一章外伝二節:パーティーメンバーは見た目重視?性能重視?

 Chaos・Worldには[原初の街]という名前のフィールドマップが設定されている。体育館の様な場所で自らの[異能]と[トリガー]を確認し、[デバイス]と[武装]を揃えた後プレイヤーが最初に降り立つ街である。


 この街ではプレイヤー各位が自由に生活している。RPGで例えるならば[始まりの街]だ。街にはゲーム攻略に必要なアイテムや武装などの[ショップ]が立ち並ぶ。加えて、原初の街にはプレイヤーが暮らすギルド及び家々が立ち並んでいる。プレイヤーはエネミーの討伐やクエストなど受けることにより、ゲーム内通貨である[カース]を受け取ることができる。その[カース]を使って、アイテムを買ったり、家を買ったりできる。


 梓、唯、汐音は意気消沈の中トボトボと[ギルドハウス]に帰宅した。彼女達3人は昔、梓主体の元で一つのギルドを立ち上げた。ギルドの名は[Vivid Canvas(ビビットキャンバス)]。メンバーそれぞれがギルドというキャンバスを彩る要素である、という願いが込められて名付けられた。


 そんなVivid Canvasにも小さいながら家が存在する。家を買うのにも膨大なカースが必要なのだが、彼女達は実力的に高額設定のエネミーを討伐できない。それ故、街で事済むクエストを沢山受注してコツコツお金を貯めていた。さながら日雇いバイトのフリーターの様にクエストに挑み、3人でお金を持ち寄って家と土地を購入したのだった。


 しかし家を買ってはい終了といかないのが、Chaos・Worldというゲームの悪質というかリアリティを求めた特徴である。家を買えば当然、電気、ガス、水道が必要になる。それらは光熱費として請求されるのだが、如何せん稼ぎが少なく、毎日の食費等で消し飛んでしまうVivid Canvasにとって光熱費一式払えない。故に梓の[電気]と唯の[水]の異能を駆使して、日々の生活を営んでいるのがこのギルドの現状である。汐音の異能はもう語るべくもないが、このギルドにおいての立ち位置は[無能]といったところだろうか。


 Vivid Canvasが帰宅時にすることは、梓が蓄電器に電気を蓄え、唯がタンクに水を貯めることだ。幸い電気と水は彼女達2人で賄えているが、ガスに関しては光熱費として支払っている。毎日の生活を余裕が無いながらもなんとかやりくりしていた。


 うなだれたまま彼女達は共同スペースに置かれている椅子に腰掛ける。そして重々しい雰囲気の中、梓が口を開く。


「今日も全然異能の開発進まなかったねぇ・・・。」


すると唯が追従して口を零す。


「そうですね・・・。少しづつなら私達も成長していると思うのですがなかなか目立った結果は見られず。そして攻略も全然進みませんし。」


 そんな空気をブチ壊す様に汐音が演技がかった口調で口を開く。


「くっくっく。梓に唯もまだまだ修行が足りないのではないか?」


先程までうなだれていたのに、今ではあっけらかんとしていた。そこまで堂々としていると、先程での事が嘘の様だ。しかし嘘の様でも実際にあったこと。加えて汐音に関しては異能の発現すらまともに出来ていない。つまり汐音が発した言葉はそのままブーメランの勢いで帰ってくる。梓を唯は冷ややかな目を浮かべ

(どの口が言う・・・)

と心中で呟くのであった。しかし、思っても言わないのがメンバーの優しさ。梓は一生懸命笑みを浮かべた。


「いやいや汐音ちゃん。確かにそうかもしれないけど、それを言ったらあなたが異能一番使えてないからね?魔法陣出すだけで特に効果がないって・・・。」

「ちゃっ、ちゃうもん!いつか絶対使い魔召喚できるもん!」


 梓の反論に喰いつく様に否定する汐音。咄嗟の事と図星を突かれた事に酷く動揺する汐音は普段の演技がかった口調を忘れ、素に戻っていた。


「汐音ちゃん、口調が・・・。」


それに気づいた唯が穏やかに指摘する。指摘されたことで汐音は一瞬驚愕したが、自分のキャラを取り戻した。


 沈んだ雰囲気を打ち払い、話を本筋に戻すべく梓が再び切り出す。


「そろそろ人数増やさないとダメかなぁ。」

「そうですね。ですが他のプレイヤーさん達は既に攻略をかなり進めてしまっているので・・・。」


現状を鑑みるに、この弱小ギルドに追加メンバーは必須である。しかし、他のプレイヤーはより強いギルドやらパーティーやらを組んでしまっていて空きがない。


 プレイヤーの中には単独で攻略を進めている者もいるが、彼らに声をかけると大抵「言っておくが、俺はソロだ」だとか「弱いギルドなんざ、お荷物にしかならねぇ」と言われ断られる始末である。唯の言う通り、追加メンバー加入はあまり期待できない。


 ふと汐音を見ると何故かドヤ顔に「名案が浮かんだ!」書いてある様な顔をしていた。汐音のこういったドヤ顔は大抵碌でもないことが多い。触らぬ神に祟りなし。

普段はそれとなくスルーしているのだが、汐音があまりにも聞いてほしそうな顔をするので仕方なく


「何かいい案でも思いついた?」


梓は汐音に尋ねた。


「くっくっく、よくぞ聞いてくれた!現状ベテランプレイヤーは何かしらのギルドや団体に属しておるのだろう。ならば、異能に詳しい初心者を引き入れてこればいいのでないか!」


 妙案ここにあり。言われてみれば確かなことである。実際、そんな[強くてニューゲーム]の体現者がその辺をうろついていればの話だが。しかしこの妙案が途方も無く現実味を帯びていないのは誰しもが分かる事である。すかさず唯の手厳し指摘が入る。


「それはそうですけど、現実はそんなに甘くないのです。そもそもこのゲームは初心者が気軽に入って来れるものではないし、このゲーム、強いては異能に詳しくないから初心者というわけで・・・。」

「・・・ですよね~。」


思わず汐音もキャラを忘れて素で返してしまう。こういった問答は過去何回も行われた作戦会議で嫌と言う程繰り返してきた。

いよいよ限界だといわんばかりに、意を決した様子の梓が立ち上がった。


「よし!こうしていてもしょうがない。私、ちょっと外のプレイヤーに声かけてメンバー募集してくるよ!」


 そう言い残し梓は一人、まだ見ぬ新メンバーを求めに駆けだしてしまった。一方、置いていかれた二人は一泊置いて


「一応、新しく人が来た時の為に掃除でもしておきますか?」

「くっくっく、そうだの。他にすることもないし・・・」


掃除を始めるのであった。


 転機とはどこで起こるか分からない。それは、遅刻しそうな時に食パンを咥えていて曲がり角でイケメンにぶつかる時かもしれない。或いは、いつもと違う通学路を通り倒れている少女に声を掛けた時かもしれない。けれどもこれだけは言えよう。転機が起る場合に総じて共通することは、自らの在り方に[変化]をもたらした時であろう。結果が伴うかどうかは偶然という神の悪戯次第だ。


 幸運にも梓はこの時神に好かれていた。どこらへんが?と聞かれたら、きっと神はこう答えるだろう。


「えっ?なんかひたむき頑張る姿とか良さげじゃない?あとあれだね。風になびくポニーテールとか、いとをかし。」


そんな不純たっぷりな動機で梓は神に気に入れらていたのだろう。

梓がギルドハウスから駆け出す姿はどこか晴れやかだった。


「今日こそ、停滞した毎日にサヨナラするんだ!」

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