外伝:閃光の灰姫レヴェリーアッシュ
レイカ編0話『すべてが終わった日』
「__先生が一緒なら私、貴方の代わりに戦うわ。」
今では遠い記憶の片隅にあるその言葉。
私の__レヴェリーヴァイスの戦いはその一言から始まった。
その日より先に起きたことは未知なる存在と遭遇する毎日だった。命を懸けた駆け引きを繰り返すことに、怖くなかった。というと嘘になる。
相手をやるか自分がやられるかの世界、当然恐怖はあった。でも、先生__神崎優弥の存在が私を勇気づけた。
いつ終わるか先の見えない敵が現れては戦う日々だったが、やりがいももちろんあった。
それはまるで子供のころからあこがれていたヒーローになったような感じだった。
最初は見つからないように誰の目にも留まらない場所を選び戦っていたが、次第に敵の襲撃が増え、いつしかその戦いは人の目に映るようになった。
その姿はあらゆる形で拡散され『レヴェリーヴァイス』という『正義の味方』の名前も人の間に知れ渡るようにもなっていった。
「助けてくれて、ありがとう。」
という些細な言葉。
しかし、助けた人に言われるとこれ以上にないくらいの喜びを胸に感じ、私は人々の笑顔と、それを守りたいと願うお兄ちゃんの為に戦い続けた。
現れる敵を追い、襲い掛かる恐怖を乗り越え、私は愛されるヒーローになった。とそう思い込んでいた。
__だが、現実はちがった。
この世界を侵略しようと企むガレア帝国の刺客は次から次へとやってくる。
奴らがこの世界に侵入してくる経路も最初は限られていたが、次第にその規模は拡大し、敵の数も増え中には社会に介入する存在まで現れ始めた。
少しずつ少しずつ拡大し、武力だけでは手に負えなくなってきた敵に焦る私だったが問題はそれだけじゃなかった。
一番の問題は、人々の目に映るようになったことによる弊害だった。
「お前が助けに来なかったせいで娘が誘拐された」
「お前が違う場所を優先したせいでこの町は大変なことになった」
「敵は次から次へといるんだ!まさかあいつ休んでるわけじゃないだろうな?」
という人々のどうしようもない言葉が嫌でも耳に入った。
もちろん私達を支援していたアルプスという特務組織は活動していたが、怪人__『キメラ兵』や魔物を消し去るにはマナを用いる必要があるため、この世界で唯一それを使える存在であった私しか解決できない問題ばかりだった。
倒しても倒しても終わらない戦い、それによる人々の罵倒…どうにもならないと感じ始めていたとき、次第に私は後悔を覚え始めた。
__そして運命のあの日も同じだった。
あの日私は、早朝から現れた敵を何体も処理して、気怠さが残るまま学校に向かった。昨日も何時に寝たかわからないくらいだったが、少し空は明るくなっていたような気がする。
自由な時間を削るだけで済む問題ではなくなっていたが、そうでもしないとどうにも落ち着かなかった。
「ふぅ。」とため息をつき、私は教室に入り自分の席に座った。
「ましろ…。あんたすごい土埃がついてるわ。」
せめて授業が始まる数十分だけ眠ろうとしたとき、親友のこころが私の元に近づいて私の制服をぱんぱんと叩いた。
「ありがとう。こころちゃん」
到底心の底から笑顔になれる状況じゃなかった、でも私は、大事な親友にできるだけ心配させないように必死に笑みを作ってそういった。
「…ねえ、あんたすごいやつれてけど、ちゃんと食べてる?寝てる?あんた__。」
こころがすべてを言う前に「ごめん。ちょっと寝るね」と言って私は机に突っ伏した。
こころが言うようにろくに食事も睡眠も取れてないのは事実だった。だから親友にはこれ以上悟られたくなかった。
チャイムが鳴り授業が始まるも、クラスの数人の生徒は登校していなかった。
理由は、教師は語らないが噂話は生徒の間にも流れてくる。
「知ってる…?佐々木のやつ昨日から行方不明なんだって」
「まじか…噂の人攫いがこの町にもか…。」
「こええな…。さらわれた人結構いるんだろ?何とかしてくれよ…政府は何やってんだよ…」
「わかんね。手についてないんじゃないか?」
「やっぱり、レヴェリーヴァイスに何とかしてもらうしかねえのか」
「無理無理。この前テレビ見てたけど、あいつ最近ボロボロでふらふらだし、解決できてねえことの方が増えてきてるし。期待するだけ無駄無駄。」
「怖いなぁ…。外に出ること自体恐怖だわ」
という生徒の会話が私の耳に入る。
(…ッ!私だって…頑張っているのに…!!)
