高校生編シーズン2『修行編』〜第一話『神威』〜
ガレア帝国の襲来が始まって一年。
ましろの肉体を淫魔リメアが乗っ取ると言う事件はルーシャや優弥の活躍により惨事には至らず、ましろの要望もあって、とりあえずはメアをましろの身体に封じ込めることによって結末を迎えた。
それから数週間…。
無事に日常へ戻ったましろだったが、仲間達が案じていた通り、その身に封じたリメアの強大な力により徐々に体調を崩すようになってしまった。
そして、異変が始まってから一週間程度で、発熱により起き上がれないほど衰弱してしまっていた。
優弥はこの原因に対し、ましろの意志の強さ…精神的な強さに対して、メアの身体を奪いこの世にあろうとする力が強力すぎる為起きているのだと結論立てていた。
「どうする神崎。引き剥がせるなら早めに引き剥がしてやらなければ、水無月妹が最悪また乗っ取られてしまうぞ。」
愛奈の暮らす家の一室。
そこで、眠るましろの傍で愛奈は優弥に問いかけた。
「…だが、これはましろが選んだ選択だ。この子がそれを拒んでいる以上、俺はギリギリまでその意思を汲んでやりたい。」
じっとりと汗をかきながら眠るましろ。優弥は彼女の手に触れて愛奈の問いに答えた
「そんな事言ってる場合か?こいつはもう立ち上がる事すらできないんだぞ?このまま寝ていたって好転はしない。いいかげんに__。」
ピンポーン…。
愛奈が言葉を言い切る前に愛奈の家のインターホンがなった。
「なんだ…?客ぅ?私の家に…?一体誰が…__げっ。」
小さなモニターに映る客人をみて、奇妙な反応を見せる愛奈、優弥も彼女に続いてモニターを覗きこんだ。
そこにいたのは、短めな黒髪に吊り上がった瞳が特徴的な美しい女性。
しかし、異質さを感じるのはその服装であり、やや露出は高いがスカートタイプの黒い衣装に白いエプロン。
頭にはヘッドドレスという派手な衣装。
その容姿はまるで…
「メイド…?」
思わずそう言葉を漏らす優弥。
すると、玄関の先にいる女性は、カメラに視線を向けて口を開いた。
『ごめんください。こちらに、水無月ましろ様と神崎優弥様は居られますでしょうか。』
「俺と…ましろ…?」
「なんでここにいるってわかったんだ…?」
「はい。先にお二人の御自宅を訪ねたのですが、こちらにいるとお聞きしたので。」
優弥は意を決してそっと玄関の扉を開き、その女性と対面した。
黒髪の女性は優弥の姿を確認すると、少し微笑むとスカートを摘み、丁寧にお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。わたくしはフローライト家のメイド長…及びメイド隊の筆頭を務めております。メイドの『神威』と申します。」
「フローライト…やっぱりルーシャの…。それにメイド隊って…!?」
「わかるのか…?神崎」
「一応ルーシャから聞いたことがある。フローライト家のメイドの中でも選ばれた数人だけで構成された精鋭部隊があるって…。この方はそのリーダー…つまりフローライト家のメイドの中で一番偉い人って事だ。」
「はあ!?なんで、そんな人が!?」
「俺にもわからん…。でも、何となく『俺たちの問題』に無関係ではない気がする。」
「はい。…その事情をお話ししたいのですが。…この場ではあまりしにくい話でしょうから、中に入ってもよろしいですか?」
神威の提案をきいて二人は彼女を通した。
しかし、腰を据えて話をする前に、一度ましろの様子を確認させて彼女が神威と直接話せない状況である事を確かめさせた上で話した。
「なるほど…。わたくしが考えていたより、ことは深刻だったのですね。」
「ええ。一応すぐに解決する手段もあるのですが、それをましろ本人が強く拒んでいてこの状況をどうするのが一番なのか俺達も考えているところなんです。」
「しかしこのままではわたくしの『用件』もままなりませんね…ふむ…」
テーブルに向き合って座り話す三人。
神威は優弥の説明を聞くと、腕を組み目を閉じて考え始める。
そして、数十秒後目を開いた彼女は口を開いた。
「ちなみにその手段とは…」
「ましろに封印…、取り憑いているモノを強引に引き剥がすことですね。ただそうすると今後の事を考えると必然的にそれをその場で消し去る必要があります。」
メアがガレア帝国の人間である以上、野放しにはできず、もし逃して違う誰かの身体を奪ったとなると次に見つけるのが困難になる。
その為、ましろから分離させる事はメアの魂を消すことまでしなければならなかった。
「…例えばなにかモノなどに一時的に移す事などはできないのでしょうか。」
「不可能ではない。だが、あれでも水無月妹が自らの意志で抵抗してあの様だ。物体に変に移しても即座に逃げられる可能性の方が高い。」
愛奈がそう言った瞬間、神威は何かに気づいたように組んだ腕を解いた。
「…つまりは、意志で抵抗できる他者なら問題ないのですか?」
「えっ。いやまあそうですが…。」
優弥の言葉を聞いて、神威は小さく「良かった」と呟くと、左手を自らの胸に手を当てて、言葉を紡いだ。」
「ならば、その依代の役割に、わたくしの身体を使ってください。」
「「…は?」」
その場にいた二人は目を丸くして凍りついた。
「待て待て!!メイド!お前は事態を理解していないだろう!?」
「信じてもらえないかもしれないですが、これにはこの世界にはない未知の力が関わっているんですよ!?」
