一章外伝一節:ゲームってやっぱ導入が肝心だと思うけど、どう?
これは、語られるべくも無かった弱小チームのお話。
Chaos・Worldにおいて異能というものは必須であり、そのままプレイヤーの強さに該当する。それ故に異能を使いこなす強者を、人々は逸脱者と呼称し、崇めていた。つまり、異能を使い、妙技を凝らし、己を研鑽するのはプレイヤーの使命と言えよう!
Chaos・Worldというゲームにおいて[レベル]という概念は存在しない。ステータスとして各プレイヤーに与えられているのは、[名前]、[HP]の二つ。また、ゲーム内で手に入る武器は、単体では大した威力は出ない。基本的に異能との組み合わせで使うことを想定されているからだ。くどい様だが、異能が絶対なのは、このようなゲームシステムに起因しているところもある。それ故プレイヤーは各々の異能を研究し、逸脱者になるべく日々修行を積んでいた。その通例にあぶれず、とあるパーティーが今まさにゲームを攻略する為に異能修行に勤しんでいた。
ここは、異能修練場。様々な地形、気候が設定されている場所で、擬似的な標的も自在に出現させられる。プレイヤーはこの場所で自らの異能の使い道と新技を開発するのである。そこには、三人の少女達が異能の開発の為、標的に向かって異能を発現している姿が見て取れた。
「いくよ、唯ちゃん!汐音ちゃん!えいっ!」
そう言葉を発した少女は、右手を前に振り出した。次の瞬間、彼女の右手からは微量の電気が迸り、眼前の動かない仮想標的に向けて放たれた。標的には射撃訓練場のマネキンの様な意匠が施されており、彼女の電撃は顔部の中心に見事命中した。しかし、電気という性質から考えられるとあまりにも遅い命中だった。距離5mの標的に対して命中までに20秒もかかっているのだ。
しかし、そんなことは意に介さないようで、事をやり遂げた少女は嬉しそうに[唯]、[汐音]と呼びかけた少女達に向けて
「今の見た!?ちゃんと真ん中に当たったよ!」
とはしゃぐのであった。年甲斐もなくはしゃぐ彼女の名は[峰岸 梓(みねぎし あずさ)]。見た目の特徴を挙げるのであれば、やはり一番に目に着く金髪のポニーテールだろうか。彼女が飛び跳ねるたびにポニーテールが揺れるのがなんとも愛嬌がある。身長は160cmくらいか。異能はどうやら、電気を主としたものだろう。
はしゃぐ梓に対し、[唯]と呼ばれた少女は
「えぇ、当たりましたね。素晴らしいです。」
清楚な笑顔と丁寧な口ぶりで讃えた。それに続き[汐音]と呼ばれた少女も
「うむ、よくやったではないか!」
と称賛していたが
「しかし、電気という割には遅すぎやしないか?」
少し演技掛かった口調で梓に聞いた。すると、梓はしょぼんとしてしまったが
「それは、そのうち速くなるから!」
と持ち前の明るさで立ち直った様子だった。
その様子を微笑ましく見ていた[唯]と呼ばれた少女は梓と場所を変わり
「では、次は私の番ですね。見ていて下さい。」
と言って、標的の前で集中した。その後、彼女は両手を胸の前に構えて、静かに「ふっ」と息を吐いた。すると彼女の構えた両手の中には小さな水の塊が浮かんでいた。それを静かに標的の方へ押し出すと、水の塊はふわふわ浮いて標的の動体に命中した。しかし、狙いの中心からは少し左の方へずれていたようだった。
それを見届けた少女は
「少し力んでしまったせいか、狙いが外れてしまいました・・・。」
と残念そうに元いた位置に戻った。大人しく丁寧な口調の彼女の名は[神崎 唯(かんざき ゆい)]。その髪色は、落ち着いた雰囲気を漂わせる清涼感の青で、髪型はボブカット。身長は150cm前後だろう。異能は水を主としたもののようだ。
梓と[汐音]と呼ばれた少女は、落ち込んでいる唯を励まそうと
「今のでも十分凄いよ!普段より水の球が大きかったし自信持って!」
「うむ!やばたにえんだったぞ!」
一名キャラが迷子で空回りしているが、励まされたのが嬉しかったのか
「ありがとうございます。次こそは真ん中に当てて見せますので!」
と明るく返答した。
そして待ちわびていた様子でうずうずしていた、最後の少女が
「では、我の番だな。心して見ておれ!」
と盛大に意気込み標的の前に立った。その様子を見た梓と唯は顔に苦笑いを浮かべ
「がんばれ~・・・」
と渇いた応援をしていた。その応援を受け、俄然やる気に満ちた表情の少女が応答し、詠唱を始めた。
「我が内に眠るまだ見ぬマナよ。今こそ、その力を現し我がもとに示せ!超爆砕{エクスプロ―ジョン}!」
少女がそう唱えると彼女の髪は浮き上がり、足元には紫色の魔法陣が浮かび上がった。そして、何かとんでもない魔法が放たれると誰しもが思った!・・・二人を除いて。彼女の詠唱が終わって標的の方を見るとなんとも無かったのである。もう一度言おう!あんな盛大な啖呵を切り、仰々しい詠唱をしたのにも関わらず、何も!起こらなかったのである!
梓と唯は「ですよね~」といった感じで納得していた。一方の魔法を撃ったと思しき少女は驚愕と羞恥に顔を歪ませていた。
「なっ、なぜ!?イメトレは完璧だった筈・・・なのに、どうして魔法が出ない・・・の?」
と少女は目の前の現実に打ちひしがれていた。
そんな残念系イタイ子の彼女の名は[十六夜 汐音(いざよい しおね)]。またの名を[マジカルガール爆炎{インフェルノ}]服装は見るからに魔法少女感満載のゴスロリ黒衣装。髪色は紫でウェーブがかった長髪が特徴だ。その髪色と服装から魔女と言っても差し支えないレベルだろう。身長は唯と比べて少し低いくらいだろう。異能はどうやら魔法のようだが、発現しているところを確認していない以上、当人がそう思い込んでいるだけかもしれない。お前の中での異能は魔法なんだろうよ、お前の中ではな!というやつだ。
流石に見慣れた光景とは言え、辛い現実に打ちひしがれている汐音にいたたまれなくなった梓と唯は、無言で汐音の肩に手を回しトボトボ拠点に帰るのであった。
このパーティーは創設して結構な時が経つが、未だに攻略が進まず雑魚ボス相手に足踏みしている。故に攻略を進める為こうして日夜、異能の修行に励んでいるのだがなかなか芽がでないといった様子だ。
「帰ったら、今後の方針決めも兼ねて作戦会議だね・・・」
「・・・そうですね。」
「・・・うむ。」
梓の提案に、唯、汐音がそれぞれ返事をする。三人の語気には力はなく、足取りは重たい。無理もない、帰り際に横目で見たベテランプレイヤーの異能の威力が自分たちの数万倍はあるように見えたのだから。改めて自分たちの状況を再認識した彼女たちは自らの弱さを痛感したのだろう。現状のChaos・Worldにおいて彼女達のような、異能をまともに使えない者は攻略すらままならず、弱者のレッテルを貼られる始末である。
そんな彼女らにも救いの手が差し伸べられるのだが、そんなことなど知る由も無い三人は現状を打破するために今日も作戦会議をするのである。
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