高校生編シーズン2〜メア編〜 第七話『共生』
その日の夜中、優弥は寝苦しくなり瞼を開いた。
…意識はしっかりしているのに身体が動かない。
感覚もある。
しかし、あらゆる場所を動かそうとするも、ぴくりとも動かない。
すると足元から何かが蠢く感覚があった。
「…メアか。」
「くひひひ…あ・た・り♡」
邪悪な笑みを浮かべ、優弥の視界に飛び込んでくるメア。
しかし優弥は一切動じなかった。
「私を探すのも諦めて眠るなんて、薄情な人ね。」
「…何のようだ…。」
「くひひ、聞いて驚きなさい!!私を完全体にする最後の一滴の精は、神崎優弥。貴方から貰う事にしたの!」
「…」
「素晴らしいとは思わない?最後は貴方自らが私を完全体にするの!滑稽よね!」
「俺がお前を完全体にするだと…?」
「そう!ずっと考えていたの。貴方のせいによって、『私』は私でなくなるの!」
光悦とした表情で、優弥に語りかけるメア。
だが、優弥は相変わらず動じない。
「ああ、滑稽だな。大方そんな事だろうと思った。」
「…何…?」
「…そうか。お前自分でも自覚していなかったんだな。ましろの意思まで取り込んだせいか?」
「…何を言ってる?」
「お前は、誘い込まれたんだ。」
優弥がそう言った瞬間、メアは突如背後に衝撃が走る感覚を感じた。
自分の胸元には刀。
メアはその胸をレヴェリールフレに貫かれていた。
痛みはない。
__だが、定着しつつあった魂が強引に引き剥がされる感覚をメアは感じていた。
「ルー…シャ…!?…何故…こんな!?」
胸を貫かれた事で、力の制御ができなくなったメア。
それにより、身体の自由を取り戻した優弥が身体を起こしてメアを睨んだ。
「…思い返せば違和感は色々あった。」
「違和感…だと…っ!?」
「1つ、あれほどに人を欺き、意思を操る能力を持つお前なら必要な力を蓄えるのに一日もあれば十分なはずだ。なのに何故お前は数週間も俺たちに猶予をあたえた?」
「それはお前たちを絶望させるために…!」
「2つ、お前が現れるのは決まって、ましろと俺が待ち合わせを交わしたあの街だ。そして昨日は俺たちが約束を果たせなかった水族館に現れたな。何故だ?」
「…!」
「3つ目、お前は何度もルーシャと対峙して圧倒的な力の差があるのに必ずあいつを倒しきらず。いつも姿を消す。お前が言うように本当に邪魔ならいつでも消せたはずだ。それは何故だ。」
優弥の言葉でメアはハッと目を開いた。
「なによりお前は立ち去る前、必ず俺の前に姿を現す。…それに何の意味があった。」
「それは…、それは…!!」
「お前がその気ならお前の目的なんてすぐに達成できたんだ。なのにお前はそれをしなかった。まるで俺たち…いや…俺に何かを知らせるように。…だからわかったさ。最後は俺のところに来るって__なあ?『ましろ』。」
彼はそっとメアの肩に触れて、そう言った。
メアに対してではなく、目の前の『少女』に強い眼差しと優しい口調で__。
「何を馬鹿な事を__!」
「お前は、あの日。遅れた俺に怒ってるんだろう?優しく物分かりのいいお前だから、仕方がないって思おうとしたけど、お前も女の子だもんな…傷ついちゃうよな。」
「…。」
「ごめんな。ましろ。俺、お前を護りたいって一心で、レヴェリーヴァイスじゃなく、水無月ましろ…お前と言う存在をいつのまにか見なくなってたみたいだ。」
「何を言って…」
「だから、もう許してくれないか?埋め合わせだってちゃんとするから。もう、終わりにして帰ってきてくれよ。なぁ?」
優弥の言葉は、メアにはまったく理解できなかった。
しかし…
「___お兄…ちゃん」
小さい。
けれどはっきりとした言葉。
メアの口からその言葉が漏れ出たその時、優弥は彼女の背後に立つルーシャへ視線を送り合図を出した。
「はあっ!!!!」
合図を確認すると、ルーシャはメアの身体に突き刺した刀を引き抜いた。
それは音もなく引き抜かれ、刀が刺さっていた部分に傷もない。
代わりにルーシャの持つ刀にはゆらめく炎を纏った球状の何かが突き刺さっていた。
『なに?何が起きた!?』
その球体…メアの魂が言葉を漏らす。
「わたくしの持つ二刀のうち一本。アルマは、物体以外の物を斬る刀。完全に融合を果たせていない異物である貴女をしーちゃんから引き剥がす事ことだってできますわ。」
ルーシャがそう話した直後、ましろの姿が元に戻り、何かが抜け落ちたように優弥の胸元へ倒れ込んだ。
『くっ、何故私がこんな目に!?』
「…お前が、あいつの身体を奪った時、俺たちが見抜けないほどお前は完全な『ましろ』になっていた。でも、完璧すぎるあまりいつの間にかお前はましろの意識も感情も無意識のうちに自分のものだと錯覚してしまった。だから、お前の計画は成立しなかったんだよ。」
『なにが…言いたい…』
「残念だが、お前は目的を果たす前に、あいつの全てを取り込みあいつの感情に突き動かされた時点で、お前の計画は上手くいかなかったんだよ。」
『くぅっ…!!!!』
悔しげな声を漏らすメア。