湧き上がる怒り、私はこんな憎悪を誰かにぶつけたことがなかったが、胸の中の不安が燃料となってクラスメイト達に激しくそれが燃え盛っていた。
けれど、私は「はあっ!はあっ!」と息を荒げながらも、ヒートアップする自分の感情を呼吸をして無理矢理抑え込んだ。
最期まで希望を捨てないヒーローのようになりたいという感情と、優弥との約束、それがなにもかも崩れかけていた私を繋ぎとめていた。
そして放課後。
私は席を立ちあがり、私は侵略者を倒すために目的地へ向かおうとしていた。
「ましろ!待ちなさいよ!あんたもしかしてそのまま戦いに行く気!?」
廊下でこころに腕を掴まれそう問われる。
「うん、休んでる暇ないでしょ?まだまだ奴らはこの世界にいるんだから。ほら、見て、これ全部敵の反応なんだよ?」
私はスフィアライザーの画面をこころに見せる。
日本地図に浮かび上がった数多くの点、これらすべてが特殊な力を持つ存在…すなわち敵の反応だった。
「これが世界中に広がっちゃったらもうどうにもならないの。みんなを安心させるためには…早く、早く戦いを終わらせないと…。」
私がそういうと、こころは力強く私を引っ張り、両腕を掴んで怒鳴った。
「あんたは…あんたはどうなの!?そのみんなにあんたは含まれていないの!?あんたは機械じゃない人間なのよ!!食べるし、寝るし、恋もする!そして死ぬことだってあるのよ!?」
その目は潤んでいたように見えた。
罵倒ばかり聞いてきたせいか、親友の言葉が嬉しい。そんな気持ちが私の心を満たした。
だからこそ__。
大切な親友を守れるのも私しかいない…そう思ったから__。
「これは、私にしかできないことだから___。」
こころの腕を払いのけ私は教室から遠ざかった。
校門から出てまずどこへ向かおうかと考えていた時だった。
「ましろ。待てっ。」
聞き覚えのある男性の声。
「おにい、ちゃん?」
疲労がたまり切った身体が無意識に動いた。
間違うことなく振り向いた先にいたのは息をきらした神崎優弥。
「お前…どこへ行く気だよ。髪もぼさぼさ、目元にくまを作ってお前らしくもない。今日はまっすぐ帰れ。」
優弥はまっすぐ私の顔を見てそう言った。
「ううん。私、いかなきゃ。倒さなきゃ。私のクラスの生徒いなくなっちゃったの…私のせい…だから」
私がそういうと、優弥はなにも言わずに私の腕をつかみそのまま体育館裏に移動した。
「お前のクラスの生徒が行方不明って話…。俺も知ってるよ。だからって俺はお前を行かせるわけにはいかないんだ。」
優弥もこころのように私に触れてそう言った。
「…ひょっとして、またよくない噂を聞いたのか?大丈夫だ。お前のせいじゃない。これも全部やつら…。いや、無力さからお前に頼るしかなかった俺のせいなんだよ。」
優弥は子供の頃のように私の頭を撫でた。
すべての始まりは確かに、ライザーの力を100%引き出せなかった彼に変わって選ばれてしまった私が戦うと決めたことが始まりだった。
きっかけはそうだったかもしれない。だが、私が武器を手に取ってしまったときから、それだけで済む話ではなくなっていた。
「もう、お兄ちゃんだけの事じゃないんだよ。レヴェリーヴァイスは私なんだから…無力だったのはわた__」
言葉を遮るように彼は私を強く抱きしめた。
「もういい。もういいんだよ。お前は一人じゃないだろ…。お前は我儘になってもいいんだよっ!大丈夫だ。組織のやつらと協力して何とかするからお前は少しの間休んでろ…。」
彼の声は掠れていた。泣いているのだろうか。
抱きしめるその腕の力は強く少し痛かったが、私をそんなにも大事にしてくれているのかと思い私は安堵した。
「なあましろ。どうしても気が済まないんだな?ならせめて、明日だけは全部忘れよう。明日なったら…そうだな一緒に水族館へ行こう。お前好きだったろ。」
優弥は私を抱きしめながらそういった。
水族館、子供の頃からよく連れて行ってもらった記憶があるがずいぶんと遠い記憶になっていた。
『明日だけ』その言葉に私は「うん…明日だけ忘れる。楽しみにしてる」と彼の胸の中で呟き、その後そっとそこから離れた。
