高校生編シーズン2〜メア編〜 第三話『疑い』

「ぐっ…ああ…。おのれ…っレヴェリーヴァイス…っ!!」


幾分か時間が経ち、生き残った一人のガレアの兵が立ち上がった。

彼は、憎しみを込めて武器を手に取ると拘束されているましろの元に駆け寄る。

そしてその手の剣を振り上げた時、彼の動きが固まったように停止する。


理由は目の前の存在の胸を突き刺すような眼光。

それを見て男は目の前の人物がすぐに『誰なのか』を悟った。


「リメア様…?」


「…なにを見ているの。早く降ろしなさい…」


「はっ!リメア様!!」


触手が断ち切られ自由となったましろ(?)は、その身体をあらゆる方向に曲げ、軽い体操を始めた。

…まるで、その身体を確かめるかのように。


「んんっー。私とあろうものがまさかあの程度の拘束も引きちぎれないとはね。…まあ、あれだけ戦った上、まだ馴染んでいないのもあるか。まぁ…ただの村娘にしては上物ね。」


淡々とそう口にするましろ(?)。


「リメア様…!受肉おめでとうございます。…しかしよかったのですか。その姿だと他の者に勘違いをさせかねないかと…。」


「あら、構わないわ。そんな些細な事。どうせ私にかなうものなどいないもの。」


「流石はリメア様…!それで…今後はどうなさいますか?このままこの地を…?」


男の問いに対して、わざとらしく考える素振りをみせるリメア。


「いいえ。…どうやらこの感覚。身体が私の魂を拒んでるみたいなの。事を始めるにはまず完全な同化を果たしてからね。」


「そ、それはすなわち…」


メアはニヤリと笑いその身体の胸を自ら軽く揉みながら答える。


「そ。吸精…。でもこの身体はこの世界のモノだから。この世界の人々に手伝ってもらわなきゃね。」


不気味かつ妖艶な笑みを浮かべるリメア。

その姿に身体の持ち主であるましろが浮かべる表情とは思えないほどであった。


「…貴方は役目を果たしたわ。よく生き残ったわね。お疲れ様。もう戻っていいわ。」


「はっ、光栄にございます!!ではリメア様わたくしはこれで。」


男は一礼し背を向けて立ち去ろうとする。

その背中を見ながら、彼女は思い出したように言った。


「…生き残った貴方にせっかくだから最後に言っておくわ。この姿を手にした時私はもうリメアではなくなったわ。…名前は…そうねぇ…。『メア』。『メア・シュヴァルツ』。そう呼びなさい。」


