一章第四節:ゲームのセットアップって時間かかるよね

 瑞希が、瑠璃香に体育館の様な場所に連れられて早2時間が経とうとしていた。紆余曲折、試行錯誤の結果と瑠璃香の協力の元、瑞希はなんとか自分に与えられた異能とトリガーを究明できたのである。そんな瑞希はと言うと、またもや瑠璃香先生のありがたい指導を享受していたのである。


「これで一応瑞希の異能とトリガーがわかった訳だけど、まだ終わりじゃないんだよ。」


 そういう瑠璃香の立ち振る舞いはさながら、生徒を諭す先生のようである。その雰囲気に流された瑞希は


「なるほど、具体的には何が足りないのでしょうか、先生?」


と少々悪乗りが過ぎる気がする口調で疑問を投げかけた。瑠璃香は少し咳払いして


「うむ、瑞希君は今逸脱者としては半人前なのじゃ。一人前となるには、とあるアイテムが必要なのじゃ。」


と声を低くしていかにもな先生風な口調で返答した。

(俺の悪乗りに付き合ってくれた挙句、そんな可愛らしいことまでしてくれるとは・・・

今日も最高ですぞ!)

流石に、悪乗りが過ぎて瑠璃香に悪いと思った瑞希は普通に戻す。


「とあるアイテム?」


 あまりに異能の話に夢中になって忘れていたが、ここはゲームの中。ゲーム進行上で必要なアイテムがあるのだろう。そのアイテムについて瑞希が聞くと、口調を元に戻した瑠璃香が答えた。


「うん。カオス・ワールドではね、異能を制御するアイテムが必要なの。

それをデバイスって呼んでるんだけど、瑞希にはこれから自分に合ったデバイスを見つけて欲しいんだよ。」


そう言い残して瑠璃香はツインテールを揺らしながら、体育館の奥の体育倉庫の様な場所に入った。しばらくして両手いっぱいにいろんなものを持って出てきた。14歳の少女にそれだけのものを持たせるのは男としてアレだと思い、瑞希は半分持って先程の位置に戻った。


 瑠璃香は礼を言った後、本題に入った。


「ここには、私が適当に持ってきたデバイスと武装があるから異能と照らし合わせて馴染むものを選んでね。」


そう言って少し疲れた様子で瑞希の横に座り込んだ。


「おっ、おう・・・」


 瑞希は、瑠璃香が横に座り込んだことと、説明半ばで放置されてしまったことに戸惑った。しかし、すぐに目の前に広がる厨二心をくすぐる品々に目移りしていろいろ触っていた。哀しいかな、厨二病故にそれを刺激するものには抗えないのである。


 瑠璃香が持ってきたデバイスや武装と呼ばれるアイテムには様々なものがあった。見るからに武器と分かる、剣や刀といった近接武器一式に、拳銃や弓などと言った遠距離武器など考えつく武器が一仕切り並んでいた。また、武器の隣には[でばいす]と書かれた箱があり、中を開けるとスマホのような形をした端末や様々な装飾が施された手袋が入っていた。瑞希は刀や銃に目もくれず、でばいすの中から一つの手袋を拾い上げた。


「おぉ・・・これは、かっこよすぎる!」


瑞希が選んだ手袋は、指の部分が第二関節までしかない手袋だった。所謂、指切りグローブという厨二病患者が好きそうなアレである。更に、手の甲の部分にはおあつらえ向きに、黒地の布に赤い刺繍で炎のような形状の刺繍が施されていた。


「正に俺の為のアイテムじゃないか!」


 その様子を横で見ていた瑠璃香は興奮気味に


「へぇ~!私が何も助言しなくても手袋に行き着くんだね!」


と心底感心した様子だった。


「そこに良さげな手袋があったんだ。当然だろ?」


自分の行動のどこが良かったのかわからない瑞希は、瑠璃香の感心も「当然じゃないか?」とあっけらかんに返した。


 そんな瑞希の様子に瑠璃香は一人合点がいったようで


「そっか、そうだよね!(やっぱり瑞希はそこに行き着くんだね・・・)」


と明るく返答し、一人小さく呟いた。そして瑞希に補足するように


「さっき言ってたデバイスなんだけどね、端末型と手袋型があるんだけど実用性と利便性から他の人は大抵手袋型を選ぶんだよ。

だから、私の助言が無くてその結論に至った瑞希は凄いね!」


 当然そんな深い思惑などなく、{ただ何となくかっこいい手袋があったからこれにしました}だけなので、思わぬ高評価受けた瑞希は戸惑ったが悪い気分では無かったので、そういうことにしておいた。


「これでめでたくデバイスも揃ったし、ここの武装で好きな奴を選んでね。詳しい使い方とかは向こうでするから。じゃあ、早速出発しよう!」


瑠璃香が、いよいよカオス・ワールドの始まりを告げる。長かった異能勉強会も終わり、ようやく冒険がスタートするのだ。


「あぁ!行こう!」


 瑠璃香の合図に、手短にそれでいて力強く応える。瑞希は眼前に広がる武装の中から適当に厨二心をくすぐられるデザインの[刀]と[拳銃]と[杖]を拾い上げ体育館の扉を押し開けた。


 次の瞬間、瑞希は眩い光に包まれた。


一章 完

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