「だから、今日だけ頑張らせて。絶対明日は休むから。」
この時、私は本当に嬉しくて心の底からの笑顔を彼へと向けた。
優弥はすこし考えたあと「分かった。少しでも何かあったら絶対に連絡しろ」といい、優しく私の手をぎゅっと握ってくれた。
この手の温もりの為なら負ける気がしない。そう思った。
それから数十分後、反応を頼りに彷徨い歩く商店街の中、妙なマナを持つ人間を見つけ問い詰めた。
「あなた。この世界の人間じゃないわね。」
「…ほぅ、マナを察知できるとはこれは偽装のしようもないか…。そう、ご名答だよお嬢さん。それがなにか?」
スーツ姿の男は、首を傾げ、だからどうしたと言った表情を浮かべこちらを見つめる。
「この世界を侵略するつもりなら許さない。大人しく元の世界に帰ってよ。」
私は少し荒い口調で彼にそう言うが、男は「んー、無理な話ですねぇ…計画は進行中でして」ととぼけた口調で答えた。
「我々の正体を判断でき、排除しようとする存在。おぉそうか、君がレヴェリーヴァイスの正体…これはこれは…。なんと可憐な少女か…。」
男はさらにそういいながら私を舐めるような目で観察する。
不快に思った私は「やめて」と言い、彼を突き飛ばす。
「乱暴ですねぇ。こちらとしては戦う気はなかったのですが…まぁいいでしょう。ここであなたを殺せば私の功績は増えていきますからねっ!!」
眩い光を放ち男の姿が変わる。
鳥のような羽を持つ人間とは思えないその姿はまさしくキメラ兵。
それも自在に姿を変貌でき、膨大なマナを持つ。その上自我を失っていないということは、数少ない完全適合者だということを意味している。
「今日の私は、絶対に負けない!!オーバールミナス!ロード・アクセラレート!」
こちらもレヴェリーヴァイスへと変身し武器を構える。
「やあああ!」
走り出した勢いを利用して飛び掛かり、セイバーを目の前の敵に向かって切りかかるが、その斬撃は敵の持っていた剣によって防がれた。
セイバーはマナで構成された刃の為、本来なら鍔迫り合いなどできるはずもなくお互いの刃は貫通するはずだった。しかしそれができないということはやつの持っている剣にはマナが宿っているという証拠だった。
「なるほど、すごい力だ。あちら側の世界の人間でもここまでの者は少ない。」
男が話している隙に私は鍔迫り合いとなっている剣を軸にして左足で相手の頭部を狙う。
ガッ!
と音をたて、その蹴りはキメラの頭部に直撃した。
しかし___
「ほう、身軽な上、芸の細かい女だ。だが…」
男は一切ダメージを受けていないというように首をそのまま捻り、無防備の私の腹部に拳を突き入れた。
「あ…ぐっあっ!!!」
今まで受けたこともない衝撃が体を貫通した。
変身をしていなければおそらくその拳は私を貫いていただろう。それほど強力な一撃だった。
その衝撃と共に私の身体は吹き飛ばされ、人通りのある商店街の真ん中へと投げ出されていた。
「な、なんだ!?人が飛んできたぞ?!」
「おい、あれ、レヴェリーヴァイスだぞ。」
「なんだぁ。またやられてんじゃねぇか!なにやってんだよ!」
人だかりが私の周りにできる。
「はぁ…はぁ…お、お願いです!逃げて…!敵…が…すぐそこに!!」
痛みがひどく、声を出せる状況じゃなかった。
でも、巻き込むわけにはいかないと軋む身体に鞭を打って声を吐き出した。
「はぁ?!逃げろだって?何言ってるんだよ。俺たちを守るのがお前の役目だろうが!」
「ヒーロー様なんだろぉ!?俺たちくらい守りながらでも余裕だろ!さては出来ねえのか?」
「そうよ敵がいるならさっさと立ちなさいよ!」
私の言葉を聞いて、集まった人たちは声を荒げる。
『どうして、どうして誰も逃げてくれないの…?なんで集まってくるの?これじゃ守り切るなんてとても…。』
私の体中に悪寒が走り、体中が震えあがる。
恐怖、でも今まで感じたことのないほどの恐怖。
敵に対する恐怖じゃない。これは__
『私…みんなが怖い…。』
「哀れだなレヴェリーヴァイスよ。守るべき市民に虐げられるとは。」
視線を向けた先、一歩一歩と鳥型キメラは私に向かって近づいてくる。
(フォームチェンジするしかないか…!)
