高校生編シーズン2〜メア編〜 第六話『解』
……
それからルーシャは約数週間ほどの間手にした力で、ましろの代わりに戦い続けた。
『ましろ』は、あの日以来学校には来ておらず、多少の目撃者がいる程度で、彼女を見つけられるのは淫魔の力を解放した時くらいだった。
その反応を辿ってルーシャはキメラや魔物と戦う中、最初こそはメアと刃を交える事もあった。
しかし、全く歯が立たない上次第にメアはルーシャの戦っている隙に、事を済ませるという方へと計画を変えたらしく、優弥達と手分けしてようやくメアを見つけた時はもう手遅れであり、必ず彼女は優弥達に『完全な融合に至る残りの日数』を告げて、彼らを焦らせていた。
そして…時は過ぎタイムリミットは目の前というある日にまで彼らは追い詰められていた。
「…不味いわね…。あと一日。あと一人なんて…もう、今日しかないじゃない…どーすんのよ!?」
その日の昼休み、こころが優弥に問い詰める。
しかし、優弥は何かを深刻に考えている様子で一言も口を開かない。
「ココロ。落ち着いて。まだ時間はありますわ。」
「時間があるって…。今日の夜があいつの言ってるタイムリミットなのよ!?」
焦るあまり声を荒げるこころ。
彼女を励ますルーシャも出来る限りの手段を用いているが、ましろの姿を見つけることすら出来ないでいた。
「…かくなる上は…お母様に__。」
ルーシャがスマホを取り出そうとする。
すると、優弥がその手を握り制止した。
「待て。ルーシャ。その必要はない。」
ずっと何かを考え、口を開かなかった優弥が突然そう言った。
「で、でも、ユウヤ…」
優弥は、大丈夫だ。
というと、少し間を開けて再び口を開いた。
「…メアに関して、あいつが姿を消してからずっと気がかりな事があった。今、その事を考えたら一つの結論に結びついたんだ。」
「結論って何よ。」
「聞いてくれ。それは__。」
………
……
「はあ!?馬鹿じゃないの!?」
約数十分に及ぶ優弥の説明を聞いたこころが叫んだ。
『だが、神崎の言っている事も事実。奇妙な話だがな。』
その場にいた皆が納得していたわけではない。とはいえ、愛奈は優弥の提案に肯定的だった。
「信じてくれ。俺の考えは間違いない…きっと。」
「そんなの…確実じゃないじゃない…」
悔しげな顔でこころは目線を逸らす。
「ああ…でも90%くらいはそうだと信じている。」
「でも…!」
親友の運命を左右しかねない作戦にどうしても納得いかないこころ。
ルーシャはそっと彼女の肩に手を置いた。
「ココロが優弥を信じられないのはわかるわ。私だって飲み込めたわけではありませんの。でも…何も手がなくて無闇に探すより彼を信じてみましょう。」
ルーシャの言葉を聞いて黙るこころ。
その後、優弥達は今晩の作戦を練って、いつもの日常へと戻っていった。
………
……
「ふう…。」
その日の夜、優弥は時計を片手に自宅のベランダに立ち、遠くを眺めていた。
21時を回った時計を確認して安堵し、片手に持った麦茶を口に含んでその場に座り込んだ。
「こんばんわ。神崎優弥。」
優弥の頭上、屋根の上から声がする。
少し驚いて視線を向けると、意外な人物が立っていた。
「アイヴィ…!」
アイヴィ。
ガレア帝国の幹部であり、スフィアライザーを狙う優弥達にとっての敵。
レヴェリーヴァイスをライバル視して度々ましろが剣を交えた相手でもある。
そんな彼女が優弥の目の前にいる。
優弥は少し身構えるが、異変に気づく。
彼女の来るところに巻かれた包帯、パッとみただけでも軽傷ではないのがわかる。
「安心して、戦いに来たわけじゃないわ…。」
屋根からベランダにそっと降りて、彼に視線を合わせるアイヴィ。
その表情は、どこか憂いげのあるものだった。
「お前…何があった…?」
ただ事ではないと感じた優弥は彼女に問いかけた。
「…そんな事気にしてる場合?…捨てられたのよ。用済みって。」
彼女はガレアがかつて王国と呼ばれていた時の姫君であると、優弥は知っている。
そんな彼女が捨てられたなんてにわかには信じられなかった。
「…もう、貴方達のもつマキナスフィアも狙う意味もないし、アタシには生きていく場所なんてないの。…アイヴィってバカな女は無駄に踊らされて死んだのよ。」
「…」
返す言葉もなく黙り込む優弥。
しかし、それを見て彼女は少し笑みを浮かべて再び口を開いた。
「でもね。面白い男に拾われたの。それで…傷だらけの私を手当したソイツがアタシに頼んだの。『居場所なんていくらでも作ってやるからある女の子を助けてくれ』ってね。」
アイヴィは優弥にそう言い、ウィンクした。
彼女の話す人物が言う『ある女の子』というのがもしましろなら、そんな願いをする人物は優弥は一人しか思いつかなかった。
「多田乃江…!」
「ふふっ、全く…偶然とはいえライバルであるアタシに頼むなんて皮肉よね。それで今ここにやってきたわけなんだけど…。」
アイヴィはじぃっと優弥の表情を見つめると、ふっと笑いそっぽを向いた。
「ふん、なあにその顔。何か確信に気付いたみたいね。…これ、アタシは不要な感じ?」
「ああ。…俺たちで何とか出来る。」
「はあ…何よせっかくその背中ぶっ叩いてやろうと思ったのに無駄足じゃない。」
アイヴィの反応に対し、優弥も小さく笑みを浮かべる。
「無駄じゃないさ。お前が来てくれたおかげで確信だと分かったからな。…ゆっくり傷を治せ。無事に済んだら俺たちもお前の力になってやるさ。」
「…まったく…お人好しすぎよ。__あの子。助けなさいよ。」
「任せろ。アイヴィ。」
「違うわ。アイヴィはもう死んだの。私はイヴ。ただの流れ者のイヴよ」
優弥に向けてそう宣言すると、アイヴィ__イヴは音もなくその場を飛び去った。
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