集中……、集中……。

 そうやってしばらくすると、メテオラの両足の間にある杖がぷるぷると震え出した。杖が空に浮かぼうとしていることが振動を通じてメテオラの体に伝わってくる。

 うん。いい感じだ。悪くない。もうすぐ……、もうすぐだ。僕はもうすぐ、空に浮かぶことができる。マグお姉ちゃんのように軽快な動きじゃなくていい。不格好でもいいんだ。まずは空に浮かぶことが大事だ。メテオラは集中する。

 焦らない……。焦ったら……、また失敗してしまう……。慎重に……、慎重に……。

 メテオラはゆっくりと両足を木製の足場から離してみる。

 メテオラの体は落下しない。ぐらぐらと揺れてはいるけれどメテオラは確かに空の中に浮かんでいた。かすかな風が起こり始め、それはメテオラのローブを揺らし、長老の木の葉を揺らし始める。マグお姉ちゃんは嬉しそうな顔をする。

 よし……。まずは第一関門突破だ。あとはこのまま……前に前進する……。

 そのまま体の位置を調整し、細い杖の上で左右上下のバランスをとりながら、メテオラはゆっくりとだけど、確実に前方に進んでいく。

「うん、いい感じだよ。メテオラ頑張って!」珍しくはしゃいだ声の嬉しそうなマグお姉ちゃんの声が聞こえる。それくらいメテオラの今日の朝の飛行術の調子はよかった。

「はい……」とメテオラがよそ見をして、そんなマグお姉ちゃんに返事をした、そのときだった。

 ぎゅん!! とメテオラの乗る杖がいきなり、なんの予備動作もなしに『最高速度まで一気』に加速した。それは二人にとって予想外の出来事だった。

「あっ!!」とメテオラとマグお姉ちゃんが一緒に叫んだときには、もう遅かった。  

 そのままメテオラは暴走する杖に捕まるようにして、空の彼方へと凄まじい速度で飛び立っていった。

 マグお姉ちゃんの視界からはこの時点でもう、メテオラの姿は豆粒のようにしか見えなくなっていた。マグお姉ちゃんは長老の木の太い枝を蹴りつけると、そんなメテオラの姿を追って、最高速度で空を飛んだ。マグお姉ちゃんの表情に余裕はない。

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