高校生編:エピローグ

「ぐあっ!!」


ましろが見届けていた神崎優弥とガレアの皇子シグナスとの一騎打ち、世界の命運をかけたそれは優弥の一撃がシグナスに届き、戦いの決着がついたのだった。


「お前の負けだシグナス」


「ああ、そのようだ。だが…、僕の計画はまだ終わっていない。…種は蒔いた。あとは芽吹くのを待つだけだ」


「なんだと…?」


「ククク…。一度歪んだものは元には戻らない…。世界も同じだ。精々足掻いて生きていくんだな。」


「お前に言われるまでもないさ」


優弥の言葉を力無く笑い飛ばしたシグナスは、立ち上がれないまま二人を見つめていたましろに向けて手を伸ばした。


「…レヴェリーヴァイス。君がどれだけ澄んだ心を持っていようと絶望は君を襲う。その絶望から僕が救ってあげよう。君さえ僕を望めば…」


「…必要…ありません。」


ましろの返答を聞くとシグナスは塵となり消えていった。

__最後まで笑いながら。

その姿を見届けると、優弥は力なく座り込んで深く息を吸った。


「はあ…。終わった…か。」


「はい。」


「帰ろう。みんなのところへ」


「はいっ。」


互いに見つめ合い、笑い合う二人。

優弥はましろに手を差し出し、お互いに支えとなって歩き出した。



「ユウヤ!!しーちゃん!!」


異空間から抜け出した二人を待ち受けていたのはルーシャ。

彼女は二人の姿を確認すると、勢いよく抱きついた。


「えへへ…ルーちゃん。無事でよかった。」


「それはこちらのセリフですわ。…みんなも心配しておりましてよ。」


ましろが目を向けたルーシャの背後には、傷だらけではあるもののこころや愛奈、そしてアイヴィーやエリスが立っており、彼女達も同様にましろと優弥の帰還に安堵している様子であった。


「…?神威さんは…?」


「あいつ、無理して戦ったから傷が深いんだって。セリカ…レヴェリーフローラが病院に連れて行って命に別状はないってさっき連絡があったから安心なさい。」


心配そうな表情を浮かべるましろに、こころがそう答える。


「よかったな。ましろ。全員無事だ。」


「はい!」


戦いを終えた各々が喜び合い、今後の未来に安堵していたその時、彼女達に拍手をしながら近づいてくる人物がいた。

完全防備なボディーガードを両脇に連れた彼は、

『市宮 大地』。

国家特務機関ALPSの代表である人物だった。


「君たち、よくやってくれた。君達に頼るしかない我々がいうのもおかしな話かもしれないが、国家機関の代表として礼を言わせて欲しい。」


「いえ、市宮さんこそ、今まで私達を助けてくださりありがとうございました。…それで、こちらの状況は?」


「君の手でシグナスが倒されたことで、彼に操られていた民は正気に戻り、残された彼の家臣達も降伏した。そして暴れ回るキメラ達はレヴェリーフローラや協力者が倒してくれた。被害は想定していたよりも最小限で済んでいる。」


「そう…ですか。」


市宮の言葉にそっと息を漏らすましろ。

その様子に対して優弥は


「…もっと被害が出てもおかしくない状況だったんだ。その中でお前は戦いを終わらせた功労者なんだ。誇れとは言わないが、身構える必要はない。」


「そうとも、君達は『英雄』なのだからね。」


市宮はそういうと、少しだけ表情を変えた。

暖かく迎えた先程とは違った表情。

それをみたましろは嫌な予感を感じた。


「神崎優弥くん。君のその世界を救うほどの技術を評価して我が国での新たなエネルギー開発部門へ君を招き入れたい。英雄待遇だ。住む場所も賃金も良いことを約束しよう。監視も行き届いている場所だ身の安全も保証する。」


