レイカ編1話:始まりはいつだって残酷。
あの日。それは私にとっては過酷で忌々しい毎日の始まりだった。
来る日も来る日も敵を倒し、世界の平和を守るために命を懸けてきた。
みんなの笑顔のため…、そしてすぐそばで私を支えてくれた人の笑顔を守るために…。
窓辺で本を読むことしかできなかった私が人を助け、悪を倒す。
小さな頃から憧れた正義の味方になったようで、誰かのために強くなっていく自分に私は喜びを覚えた。
しかし、それは長くは続かなかった。
戦えば戦うほど…みんなの想いが強くなればなるほど私の心はだんだん歪み始めていった。
やがて、迷いを覚えた私の心は次第に私を追い詰め、敗北へと導いていった。
敗北し、敵につかまった私に待ち受けていたのは度重なる拷問と人体実験そして洗脳。
心の歪みを広げ捻じ曲げていくそれに、私は次第に抵抗をすることをあきらめた。
そして___。
私の意識が戻った時に広がっていたのは崩壊した世界と、傷だらけの私の大切な人。
「お兄ちゃん____?」
ボロボロの彼の胸に抱かれ、そう私は掠れた声で呟いた。
「やっと、目が…覚めたか。ははは…まったく世話のかかる妹だ」
そう言った彼は、私が目覚めたことを確認すると、体中から血を流しながらもあの『約束』を交わした頃と同じように小さく微笑むとその場に崩れ落ちた。
洗脳されていた間の記憶は曖昧だったが、私の体に残る感覚からはっきりとわかる。
『あれは私がやったのよ。』
と。
「そん…な__。わた…私は、こんなこと…。こんなこと!!望んでなんかない!!!」
皮肉だった。
彼を失って感じたあまりに痛すぎる胸の痛み、こんなときに気づいてしまった感情があったのだ。
それを伝えることすらもできなくなってから___。
守りたかった世界も大事な人も失い、私は嘆いた。
たどり着いた先には夢も希望もない、生まれてこれまでない絶望の底へと叩き落とされた。
私は、壊れかけた心のままたった一人で最後の抵抗をする。
狂ったように、剣や銃を用いて敵をひたすら殺めていく。
戦い続け、身についていた装備も壊れ、変身後の姿も歪な形になってしまったことも私にはもはやどうでもよかった。
私を利用し、この世界を殺し、大事な人を殺した敵を皆殺しにできるのならもうなんでも構わなかった。
しかし、大きくなりすぎた敵の組織を冷静さを失った私が相手にするには限界があった。
私はガレア帝国がこの世界を征服したという見せしめに、新開発された殺戮兵器によって命を落とした。
その時の生き残っていた人々の顔は穏やかなものではなかった。
それはそうだ。私は操られていたとはいえ、この世界を侵略させた原因なのだから。
ああ、でもやっと終わる。
やっと解放される。
やっとあの人の元へ行けるんだ。そう思うと死を受け入れるのも悪くないとそう思った。
やがて兵器によって私の身を焼く光が差す。
やがて考えることもできなくなって、私はこのまま消滅する。
そう、そのはずだった。
「う…ん?ここは?」
『何も感じなくなった。』そう思った後、目を開けた先に見えたのは遊具で遊ぶ子供たちとそれを見守る親たち。
それはなにげない日常でよく見る光景。
そのはずなのに私にはとても違和感のある光景だった。
「どうして?」
私の口から無意識に言葉が漏れる。
あるはずのない日常…私のいた世界ではこんな平和な日常はもう見られないはずだった。
私は座っていたベンチから立ち上がりあたり一面を見回す。
何も崩壊した痕跡もない。
まるで、何もなかったかのように時が動いている。
まさかと思い私は、ポケットの中に入っているスフィアライザー___『端末』を掴む。
恐る恐る画面を視界に運ぶ間に、心臓がバクバクと音を立てて高鳴る。
「あの年の…六月…?」
私は思わず目を丸くした。
端末に表示されていた日付は、私にとってとっくに過ぎ去った時間だった。
それも、冷静になって考えてみると
「私が、初めて戦った日…?。」
そう思ったのは直感だったが、もし何かを起点に時間が巻き戻ったとしたら…、私の日常が変わったのは学校に初めて敵がやってきた日だ。とそう思った。
私はそれを確かめたくて、公園を立ち去り学校へ向かって走った。
過ぎ去っていく風景は、やはりどこも日常そのもので二度と見れないと思っていたその光景に、私は胸を痛めながら学校へ向かった。
その途中『私』を知っている人に声をかけられたが、それどころじゃない私は反応をすることなくひたすら足を動かした。
たどり着いたのは碧明高校。そのグラウンドが外からフェンスごしによく見渡せる場所に私はやってきていた。
時間はとっくに完全下校時間を過ぎていたが、まだ生徒の姿があった。しかしグラウンドにいる生徒たちはみな頭を抑えていたり、まるで眠っていたかのように目をこすったりしていた。本人たちも不思議そうな表情をしていて、「俺たち何してたんだ?」「なんかずっと寝てたような感じがするよな」と口々に話し合っていた。
だが、そのグラウンドにいる人間の中にいた『ある二人』だけは、他の生徒とは違った雰囲気を漂わせながら話し合っていた。
「ましろ、今日は帰りなさい。」
スーツ姿の教員は目の前の少女にそう話すが、その少女は「でも…」と言ってためらっている。
だが、教員が「また明日ちゃんと話す」と言った後、少女は少し考えた様子を見せたが、その後深く頷いて「先生さようなら」と言って校舎の方へと走っていった。
____私はこの光景を知っている。
彼女はこの後、校舎に荷物を取りに帰ってまっすぐ帰宅をする。
そして翌日の放課後、先生に『ある真実』を告げられるのだ。
私は、それを知っている。
なぜ___?
それは、
「あれは___!あれは私だもの____!。」
改めて私は確信した。今私がいるのは過去の世界だということを。
そして、そう確信すると戸惑いと同時に胸に熱い想いが宿った。
時間が戻ったということ、すなわちこれはチャンスだ。
敵に___ガレア帝国に私たちの居場所が奪われる前なら、きっと別の道にたどり着く方法がある。
救いたかったものを失って腐りきった私の心はこの時間にきて焦りを覚え、たった今その焦りは再び私の胸に火をつけた。
「書き換える。あの惨劇を…!私の手で!」
私は、グラウンドに背を向けて再び歩き出した。
「___私は白、命を燃やし純白を捨てた。灰の白___!」
こうしてレヴェリーヴァイスと言う、無意味な理想を掲げた正義の味方が誕生した日、私と言う
もう二度と何も無くさないために、未来を守るために。
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