高校生編シーズン2『修行編』〜第二話『紫峰学園』〜

「主…は、あっ、るーちゃんか!いやいや、それより!た、鍛練って…一体何の…ですか…?」


神威の発言を聞いて目を丸くしたましろはその発言を整理して神威に問いかけた。


「あなたがその身に封じたその力に負けない精神を築く鍛練です。貴女も気づいているのではありませんか?いま貴女が無事に起き上がれるようになったのは一時的なものであると。」


「それは…。はい。恐らく。また徐々にメアの力が膨れ上がって、それに意識が塗り潰される…そんな気がします。」


ましろは自分の胸元に手をおいて不安げな表情を見せる。 


「…確かに、メアの力に対してましろの意志の力が負けているのは原因ではある…でも鍛練って一体どうするおつもりですか?」


その優弥の問いに神威は、どこからともなく資料を取り出し、二人に手渡した。


「鍛練の内容はお任せください。その資料は鍛錬に用いる場所になります。」


受け取ったパンフレットに目を通す二人。


「これ…紫峰学園のパンフレットじゃないか!?」


「しほう…?ああっ!お母さんの母校の!…いい思い出が何一つない学校…」


「はい、ましろお嬢様には紫峰学園に短期間の留学という形で来て頂きます。」


「…留学って…それって数日単位じゃないって事ですよね?一体いつまで?」


「期間は未定です。お嬢様がその身の力を抑えられるようになれば最短で数日かもしれませんし。年単位かかるかもしれません。なんにせよ目的に達するか、諦めてしまうまで紫峰学園から外部に出る事はできません。」


神威の容赦ない言葉に動揺するましろ。


「で、でも…それじゃあ世界が…」


「ええ。ですから、埒が開かないと判断した場合はその力を手放す…もしくは戦いから身を引くことを薦めます。…良いですか。力というモノは正しく扱えるようになる事で初めて貴女の力になるのです。」


神威はそっとましろの手に触れ言葉を投げかけた。


「…神威さんの言う通りだ。ましろ。この件に関しては強がりでは解決できない。お前が本当にメアの力をなんとかしたいなら行くべきだ。」


「でもお兄ちゃん。その間の襲撃は…」


優弥はその問いに対し少し腕を組んで考える素振りを見せると


「一ヵ月…。それまでは俺たちが絶対になんとかする。それまでお前はその力をなんとかする事だけを考えるんだ。」


優弥と神威の強い眼差しを受け、ましろは少し瞳を閉じて考えると、


「わかりました。私。行きます。」


と強く答えた。


………

……


それから一週間後、ましろは自宅から最寄りの駅から数駅電車に揺られ、紫峰学園の校門の前に立っていた。


荷物は要人たちが集まる学園ということもあり、留学生のましろは最低限の着替えや、許可された持ち物のみしか持ち込めず携帯電話など外部との連絡手段は失われた。

当然スフィアライザーも持ち込む事ができないため、今のましろはごく普通の女子高生に過ぎない。


その数少ない荷物を詰め込んだバッグを片手に神威が現れるのを待つましろは、目覚めてから今までのことを考える。


この留学に関するあらゆる手続きは、神威が知らぬ間に済ましており、この話を聞いた母も驚くほどあっさり承認し、姉も父も笑顔で見送ってくれたため、ましろ自身何が起きているのかわからなかった。

ただ一人、こころだけはましろが不在の間のガレア帝国の侵攻を危惧して文句を言っていたが…。


思わず思い出して苦笑いを浮かべるましろ。

すると、小さく音を立てて黒いメイド服を身につけた人物がましろの元にやってきた。


「おはようございます。神威さん。」


ましろがその女性…神威に挨拶すると、彼女は微笑みを浮かべスカートをつまみ、小さく礼をした。


「ええ、おはよう御座います。ましろお嬢様。…申し訳ありません。本来ならばご自宅までお迎えに行くべきでしたが、午前中はどうしても都合が悪く…」


「いえいえ、そこまでしていただかなくても…。…それにしても前から思っていたんですがお嬢様…?」


「はい。しばらくの間私はお嬢様の鍛練だけでなく身の回りの世話までさせていただきますので。今日より私は『貴女の』メイドです。」


「お、おお…。わ、私報酬とか出さないといけないのでは…!?」


「ご安心ください。ルーシャお嬢様の希望である以上フローライト家からは承認を得てますし、貴女のお母様から既に足りないくらいの報酬を受け取っています故、何でもお申し付けください。」


「お、お母さんから!?」


「ふふ。その話はまた後ほど。とりあえずはなかへどうぞ。」


神威はそっとましろの手荷物を預かると、先頭を歩き、彼女を導いた。


門の入り口からそこからしばらく厳重な警備の目を通され、ましろは住んでいる世界の違いに冷や汗をかき、数十分の審査のあとようやく彼女は紫峰学園の広大な土地に足を踏み入れるのだった。







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