一章第三節:ピンクの炎は愛ある証ってことで

 謎の美少女、如月瑠璃香に連れられ、Chaos・Worldにやってきて無事異能を発現させた櫻井瑞希。彼は今瑠璃香の指導の下で異能の大まかな説明とその異能に必要不可欠な[トリガー]について説明を受けていた。


 瑠璃香曰くトリガーとは異能の威力を決めるガソリンだとか。プレイヤー各々にはカオス・ワールドに来た際に自動的に異能の種類とそれに付随するトリガーが設定されるらしい。トリガーなんて言い回しをしているが、要は異能を使うために必要な感情エネルギーだ。有り体に言えば[想いの力]なのだそうだ。


 具体例を出すならば、とある異能があり、そのトリガーとなっている感情が元気だとしよう。そうした場合この異能の持ち主は精神状態が元気であればあるほど異能の威力が高まる。逆に沈んだ気持ちだと異能の威力が弱まるばかりか、異能自体が発現しないということも起こるらしい。以上が瑠璃香からされたトリガーのざっとした説明だった。


 そして瑞希は今、自分のトリガーが何なのか探っているのだがなかなか思うようにいかない様子だった。


「あ~ダメだ!色んな感情試してるけど一向に火力が変わらねぇ。」


そう言って投げやり気味にうなだれている。無理もない。能力発現してからかれこれ一時間以上こうしているのだ。そんな諦めムードの瑞希に対し


「諦めないで!きっと次こそ見つかるって!さっきはいい線いってたと思うよ?」


と瑠璃香は両手を握りしめて精一杯に瑞希を応援していた。愛くるしい姿がこれまた一段とカワイイ。そのカワイさについつい乗せられてしまい、またトリガーを見つけるために気合を入れなおす。そこで瑞希はふと瑠璃香が視界に入り

(今更だけど、瑠璃香って超カワイイよなぁ。幼さと可憐さが何とも言えないベストマッチしてるぜ。こんな美少女に間近で応援されるのってなんだか萌えるよなぁ・・・)

と心の内で思った。


 その時瑞希の中で何かが閃いた。

(萌・・・、萌か!)

瑞希はこれまで、様々な感情でトリガーを検証してきたが、[萌]の感情については試してこなかった。

(どうせ当たるかわかんねぇだ。だったら試すしかないだろ!)


 瑞希は右手を前に突き出し炎をイメージする。そして[萌]の感情を湧き立たせる。しかし、ここで思考が止まってしまう。

(萌ってどんな感情だっけ?)

改めて萌の感情とは何かと聞かれると分からないものである。そうして萌について考え悩んでいるとふと握りこぶしを胸の前で作って首を傾げている瑠璃香が目に入った。どうやら、瑞希が右手を突き出してからなかなか異能を発現さないものだから疑問に思っているのだろう。


 瑞希は瑠璃香を見て閃いた。

(そうだ!瑠璃香に萌を手伝ってもらえばいいんだ!)

そうと決まれば行動に移すのみである。


「あぁ、瑠璃香。不躾なお願いで非常に申し訳ないんだが、いいか?」


萌の為に瑠璃香に手伝って貰う手前、変に畏まった口調になってしまう。そんな様子の瑞希に瑠璃香は


「なに改まってるの?全然いいよ!それで私は何をすればいいかな?」


とあっけらかんと明るく快諾してくれた。天使ここにあり。


「えっとだな、トリガーの候補があってそれを試したいんだ。その感情を湧き上がらせる為に瑠璃香にはこれを言って欲しい。」


 しどろもどろしながら瑞希は小声で瑠璃香の耳元であるセリフを伝える。自分で言うのはいささかはばかられるセリフのようだ。瑠璃香は瑞希から伝えられた言葉の真意をよくわかっていない様子だったが、瑞希のトリガーの為か明るく元気に


「分かった!よくわかんないけどそのセリフを言えばいいんだね?」


と応えてくれた。

(あぁ天使様~)

瑞希は心の中でそう思うのであった。


「じゃあいくよ。がんばって、おにいちゃん・・・?」


快く引き受けたもののやはり言葉の意味に疑問を感じざるを得ない為言葉尻が少し疑問形になった。しかしそれが寧ろいい効果を産んだのだろう。


「うおぉぉ萌えてきたぜ!ダークフレイム!」


 先程と同じセリフ同じモーションで突き出した右腕からは、先ほどとは比べ物にならないほどの高密度高火力の炎が出現した。色は相変わらずピンクだが・・・。どうやら瑞希のトリガーは萌で間違いないようだった。


「すご~い!さっきと全然違うじゃん!?」


 瑠璃香が先程とは打って変わった瑞希の異能の火力に興奮した様子で驚いているので、瑞希はドヤ顔気味で


「まぁ、俺もやればできるってことだな!」


と自信満々に言った。これも全て瑠璃香のおかげなのだが。


「うん、凄いよ、初っ端であそこまで高火力の異能が出せるなんて!それでどんなトリガーだったの!?」


チャッカマン程度の火から火炎放射級の火力を出すほどだ。瑠璃香の興味は津々だ。


「うっ、それはまぁ・・・なんだ。人には言えないようなやばいトリガーだ。」


それは当たっている。嘘は言っていない。

(トリガーが萌とか、いよいよ只のやばい人じゃん!と言うか変態じゃん!美少女のセリフに萌えて炎出しましたって事案じゃん!)

瑠璃香は、身悶えしつつもそう言ってはぐらかそうする瑞希を深く追求しようとはしなかった。


「そうなんだ。ただ今後旅をしていく中で能力とトリガーは重要になってくるから、いつかちゃんと教えてね?」


と瑞希に近寄り可愛らしく言った。

(そういう何気ない気遣いと仕草に萌えてしまうんですよ!瑠璃香さん!?)

と内心で突っ込んでいた。

(まさか、萌で燃えるなんて・・・この能力とトリガーの組み合わせ考えたゲーム制作者さん!呪いますよ!?)


 シャレが利いているにしても、ここまで行けば滑稽である。何はともあれ、瑞希は異能の種類とトリガーを発見することができたのである。しかし、瑠璃香先生のありがたいご指導はまだまだ続くのであった。

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