愛奈と優弥は身を乗り出して、神威に強く言った。
しかし、神威は動じる事なく
「ええ、確かにあり得ないと言いたくもありますが、現に『彼女』の姿を見ていますし、それに…、私は師が冗談を言う方ではないのを存じているので。」
と言った。
そして彼女が漏らした師という言葉。
優弥はそれに引っ掛かりを覚えた。
「あの…師。とは?」
「あぁ。失礼。この度私が訪れた件に関しまして詳細をお話ししていませんでしたね。」
神威はコホン。と咳払いをし、声を整える。
「この度わたくしは、師の依頼で参りました。つまりは私一個人の意思。そこにフローライト家は介していません。」
「ルーシャが関わっていない!?」
「そうです。ルーシャお嬢様もこの件は存じていますが、わたくしは師である『水無月まふゆ』の依頼で参りました。」
「ま、まふゆさんだって!?」
水無月まふゆとは他ならぬましろの母親である。
しかし、彼女は現在は旅に出ており、一年以上留守にしているはずが、何故かこの件を知っている事に優弥は深く驚いた。
そして優弥は幼い頃からまふゆを知っているが、彼女が弟子をとっているという話は一度も聞いた事がなかった。
「はい。わたくしは水無月まふゆの唯一の弟子です。この度は『あの子に悪いモノが取り憑いてるから力になってあげて欲しい。』と先生から言付かって参りました。」
「まふゆさんは俺たちがやっていた事を知っていたのか…」
「どうやら、取り憑かれたましろ様と接触されたようです。…どこで何があったのかまでは話してくれませんでしたが。『私は関与しないから』と。」
知っている上で、目を瞑る。
そういう事だと優弥は理解した。
「…これは私の身の上を説明する上でお二人にはお話しましたが、先生が『知っている』ことは、どうかましろ様にはご内密にお願いします。」
「どうしてだ?実の親が知ってる事くらい本人に伝えてもいいだろう?」
愛奈の問いかけに少し困った表情を神威は浮かべた。
「…わたくしも詳しくはわかりませんが。「その方が私もあの子も動きやすい」と言っておりました。」
「…掴みどころのないまふゆさんらしい…な…」
「話を戻しましょう。私が先生に呼ばれてきたのには目的がありまして、実行するには彼女には目覚めて貰わなければならないのです。」
「目的…って?」
「それはご本人にも聞いていただこうかと。…わたくしは先生の唯一の弟子。柔な鍛え方はしておりません。彼女に巣食うものを肩代わりさせてください。」
小さく頭を下げる神威。
優弥と愛奈はその姿に頭を悩ませた。
「…どうする神崎。私は不安しかないぞ。」
「…メアの力の一部だけを切り取ってしまう事はできなくはないんだ。だが…そうだな…。」
「「「…」」」
「…試すだけ…。とりあえず試すだけ試してみましょう。…あのままではましろも会話どころじゃないので。…お願いできますか?」
優弥の提案に神威は口角を釣り上げると、小さく「御意。」と目を閉じて言った。
………
……
眠り続けるましろの意識の深層…。
メアの力に蝕まれ、意識が朦朧としている事、自分自身を失わないように必死になっていた。
優弥や仲間たちに大丈夫だと言ったけれど、自分でもどうしようもない事だけはわかった。
けれど、自分の無力さを前にメアをこのまま殺してしまう事もましろは絶対にしたくはなかった。
そんな彼女だったがある時、すっと力の濁流に押し潰される感覚が和らいだ。
これならまだ大丈夫だ。
そう感じ、次に目覚めた時、ましろは自分の状態に驚いた。
「あれ…苦しくない…?」
熱もなく、意識も驚くほどしっかりしている。
そんなベッドで横になっていた彼女の目下、そばに誰かいる事にましろは気づいた。
それは黒髪のメイド装束の女性。
「だれ…ですか…」
「おや、目覚められましたか。」
身体を起こそうとするましろに気づき、メイドは腰に手を回してそれを支えた。
「あ、ありがとうございます。それで…ええと」
「ご挨拶がまだでしたね。わたくしの名は『神威』。訳あって貴女の力になるようにとやってきたフローライト家の従者でございます。」
「フローライト…ってことはるーちゃ…ルーシャちゃんの…」
「はい。その通りでございます。」
「その人が、お前を助けてくれたんだ。」
部屋の隅で座っていた優弥がましろに言う。
「ええと…助けてくれた…?」
身体が楽になっている事からメアの死を覚悟したましろ。
しかし、その身には確かにメアの存在を感じる。
「お前の中にあるメアの力の半分を神威さんが肩代わりしてくれたんだ。」
「ええっ!?そんな!あぶないですよ!!」
優弥の返答に驚くましろ。
「…それが、平気みたいなんだ。」
「はい。確かに違和感はありますが、この程度であれば今後も大丈夫かと。」
「え…えぇ…」
呆気に取られるましろだったが、その直後、優弥はすかさず話を切り替えた。
「神威さんは、お前に用があってきたらしいんだ。内容は俺にもわからないが…。」
「ほえー…メイドさんが私に…?」
ましろが、そう言って神威に視線を向けると彼女は静かに立ち上がってましろを見つめ返した。
「はい。では単刀直入にお伝えします。水無月ましろ様。我が主人の命により貴女にはわたくしの指導の下、鍛練を受けていただきます」
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