新たなヴィランはこうして生まれたのだった__。


………

……


自宅を飛び出し、あれから数十分。

優弥とこころは急いで隣町の待ち合わせ場所にやってきた。

愛奈が示した場所には、人祓いの魔法が張られていたはずだったが、町はすっかり元の賑わいを取り戻している。


「なにもない…。まさかあの子一人で解決しちゃったの?」


「いや、戦った痕跡すら見られない。…機関の隠蔽工作でもないな。」


あたりを見回す二人。

待ち合わせ場所に指定した建物の前にもましろは見つからない。


「ああっ、もう。どこ行ったのよ。私の電話くらい取りなさいよ!」


こころがスマホを触りながら苛立ちをみせる。

それとは別に周りをくまなく探す優弥。

普段であれば何があるかわからないため近づかないような路地裏でも、手掛かりを求めて入り込んだ。

…そして。


「ましろ!?」


赤みがかかった黒髪。

そしてその後ろ姿。優弥は見間違うはずがない。

彼女は路地裏の暗がりを抜けた先で、立っていた。

彼の声を聞いて振り向く少女。


その顔は間違いなくましろだった。


「…あっ…。お兄…ちゃ__」


ましろが言い終わるより先に優弥はその姿を強く抱きしめた。


「わっわっ、苦しいよ…お兄ちゃん。」


ましろがか細い声で呟く、髪は乱れており着ていた服はあちこちが破れ、ボロボロになっていた。


「…すまない。ましろ。俺が約束を忘れたばかりに…こんな…。」


優弥はその胸の少女に深く謝った。

一方ましろは何も言わずただそのまま、抱き留められる。

そして数秒後、彼女を離すとスマホを取り出した。


「…待ってろ。こころに連絡する。」


スマホを取り出してこころに連絡をした優弥、するとすぐさま彼女は息を切らして現れ、ましろに飛びついた。


「馬鹿ぁ!!なんで連絡一つよこさないのよ?!あいつが約束すっぽかしたのも怪しいと思ったなら私に早くいいなさいよ!」


こころに対し、一瞬ぽかんとした表情をするましろ。


「…うん。ごめんなさい。…ここ…ろちゃん?」


落ち着いた表情にすぐに戻り、こころのその身体を受け止めたが、優弥は一瞬違和感を感じていた。


「…お前。どうした。様子が…。」


「く…。…あはは。魔物を倒すのにちょっと疲れたのかもしれません。数も多かったので。」


少しばつの悪そうに笑うましろ。

優弥はその違和感を拭えないでいたが、気のせいだろうと二人のその様子を見守った。


すると、彼は彼女の背後に建物に寄りかかる形で男性が倒れていることに気づいた。


「お前。あの人は?」


「__はい。私がこの場所に来た時にはもう意識がなくて…。幸い命に別状はないみたいなんですが、救急車が来るまではそばにいようかと。」


頬に手を当てて困ったような表情を浮かべるましろ。

優弥やこころも男性の様子を確認するが、呼吸も安定しており、ただ眠っているだけのようにみえた。

__ただ着ていた衣服は少しはだけていた。


その後、直ぐに救急隊が駆けつけ、男性は救急車で運ばれる事となった。


「ふぅ、でもあんたに何事もなくてよかったわ」


「心配してくれてありがとう。こころちゃん…」


「…本当にすまない。ましろ。待ち合わせを忘れるどころか、お前を一人にしてしまって。また今度埋め合わせするから、今日は御飯でも__。」


「ううん。いいんです。今日は『いいこと』ありましたし、それに実は『美味しいもの』食べたばかりで…あとは帰って休もうかなぁって…」


「そう…か。」


「えー?あんたが一人で外食?足りたの?」


「ひひっ。腹八分ですよ。こころちゃん」


二人のやり取りを尻目に相変わらず少しの違和感を感じる優弥。

三人はその後寄り道をすることもなく、帰路に着いた。


………

……



碧明高校二年、『多田乃江 肇(ただのえ はじめ)』はごく普通の男子。

勉強も運動も得意でもなければ下手でもない。優しく正義感はあるが、誰かのために率先して動けるタイプではないし、目立つ取り柄がなにかあるわけではなかった。

しかしそんな彼でも、好きな人が居る。

それは幼稚園の頃からの幼馴染の水無月ましろ。


意識し始めたのはいつだったのかも分からないが、小学五年生の頃にはもう彼女を意識していた。

高校に進学してもたまたま同じ学校で二年続けて同じクラスにもなり、そろそろなにか勇気を出して行動に移したいと考えるも目で追うばかりで、遊ぶ約束すら満足にできない。

もう何年も意識し続けたせいか、彼女の仕草などにも見慣れており、側から見たら気持ち悪がられるだろうが、それだけ彼女を想っていた。


しかし、ある日を境に肇は違和感を感じるようになる。

彼女の口調や仕草などが、今まで通りなように見えて『それを取り繕っているかのような』若干の異変を感じていた。

年頃の女の子だから心境が急に変わる事もおかしくないのかもしれないが、何の前触れもなく突然、まるで中身が変わってしまったのではないかと彼は感じていた。

そして、それに誰も気づいていない。


「み、水無月さん。なんか最近…あった?」


意を決して、肇は隙をみつけて彼女に問いかける。

すると、彼女は一瞬、ぽかんとした表情を浮かべ、すぐさま微笑んだ。


「何かってなんですか?もぅ…変な事を言いますね。『多田乃江くん』は!」


(やっぱりだ…。何かおかしい…。)


目の前にいるましろに対して少し恐怖を感じ、その場を後にする肇。


__その姿をルーシャは遠目で見ていた。

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