市宮の言葉を聞いて、優弥以外の仲間たちは困惑の言葉を漏らす。


「で、でもお兄ちゃんは教師で…」


「当然、やめてもらうことにはなる。」


即答する市宮。

ましろは隣に立つ優弥の袖を掴んだ。


「お、お兄ちゃん、断りましょう?」


「ああ…断れるなら…な。」


ましろは優弥の言っていることがわからなかった。


「ただ招くだけなら、住む場所を保証する必要なんてない、監視だって必要ないだろ。市宮さん…、隠す必要はない、本当の事情を話してくれ。」


「…わかった。まったく君は鋭いな。」


優弥の返答に市宮はため息を漏らしてそう答えた。そして彼はわざとらしく咳払いをすると再び口を開いた。


「…神崎優弥。君を重大危険人物として国の監視下に置くことが決まった。…申し訳ないが直ちに同行してもらいたい。」


「何ですって!?そんな急にですの!?」


「どうしてですか!?」


ましろとルーシャは彼の言葉に衝撃を受けた。


「私も本来ならこのような事は述べたくない。」


「おかしいじゃないですか!?お兄ちゃんは、戦えません!危険人物というなら私達の方が!」


「…俺はライザーを作れる。だがましろたちはそれを使っていただけ。」


「そうだ。それに彼女達はまだ未成年だ。彼女達の人生を奪うわけにはいかない。…だがライザーは」


「没収か。」


「…そうなるな」


その返答を境に会話が止まる。

国が決めた事、誰も割って入る事ができなかった。


「市宮さん!私達を英雄と言いましたね?ならば英雄ならば相応の待遇があってもいいのではないですか!?せめて、日常にくらい…」


「…ましろ。もうやめとけ。俺たちは過ぎた力を持っているんだ。だからこそ力を持つものは代償がある。」


「…受け入れるつもりなんですか!?」


「…。」


「そんな…そんなのあんまりです!国も、お兄ちゃんも!私はそんな為に戦ったわけじゃ__」


穏やかだったましろの顔も険しくなり、らしくなく声を荒げた。

それを聞いた優弥はそっと彼女の肩に手を置いた。


「ましろ。いいんだ。元々俺はいるかもわからない侵略者と戦う為にこの人生を選んできた。その俺の人生が無駄じゃないと、お前達が…お前が証明してくれた。俺にはそれ以上はないんだ。」


「そんな…お兄ちゃんにも未来はあるんですよ…?なのに…」


「いいんだ、俺のことは。…馬鹿なに泣いてるんだ。今生の別れというわけでもないんだぞ。」


「…帰って来れるんですか?」


「…。」


「お兄ちゃん…?」


「…市宮さん。行くなら…行きましょう。」


彼の答えはなく、優弥はましろに背を向けて歩き出した。

市宮はその光景をみてすまないと小さく呟き、彼の背を優しく叩いて歩き出す。


「お兄ちゃん行かないで!!お兄ちゃん!!」


失ってしまう悲しみが湧き上がり、涙を流しながら駆け出すましろ。

しかし、武装兵二人が行手を阻む。


「退いてください!…どけぇ!…お兄ちゃぁぁん」

手を伸ばすましろ、しかし優弥は振り返らない。

ただ一度後手に手を挙げて、車の中へと入っていった。

去る車を見送るしかないましろたち、その後軍用車が訪れるとましろを制止していた兵士も小さく頭を下げてその場を立ち去った。

その場に塞ぎ込むましろ。

そこにルーシャとこころが彼女の元に駆け寄った。


「ましろ…。しっかりなさい。あいつも言ってたじゃない。今生の別れじゃないって。」


「そうですわ。今度会ったら聞きましょう?わたくしたちの告白の答えを」


二人の言葉を聞いてもなお泣き続けるましろ。

少女の約二年にも渡る世界を賭けた戦いは、こうして幕を閉じた。


………

……


あれから、世界は変化を迎えた。

異世界からの侵略者との戦い、今までなるべく隠蔽されていたものが明らかになり、世界的に大騒動となった。


ガレアの残された土地や重罪人はエットやエリスと共に元の世界に戻るという『いつになるかも分からない旅』にでたが、残った利用されていただけのガレアの民は居場所を失っており、受け入れるかどうか議論が発生した。


そんな彼らの代表としてアイヴィー…イヴが立ち、彼女の尽力もあって時間をかけてこの騒動も落ち着きをみせた。


そして、私達レヴェリーの事は公に明かされず、謎の怪物によって起こった騒動は国家組織が解決した事にされ、写真などに映らないレヴェリーの特徴から人々はそれを信じざるを得なかった。

その為、あれだけの事態に巻き込まれた私達だったが、驚くほど呆気なく日常に戻る事ができた。

…ただ一人、お兄ちゃん…神崎優弥を除いて。


彼は世間的にも事態解決の功労者として明かされ、その腕を買われて教師を辞めたということにされた。

しかし、彼が今どこでなにをしているのかは、電話もできず、手紙も検閲され、その一切がわからない。


戦いが終わった事で神威さんも本来の業務に戻り、るーちゃん…ルーシャと愛奈ちゃんも騒動に巻き込まれて不在な事も増えた。


あの日あの時共に戦い、苦しみも分かち合った仲間たちはもうこころちゃんだけだった。


そしてまた季節は過ぎて…


「ほんとに行くの?」


「うん」


「大学なんてこっちにもあるのに。」


「うん。でも、私がいると、みんな政府の人に監視されちゃいますから。」


「そんなの、気にしてないわ。今からでも遅くないこっちに居なさいよ!」


「…ごめんね。もう決めちゃったんです。こころちゃんがお家を継ぐように、私も変わらなきゃ。」


「馬鹿…。泣き言くらい言いなさいよ。泣き虫。」


「ありがとう。こころちゃん。」


私は大学へ、こころちゃんは家を継ぐ道へ。

それぞれの道へと向かう事になった。


そしていま、私は大学生。

孤独を感じると未だにまだ、あの戦いの日々を思い出す。

私のした事は正しかったのか、私は何の為に戦っていたのか。

全ては過ぎた時の中。

帰らない日々。

きっと私の戦いはまだ終わっていない。



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