの体にかかっていた衝撃を浮力の魔法を利用した旋回運動によって辺りの空中に分散して逃がしてくれたおかげだった。

 それはまさに飛行術の天才であるマグお姉ちゃんだからこそ可能だったまさに神業と呼べる技だった。

「あ、ありがとうございます。マグ、お姉ちゃん……」

 メテオラはほっと安心して、それからマグお姉ちゃんにお礼を言った。

 するとマグお姉ちゃんは返事をする代わりに無言のまま、ぎゅっと力強くメテオラの体を抱きしめてくれた。

 メテオラの顔を挟むようにマグお姉ちゃんの大きくて温かい胸の感触がして、それからとてもいい匂いがした。

 誰もいない二人だけの空の中で、マグお姉ちゃんはしばらくの間、そうしてメテオラの体を抱きしめ続けていた。その間、メテオラは少し曲がったままになっているマグお姉ちゃんのとんがり帽子の角度をじっと見つめていた。 

 メテオラはそうしてマグお姉ちゃんに抱きしめられながら、頭の中で先ほどしでかしてしまったばかりの新しい失敗の経験を思い出して、自分の魔法使いとしての才能のなさを改めて実感していた。

 ……九歳にもなって、空も上手に飛べないなんて……、こんなんじゃ卒業試験に合格なんて、できっこない……。

 そんな凹んだ気持ちでメテオラの心は満たされていく。

 魔法の森の魔法学校にて、見習い魔法使い卒業試験を受ける年を迎えて、最初の月、最初の日。その初っ端から、未だに空が飛べない落ちこぼれ魔法使いであるメテオラの学校生活には、すでに暗雲が立ち込めていた。


 魔法の森で暮らしている魔法使いのお話 その一 天体観測者 マギ


 星の祈り


 天文学者と天体観測


 空に、一つの星が輝いている。

 とても巨大な流れ星。

 輝く彗星。箒(ほうき)星。


 それは数日の間、消えることなく、昼の時間も、夜の時間も、地上からずっと観測することができた。


 そんな不思議な流れ星の流れている最後の夜


 その日、マギが夜空の星をいつものように眺めていると、あるいは、観測していると、(昼の間も見える、不思議な流れ星の見える夜など関係なく、星が大好きなマギは毎日、星空を観測しているのだ)そこにはいつもと本当にちょっとだけ違った星空があった。

 その変化にマギが気がつくことができたのは、(ほかの魔法使いたちなら、星読みであるマギのようには、星の変化に気がつくことができなかっただろう)マギが『星読み』と呼ばれている星を観察し、その結果、季節や日時を知ったり、方角を割り出したり、この先に起こる未来を観測したりすることを生涯の魔法使いの研究に選んだ、魔法使いの一人、だったからだった。

「あれ? 今日の星空はなんだか少し変ですね。どうしてでしょう?」

 うーん、と小さな頭をちょっとだけ斜めにしながら、そんなことをマギは言った。

「あそこに星があるはずないんですけど……。うーん、(何度確かめても)やっぱりある。おかしいですね。……どうしてでしょう?」

 マギは今度は逆の方向に頭をちょっとだけ斜めにして言う。

 そうやって、大きな手作りの天体望遠鏡を眺めていると、「あれ?」とマギは言った。

 その瞬間、夜空の星空から、『二つの星』が地上に向かって、つまり、マギたちが暮らしている魔法の森に向かって、落っこちていく風景を見つけたからだった。

「近い。……いや、これは森に落ちる?」

 マギは言う。

 そのマギの言葉の通りに、二つの星は魔法の森の中に確かに落っこちた。

 その様子を天体望遠鏡でずっと観測していたマギは、星が落下したのと同時に、ずっとくっつけぱなしだった天体望遠鏡からその目を離して、すぐに夜の森の中に外出する準備を始めた。

(……今夜は星が輝いていて、とても明るい夜です。たぶん、夜の時間の森の中でも、迷子にはならないでしょう。星の光が、星読みの魔法使いである私のことを守ってくれるはずです。

 いそいそと外出の準備をしながら、そんなことをマギは思った)

 マギが突然、外出しようと思った理由。

 それはもちろん、森の中に落っこちた二つの星の正体を確かめるためだった。

 大きなリュックサックを背負い、外出の準備を終えたマギは、ばたん、と大急ぎで家のドアを開けると、明るい星の輝く夜の魔法の森の中に(本当に飛び出すようにして)駆け出して行った。

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