二章第一節:初期設定終わったしいよいよゲーム開始じゃん?
瑞希は手に入れた[デバイス]と[武装]を持って体育館の様な場所の扉を開いた。すると歓迎するかの様に眩い光が瑞希を包み、手に持っていた物の感覚は消えた。瑞希はあまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう。
目を閉じていても聴覚や嗅覚などの感覚はある。聞こえてくるのは、人々の行き交う声や足音。鼻を刺激するのは、香ばしい食物の匂いと微かに混じる金属臭。瑞希はゆっくりと瞼を開ける。眼前に並ぶレンガ造りの家々。石畳で出来た道。そして強そうな武器を携える人々。中世の街を模したRPGの街がそこには広がっていた。
飛び込んできた光景に瑞希はそっと息を漏らした。
「あぁ・・・」
人は感極まると、大それた感想も無く只々立ち尽くしてしまうという。瑞希の嘆息は正にその状態だった。
(正直、ここに来るまでゲームの中かは半信半疑だったけど・・・この光景は間違いねぇ!ゲームの世界だ!)
瑞希の疑惑が確信に変わる瞬間であった。
瑞希の様子を横で見ていた瑠璃香が声をかける。
「Chaos・Worldの世界へようこそ!どう?凄いでしょ!」
ゲーム中とは思えない位緻密な描写とヌルヌル感。その様子は現実と殆ど遜色無いレベルだ。これは出回っているVRMMORPGの中でも最高峰の出来であろう。
瑞希は興奮しきった様子で瑠璃香に話す。
「正直真っ暗なステージで体育館みたいな場所しかない時は駄作かと思ってたが、とんでもない!これは神ゲーの予感!」
「私もそう思うよ。でもね瑞希、あんまりここではしゃぐと人目に付くから場所移動しよっか?」
瑠璃香にそう言われて、瑞希はふと辺りを見回す。そこには奇妙なものを見る様な衆人環視の目があった。こういった視線を浴びせられるとかなり心にクル。瑞希は羞恥に悶えながらも平静を装って
「・・・そうだな。」
と小さく答えた。
瑠璃香は「こっち」と小さく言うと、そっと瑞希の手を握り足早にその場を去って行った。一方の瑞希はいきなり手を握られたことに驚き瑠璃香に連れられるがままになっていた。
(美少女と手を繋いでるぅぅぅぅ!?瑠璃香の手やわらけぇぇぇぇ!!)
連れられている間、瑞希はそんなことを思うのであった。
周りに居たプレイヤー達は瑞希達を見届けた後、「なんだアレ?」と思ったが別段気に留めることも無かった。しかし、気に留める者もいた。そのプレイヤーは遠方から瑞希達の様子を見ていた。
「今のって・・・新規プレイヤー?」
そう言い残すと瑞希達の駆けた方向に消えた。
瑞希は瑠璃香に連れられ、街の外れにある広場にやってきた。そこは草花が生い茂ってとても落ち着く場所であった。二人はそこのベンチに座った。
(手も繋いで、隣に座り合う。そして辺りは綺麗な花の公園。これはもう完全にデートスポットのカップルじゃねぇか!?)
一人内心そう思いつつも、いやいや無い無い。そんなことは万に一つも無い!
悲しい位の勢いで否定していた。瑠璃香はそんな瑞希の内心の葛藤など露知らず
「早足で来たけど大丈夫?疲れてない?」
と狼狽して呼吸が荒い瑞希を疲れていると勘違いしたのか瑞希の手を強く握る。
瑞希は
(え!?手を握る&何気ない気遣い!!萌えてまうやろ~~~)
悶えていた。
暫くして瑞希は瑠璃香の手を放し
「大丈夫。いろいろなことがあり過ぎてテンパっただけだから。」
顔を赤らめつつも、落ち着きを取り戻した。
瑠璃香は瑞希が落ち着いたことを確認すると改めてという前置きをして瑞希を歓迎した。
「ようこそChaos・Worldへ!さっきは周りの目があったからね、あんまり話が出来なかったけどここなら大丈夫だね。先ずは、逸脱者への道第一歩ってことで無事異能覚醒だね!」
そういって何故か瑞希の頭の方に目をやる。
「覚醒?・・・俺の頭に何かついてる?」
瑞希は自分の髪を触るが、特に何かが付いているという感触は無い。先程までで異能の発現とトリガーを確認している瑞希にとって、覚醒という言葉はいまいちピンとこない。それにこの街に来てから特にこれといった体の変化は感じなかった。
瑠璃香は
「実際に見てもらった方が早いかな」
と何やらもったいぶったことを言い残し、何も無い空を人差し指でなぞった。その動きはさながら{見えない画面をスクロールしている}かのような動きだった。瑠璃香が指のスライドを止め、空のある一点を押す様な動作をすると、次の瞬間には瑠璃香の手に丸く可愛らしい手鏡が握られていた。
「やっぱゲームだなぁ」
瑞希は一連の様子を見てそう感想を洩らすのであった。瑠璃香は微笑みながら手鏡を手渡し
「詳しいゲームの仕様とかは追って説明するとして、先ずは瑞希に起った[体の変化]を確認してもらおうかな」
悪戯っぽくそう言うのであった。
その言葉を聞いて瑞希は、ここに来る前の瑠璃香の言葉を思い出す。
『体の変化はカオス・ワールドに行かないと起こらないの』
確か瑠璃香はそう言っていた。その言葉が正しければ瑞希の体には何かしらの変化が起こっていることになる。先程の瑠璃香の視線からどうやら頭の辺りに変化は生じているらしい。そして渡された手鏡。これが意味するのは自らの目で確かめろ、ということだろう。
(百聞は一見に如かず、どんな変化が起きてるか見てやろうじゃねぇか!)
瑞希は手鏡で恐る恐る自分の頭を映す。そこにはなんと、黒色だった筈の髪がピンク色に染まった自分の姿が映っていた。
瑞希は一泊置いて
「・・・えええぇぇぇぇ!?」
盛大なリアクションをした。
本日二度目のオーバーリアクションである。
Chaos・World 鳴海 真樹 @maki-narumi
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