高校生編シーズン2〜メア編〜 第ニ話『すれ違い』

「ふーっ。」


パソコンを開き、愛奈の作成した資料に夢中になっていた優弥。

一通り目を通し終わった彼はそっと息をついて、ぐぐっと背伸びをした。


「なるほどな…。確かにこれがあれば…。あ、そうだ。あそこの部分は修正が欲しいから連絡を…」


優弥はそっと電源の入っていないデバイスに手を伸ばしてハッとする。

何か重大なことを忘れている。

__それはましろとの約束。


「やばい!大遅刻だ!!」


時刻は19時を過ぎており、優弥は慌ててましろに電話をかける。


…しかし繋がらない。

もしかしたらと思いデバイスの電源を入れると、おそらく待ち続けているましろからの着信履歴が表示され、焦る彼は彼女のライザーに着信を掛けるが…こちらも繋がらない。

怒って家に帰ってしまったか。

そう考えた優弥は、彼女の姉に連絡を取るも外出したきり戻っていないと言う。


「…くそッ、何やってんだ俺は…!!」


やるせ無い気持ちを覚え、壁に頭を軽く叩きつけた彼は、ましろの行方を探すため、彼女の仲間達に連絡を繋いだ。


……


「信じらんないッ!!アンタって最低ね!!」


ましろの行方を探す為、こころに連絡を取った優弥。

連絡を受けた彼女は、返答することなくすぐさま彼の家に乗り込み、彼の頬を殴ったあとそう言った。


「…返す言葉もない。」


殴られた力と、全身に気力がなくなりその場に尻餅をつき、俯いたままそう言う優弥。

通話越しにやり取りを聞いていた愛奈は


『忘れたのは神崎が悪いが、後の為だったんだ多少は目を瞑ってやってもいいんじゃないか?』


と言うが、すぐさまこころはそれにも声を荒げた


「いいわけないでしょ…。後の為?どうせ戦う事でしょ!?」


激怒するこころ。

しかしその瞳にはほんの少しだけ涙が見えた。


「あの子も私も普通の女の子なのよ!?武器とか装備とかそんなのより、普通の女の子として楽しいことしてる方が嬉しいに決まってるでしょ!?」


そう言うこころは「それにアンタ!」と優弥を指差し言葉を続ける。


「普段オシャレなんかと縁遠いあの子が、今日の為、アンタの為にどれだけ気合い入れたのかわかってんの!!?」


座り込む優弥の胸ぐらを掴み彼を無理矢理持ち上げたこころは叫んだ。


『…柊。余計な事を言ったことは謝る。そして言い足りないのはわかるが、その辺にしておけ、まずは水無月妹を探さなくてはな。』


デバイスのスピーカーから響く愛奈の声を聞いて、こころはそっとその手を離した。


『あの子の性格的に、誰にも何も告げず音信不通なんで考えられない。そうなると考えたくはないが…」


「…あいつ。どこにいるのよ?まさか…」


『…いま広域的に情報を確認した。数時間前に神崎が待ち合わせしていた付近に小規模ながらマナの反応があったようだ。…ここにレヴェリーヴァイスのマナも観測されている。その後はどこ行ったのかは不明だが…。やられたな。偶然かは知らんが完全に裏を取られた。』


