高校生編シーズン2〜メア編〜 最終話『日常。そして…』

メアとの一件はましろがその身に彼女を封印した事により一旦の終焉を迎えた。


そして翌日、多田乃江 肇は妙な緊張感を抱えて通学していた。

考える事は他ならぬましろの事。

後から聞くに、昨晩がどうなるかの運命の日らしく、数日前から彼の家に住み着いた居候の少女『イヴ』はいくら事情を聞いても「明日直接会ってみたらわかるわ」とだけしか言わなかった為、彼は眠れぬ夜を過ごした。


彼女の落ち着きから大丈夫であると信じてはいたが、その目で確かめたわけではないので不安は消えなかった。


肇が浮かばぬ表情を浮かべて教室のドアを開けると、他の生徒達はまだ来ていないようで、早朝から感じた事のない静けさがそこにはあった。

時計を見るに、肇はその胸の緊張を抑えられず、いつもの1時間も早く教室に到達していた。


(なにをやってるんだ。僕は。)


思わずため息を漏らす肇。

すると、ふと誰も居ないと思っていた教室の隅の席から本のページを捲る音が聞こえてきた。


「み、水無月さん…?」


間違いない。

真っ直ぐ本を見つめ、穏やかな表情を浮かべるその姿は間違いなく彼のよく知る少女だった。


「…んっ、あっ!おはようございます。肇くん。」


肇の呼びかけは聞こえたようで、少女はそっと本を閉じて見つめ返す。


「あ、えっと、うん。おはよう。」


高鳴る心臓に戸惑いながら肇は自らの机に荷物を置いた。


「…その。体調は。大丈夫なの?」


事情を知る肇にとってはそれが何かの隠蔽工作な事は理解しているが、周りではこの数週間彼女は入院していた事になっており、肇は話を合わせて問いかけた。


「えっ、あ。ああ…。うん。大丈夫デスヨー…」


目線を逸らしながら、答えるましろ。

間違いなく彼女が帰ってきたという喜びとは裏腹に、何も言葉が見つからない肇。

すると、ましろが意を決したように言葉を紡いだ。


「あ、あの、肇くん!」


「えっ?」


「…その、みんなから聞いたんです。今回、『最初に気づいてくれた』のは肇くんだって」


「あ、あー…」


「だから、お礼を言わなきゃ…って言うのと…。私の事…どこから話そうかな…って考えていまして。」


「…」


「私がやっている事、知られた以上は話さなきゃって思うんだけれど…、信じてもらえるかわからないし、それに__」


徐々にましろが赤面しながら少し慌てたような仕草をしながら話していると、肇は「ふぅ」と息を吐いたあとに口を開いた。


「大丈夫だよ。水無月さん。僕は今回の件、誰にも言わないし、その先の話は何も聞かない。」


「えっ、でも…」


「そりゃ、気になるし。力になれるなら力になりたい…けど、僕には出来る事は限られているから。だから、僕は水無月さんがやってる事は間違いないって信じてる。だから僕にそれ以上は言わなくていいよ。…水無月さんが、水無月さんのまま居てくれたら。」


肇がそう言うとましろは暖かな笑みを浮かべて小さく「ありがとう。」と答えた。

その表情をみて、安堵と共に肇の心臓は今までとは別の感情で大きく脈打ち始めた。


(ダメだ…。僕、やっぱり水無月さんのことが…!脈絡がなくてもいい…!言え!今なら!言える!)


「あの!み、水無月さん!!僕は!僕は君の事が__」


肇が顔を赤くしてましろに向けて想いを告げる__。

その瞬間、教室の扉がガラガラと音を立てて開かれた。


「…え?ましろに多田乃江じゃない。は?なんで、二人してこんなに早いの?」


「ひ、柊…」


何も知らない柊こころは、その光景をみて問いかけた。


「ご、ごめん。水無月さん!なんでもないよ!それより僕、お腹痛くなったからトイレ…!」


悔しげな表情をしながら、ふらふらと教室からでていく肇。


「???。なによ。あいつ。」


「ううん…?何か言いかけてたんですが…」


それの姿を不思議そうな目で見つめるましろとこころ。

さて、肇の想いが届く日はいつか来るのだろうか…。


………

……


「身体の方は大丈夫か?」


放課後、いつもの理科室で優弥はましろに問いかけた。


「うーん?…今のところは?」


「そうか?まあ、何があるかわからないからな。違和感があれば早めに言えよ?」


「はい。ありがとうございます。」


「…それにしても、あの平和な期間が丸々罠だったとはな…」


あれから…。

メアとの事件が解決したにも関わらず、ガレア帝国による暗躍は日々続いていた。

まるで何もなかった期間が嘘だったかのようにも思える慌ただしい日常が再びやって来たのだった。


「油断大敵…ですね。」


「そうだな。…あっ、そうだ。」


優弥は何か思い出したように懐から封筒を取り出してましろに手渡した。


「チケット…?」


「水族館。前回いけなかっただろ?何とかチケットが手に入ったからさ。今度こそ…って思ってな。」


「わぁ〜〜!!行きます!絶対行きます!いつにしますか!?今週ですか!?明日ですか!?」


「待て待て!!落ち着け、こういうのはお互いのスケジュールを照らし合わせてゆっくり決めよう。」


目を輝かせながら喜ぶましろを制止させる優弥。

ましろはその直後、我に返ったのか小さく「ごめんなさい…」と答えた。


「大丈夫だ。今度は何があっても忘れたり遅刻したりしないから。焦らず二人で考えて行こう。この件に限らず、今後の事も。」


「…そうですね。」


二人はそう言って笑い合いいつもと変わらない放課後を過ごした。

変わらぬ明日と、再び交わした約束を果たせる日を願いながら。


メア編完

next…?

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