高校生編シーズン2〜メア編〜 番外編『前世』
前世との宿命。
空想の物語上よく見かけるお話の展開である。現実的的にはそれを唱える者もいるが、証拠に乏しい話でもある。
しかし、私はそれに直面した。
それは私『水無月まふゆ』が旅の合間で遭遇したとある出来事。
あれは春の終わり時期のある日の晩、その日は最近やけに騒ついていた私の胸がピークを迎え、悪寒すら感じる寝付けない夜だった。
その感覚は初めてではなかった。
けれど、その日ややけに酷く、その原因も理由も不明。
この胸の感覚はなんなのか、少し戸惑いながらその日私は宿の屋上から街を見下ろしていた。
するとしばらくして、電流にも似た鋭い感覚が身体を駆け巡り、音もなく黒い影が私の背後に現れた。
「くひひ…、近づくほど懐かしい気配がすると思えば驚いたわ『ティア』。貴女なの。よく無事だったわね」
月の光に照らされ現れたその姿を見て私は息を呑んだ。
「ましろ…?いや…」
それは間違いなく私の娘の姿。
しかし、私の中にある記憶や感覚はそれが私の娘であることを否定した。
なら、彼女はなんだ?
その疑問を探る中、私の頭の中である記憶にたどり着いた。
それは、私を幼い日から苦しめてきた私のものではないはずなのに時折鮮明に彩られる記憶。
「…なんとなくわかる。一体なんのつもり?『リメア』。」
当然、彼女の言うティアと言う名も、リメアという名前も私は知らない。
…これは信じ難い話ではあるが、所謂前世の記憶というものだろう。
しかし、こういった感覚が初めてと言うわけではなく『セリカ』の一件以来私の中に『私のものではない記憶』がある事は知っていた。
だから今更この事に驚きはしなかった。
すると、私の問いに対して目の前の女は、気味の悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「一応『私』の親だもの。挨拶しないと。…ねぇ気分はどう?娘の身体を奪われる親としては?」
「そう。貴女死んだのね。だから未練がましく私の娘に取り憑いたの。」
見た目はましろでありながら、気配は別の存在というチグハグな状態とその言動。
恐らく訳あって今のリメアには本来の肉体がなく、新しい肉体として選ばれ乗っ取られたのが、私の娘ましろなのだろう。
「そう…まだ完全じゃないけれど、あと少し…あと少しで私の魂とこの体は完全に混ざり合うの…あぁ…。貴女の娘の身体は申し分ないわよぉ。」
舐め回すようにその身体を指でなぞり、光悦とした表情を浮かべるリメア。
「…ふっ。いいたいことはそれだけ?亡霊にしてはよく喋るわね。」
呆れた表情を浮かべながら私は答えた。
「…へぇ、焦る表情も見せず動揺もしないなんて、母親失格ね。娘に対する情すらないのかしら」
淡々と返答する私に対して、リメアの声色が変わった。
「焦る必要なんてないもの。あの子は貴女に屈しない、だって本当のあの子は私でも手に負えないもの。それに、味方も多い子よ。いずれ飼い慣らされるのは貴女の方になるわ。」
冷めた目で私はそれを睨んだ。
『今の』ただの人間にすぎない私にとって奴は怪物とも言える未知の存在であり、その言葉に確証はない。
少しだけ冷や汗は滲むけれど、不思議と不安はなかった。
そこに前世の記憶は関係ない、私は誰よりもあの子の強さは知っている。
だって、私は水無月ましろの母親だから__。
「負け犬の遠吠えにしてはなかなか煽ってくれるじゃない…!せいぜい手遅れにならないよう足掻きなさい。私が完全な姿になったらまず絶望した貴女をこの手で殺してやるから…!」
そう言った後リメアのその姿は、まるで影に溶け込むように消えていった。
結局奴は私を殺さなかった。
やろうと思えば簡単にできたはずなのに…。
この状況に私は深く安堵した。
それは私の命が助かったからではない。
ヤツの行動には幾つか疑問があった。
私のことを知りながら生かしておいたのもそうだが、
『なぜ奴は用もなく私の前に姿を現し、正体を明かしたのか。そして何故完全じゃないことまで話したのか…』
勝利を確信した余裕にしては、彼女の感情の動きを見るに会話の中に明らかな動揺がみられた。
ならば、考えられることは…。
「…!そう。ましろ。貴女はやっぱり強い子ね。ふふ…リメア手遅れなのは貴女のほうよ。」
私は一人そう呟くと、今後を見据えてスマホを取り出し、ある人物へと通話を繋いだ。
「…夜分遅くごめんなさい。『せつな』。貴女に頼みがあるの__。」
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