「ルーシャ。それ貸しなさい、とどめは私がやる。…よくも私たちを舐めてくれたわね!!」
一連のやり取りを、部屋の隅で静観していたこころが、ルーシャの刀を奪い、メアをその場に叩きつけると再びそれに向かって刃を向けた。
「よくもやってくれたわね!私達を騙した事、あの子を利用した事も全部、その命で償なさい!」
(何?死ぬ?この私が…?嘘…あり得ない…!!だって私はまだ__!」)
「終わりよ__!」
焦りを感じ始めるメアに対して、無慈悲にも刀を振り上げたこころ。
そしてそれは静かに振り下ろされ__。
「ま、まって!!こころちゃん!!!」
静かな部屋に声が響き渡る。
声の主はましろ。
先程までもたれかかっていた優弥の胸から身を離し、こころをまっすぐ見つめていた。
「…待てってなによ。こいつどうするつもりよ!?…まさかあんた…」
「…うん。私、この人をなんとかしてあげたいんです。」
ましろの思わぬ回答。
その言葉を聞いて、その場にいたすべての者が驚く。
「…なぜだ?」
「そうよ。あんたまだ操られてるんじゃないの!?」
「ううん。大丈夫。でも…ごめんなさい…。私、メアに乗っ取られてから今まで何をしていたのかわからないんですが、ずっと夢を見ていたんです」
「それはしーちゃんの夢ですの?」
「ううん、メアの。彼女のモノ…記憶とか理想とか…そう言うの。確かに邪悪な欲望とかいい気持ちにならないものばかりだったけど…でもきっとこの人は心の底から悪い人じゃない…と思う」
「はあ?勝手なこと言わないで!私たちがどれだけ苦労したと思ってんのよ!」
声を荒げるこころ。
それを仲裁するように優弥が咳払いをし、再び口を開いた。
「…仮に生かしてやるとして、どうするつもりだ?こればかりは野放しにするわけにも行かないぞ。」
「うん…。だから、レイカの時みたいに彼女の魂をライザー経由で私の体に封印します。」
「あんた正気!?あの時とは事情も、相手も違うのよ!?こんなやつのために身体差し出すって言うの!?」
「うん。私は、本気ですよ。」
その言葉と彼女の眼差しを前に、誰も口を開く事ができなかった。
すると、優弥がそっとましろの頭に手を置いて、わざとらしくため息をついた。
「…はぁ、わかったよ。ましろ。納得はできないが…、お前が思うようにやってみろ。ただ一つ俺からの条件を呑めるなら。」
「条件?」
「ああ、お前の言うように今回は被害者はいないし、お前が戻って来るなら、これ以上メアを追い詰める理由はない。だが、あくまで最優先はお前の安全だ。こころの言うようにレイカとはワケが違う。だから、お前の身に危険が無いよう一応俺も手綱は握るぞ。」
それはましろが再び乗っ取られることのないようにすること、それが彼の出した条件であり、安全策だった。
「…うん。わかりました。もしも私がダメになりそうだったその時は…お願いします。
「…ぐっ…。勝手に話を進めやがってぇ…!もう知らない!!馬鹿ましろ!!私は帰る!…いい!?明日学校来なかったらぶん殴ってやるから!」
納得いかない表情を浮かべてその場を去るこころ。
口は悪いけれど普段は感じられない優しさを感じて、その背中にましろは「ありがとう」と呟いた。
それに対して彼女からは「ふん!」と大きな返答が返ってきた。
そして、こころを見送った後ましろはルーシャからライザーを受け取ると、リメアの魂の前に座り込んだ。
『どういう風の吹き回し?こんな事しても恩なんて返さないわよ」
「うん。私がなんとなくそうしたいだけ、一緒に世界を見れたらな。…って。だから大人しくしてくださいね。」
『はあ?今に見てなさい。必ず貴女の体奪ってやるから。』
「なら、私も負けませんから。」
ましろはそう言うとスフィアライザーを目の前の球体に翳した。
すると球体は、ライザーに取り込まれ、ましろの身体が一瞬紫色の光を放った。
「…ッ!?」
メアの力を再び受け入れたことによるその溢れる力の濁流の影響で胸を抑え、膝をつくましろ。
「しーちゃん?!大丈夫ですの!?」
「う、うん。ちょっと…、ヘトヘトな身体で取り込んじゃったからびっくりしただけ…です。」
優弥はましろが手から離したライザーを手に取り、画面を確認した。
「…安心しろ。封印自体は上手くいってる。…今のところはだが。__俺はこれから、もしもの時強制的にメアを引き剥がせるように対策をしておく。二人とも疲れたろう?ゆっくり休んでくれ」
そう言うと優弥は目の前にいる二人の頭にそっと手を置いた。
「…そうですわね。帰りましょ。しーちゃん。」
「はい。…あと、二人とも助けてくれて本当にありがとうございます。」
小さく頭を下げるましろをみて、ルーシャは安堵の笑みを彼女に送り、そして、優弥は彼女を抱きしめ「おかえり」と呟いた。
しばらくすると、ルーシャの迎えの車が到着し、ましろもそれに乗り込む形で二人は優弥の家から立ち去った。
こうして数週間に渡るメアとの抗争は幕を閉じたのだった。
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