第2話
通っていた高校はもうすぐ五十周年を迎える。この地方でも中堅で大学への進学も多い。部活もそこそこ、全国どこにでもありそうなフツーの高校。
学年のコース分けが同じになれば三年間ずっと一緒。家が近いという単純な理由だけでこの学校を選んで後悔したことはない。
開校当時は最新の設備を誇っていたようだけど、そろそろ限界っぽかった。校舎は古いし、下水管が傷んでいるのか夏になると風向き次第で教室まで臭った。
あれは確か高校二年の今頃だった。
市役所となりの
場所が近かったから見に行った。浅い水面に曝気用の噴水が水を吐いているほかはいつもと変わりなかった。うすいアンモニア臭が夏の日差しを汚している。
「どうして下の池っていうんだろ」
隣で同じ水面を見ていた明美にきいてみる。明美はあたしと同じ国際科の友人だった。母親もここの卒業生らしい。
「お母さんから聞いた話なんだけど」
「学校のあるところは昔、池だったんだって」
「ひょっとして池の名前は
「そう。学校を作る話が持ち上がって上流の方をこわしたのね」
「何かを封印したかった説ってのはどう?」
あたしは適当に思いついた説を展開する。この付近に異様に神社が多いのは本当だ。
「そんなのより人間のほうがずっと怖いよ。変質者とか」
「みたことないけど」
「校庭の階段を降りて私道にでるでしょ。府営団地まで上がる小さな坂があるじゃない。駐車場にあがっていくとこ」
「あたしの通学路なんですが」
「だから朝は問題ないの。でも夕方がやばいんだって」
「マントを着た露出狂とか」
「いつの昭和だよ」
「ためしにいってみただけ。さ、お続けなさい」
明美はあたしがふざけ半分なのに気づいているはず。けれど言葉を続けた。
「夕暮れになると坂の登り口におばさんが一人立ってて、タカコちゃんを見ませんでしたかって」
「子供をなくした親が気が触れた……。なんてお陳腐な」
「池で溺れた娘を探してるらしいんだよね」
「いったいいくつだよ」
にわかに信憑性が崩れた。この学校ができる前の話か。
「子供が小学生だったとしても、母親は八十歳以上だよね。死んでるかも」
「あの世で出会えないのかな」
「そのおばさんにあったら絶対に口をきいたらいけないんだって」
「きくわけ無いじゃん。キモいし」
……のつもりだったけど。
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