「…よりによって今日なんてな。」


優弥が立ち上がって口を開く。

数ヶ月もの間ガレア帝国の襲撃はなく、一日くらいはと仲間達が考えていた矢先の出来事だった。

運悪くたまたまなのか。

…あるいは…。

…だが、今はいくら考えても過ぎた事でしかない。

優弥は、考えを振り切って、ましろを探し出す事に思考を切り替えた。


そして小さく「ごめんな」とこころに告げ、


「俺が、今からその現場に行ってくる。手掛かりがあるかもしれないし。それに…直接謝らなきゃな…」


と言って上着を羽織ってバッグを手に取った。


『…柊もついて行ってやれ。気まずいかもしれんが、こいつにも何かあってからじゃ遅い。』


「…ふん。」


愛奈との通信の後、優弥とこころは会話することもなく足早に家を飛び出した。


……


「くひひ…兵士15体。魔物28体…か。凄いわねえ。まさか、一人相手に私の手下が全滅するなんて予想外。もっと連れてきた方が良かったかしらあ…。」


薄暗い空間の中、高台から見下ろしましろの戦いを見ていたリメアは笑みを浮かべながらそう口にする。


「はあ…はあ…、あ、あなたが最後ですっ!」


リメアを睨みつけるましろ。

しかし剣を杖のように地面に突き立て、今にも膝をつきそうなほど、彼女の全身が悲鳴を上げていた。


「くひひひ…まだやるの?どの道貴女はここに導かれた以上もう負けは確定してるのに。」


「…?」


「気づいていなかった?貴女は戦いに夢中になるあまり私の手下を追いかけて、私の『巣』に迷い込んだの。」


はっとしてあたりを見回すましろ、そこは無機質に広がる御伽話の古城のような古ぼけた一室。

そこには怪しくゆらめく紫色で照らされた光以外に光はなく、先程まで街中にいたはずのましろを動揺させた。


「いつのまに…こんな…!?」


「残念ねえ。追い詰めたと思っていたのに追い詰められていたなんて。」


ゆっくりと、歩み寄るリメア。

ましろは力を振り絞り剣を構えると、その胸に刃を向け突き出した。


「…なっ…!?」


ましろの視界の中、剣は確かにリメアの胸を貫いている。

しかし、何かを貫いた感覚はなく、リメアはその光景を見て大きく笑った。


「…無駄よ。だって私、死んでいるもの。身体のない私に物体は通用しないわ。」


もう剣を握るのも限界で、その顔に絶望を浮かべたましろ。

力の限界を迎えた彼女から身を包んでいた光は消え、その姿を『レヴェリーヴァイス』からただの少女へと戻した。


「あっ…ぐっ…!?」


その場に膝をつき大きく息を吸ったましろは、その歪な空気の異変に気づき胸を強く抑えた。

この空間ではまともに息をしてはいけないという感覚が彼女を襲うが焦る気持ちは逆に息を荒くさせた。


「なに…っ、これ…っ」


「そう。やっぱり、変身している貴女には通用しなかったのね。ここは私の空間、淫魔のマナで満ちた空間よ。それを取り込んだ抵抗する力のない人間は皆正気を失うの。」


高鳴る鼓動、焼けるように火照る身体。

身体のあちこちが疼いて抑えられない。

今すぐ敏感な部分に触れて、快楽に身を委ねて気持ちよくなりたい。

ましろは意識が飛びそうなくらいに、思考が性欲に塗りつぶされその場で悶えた。


「あ、あらたは…なひが…もくてき…なんれしゅか…」


必死に意識を繋ぎ止め問いかけるが呂律がまわらないましろ。

その身体をどこからか現れた触手が拘束し、彼女をリメアと向き合わせた。


「目的…ね。簡単な話よ。」


そう言って彼女はましろの顎にその「存在しない手』で触れた。


「__私ね。まだ死にたくないの。でもこの姿では何も触れられない、何も感じない。気持ちよくないの。だから…身体が欲しいの…」


「からだ…?ま、まさ…か…」


「くひひっ!そう!!…ねえ、頂戴。貴女のその身体。ほら、私と一つになりましょう…?」


「い、嫌っ!離してください!!」


何かを察して踠くましろ。

しかし拘束は振り解くことができない。


「くひっ、無駄よ。ほぉら感じる?いま…私の手と私の足が貴女のモノと一つになった…」


「くっううっ!!」


「ほら、ほら腰が、胸が…。待ちきれないわぁ。さあ…後少し…水無月ましろ…貴女は私のものになりなさい…」


徐々にましろの身体を侵食していくリメア。

そして。

そのリメアの魂の唇がましろの唇に触れた瞬間__。



__ましろの意識は黒く塗りつぶされた。


………

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