「リブー__。」
カードを呼び出そうとしたとき、頭の中に声が響いた。
《お前は疑問に思わなかったのか?なぜこんなものを守る必要があったのかと》
間違いない。目の前のキメラが私に話しかけている。
《確かに私たちは侵略者だ。この世の人の為に正義を振りかざす君に排除されても仕方のない存在だ。だが__君の戦いにはそれに見合う対価はあったかい?》
《ほら、耳を澄まして聞いてごらん、これが君が守ろうとしていたものたちの声だ。》
口車に乗せられてはいけない。そう理解してはいた。だが___
男の声のまま私は周りに群がる人達の声を聞いて『しまった』
「立てよ!負け犬」
「役立たず!」
「お前のせいだ!」
「偽善者」
「何も守れねえくせに偉そうにしてんじゃねえ!」
胸にたくさんの言葉が突き刺さる。
私が求めていた声援はそこには一つもなかった。
痛い、苦しい。これはさっきのキメラの拳よりも非常に痛い。
「あ…ああっ。ち、違う…違う違う…!!わ、わ、たし…は…」
もはや戦意なんて微塵もなかった。
戦う前から私の心はすでに限界だったんだ。
もう…剣を取る気力すら湧き上がらない。
なんで私は戦っていたの?
なんでみんなは私を敵するの?
なんで誰も私の話を聞いてくれないの?
__なんでお兄ちゃんはこんな人たちを助けたかったの?
なんで?なんで?なんで…なんでなんでなんで!???
新たに突き刺さる言葉の刃に、私は耐えきれなくなってその場に崩れ落ちた。
《どうだい?こんな人間がいる世界だ。どうなってもいいとは思わないか?》
「どう…なっても…?」
《むしろ、私たちを新人類と迎え入れることに可能性を賭けてみるのも悪くはないと、そう思わないか?》
「迎え入れる…?」
なにも考えることなく男の言葉を復唱する。
私の心には、もうどうなってもいいという感情しか持ち合わせていなかった。
《新たな平和への可能性に君の力を我々に貸してみてはどうだろう…?》
僅かな私の思考の中、ずっと望んでいた『平和』という言葉を聞いたせいか、私はごくりと唾液を飲み干した後、小さく頷いた。
そしてその瞬間、私を黒い霧が包み込んだ。
___その日…それからのことはもう覚えていない_____。
次に私が目覚めたときは謎の機械でつながれた椅子に座らされ様々な装置を体に付けられていた状態だった。
何日何日も、取り付けられたバイザーで様々なものを見せられ、そして心の傷を広げられ、沢山の実験によって改造を施された。
__そしてこの身体の純潔も__。
最初は優弥の事を胸にしてつなぎとめていた意識も擦り切れ、いつからか、自分の身体なのに自分の思うように動かない。でも自分では何も考えられないという。虚無の感覚に囚われていた。
ひどいことをしてきた気がする。
いろんなものを破壊した気がする。
命を奪ってきた気がする。
そして__その虚無感にこの身を委ねてから次に私の目に飛び込んできたのは、崩壊した世界と、傷だらけの私の大切な人だった。
「お兄ちゃん____?」
ボロボロの彼の胸に抱かれ、そう私は掠れた声で呟いた。
「やっと、目が…覚めたか。…ははは…まったく世話のかかる妹だ」
そう言った彼は、私が目覚めたことを確認すると、体中から血を流しながらもあの『約束』を交わした頃と同じように小さく微笑むとその場に崩れ落ちた。
記憶は曖昧だったが、この手に握っている光剣と、私の体に残る感覚からはっきりとわかる。
『あれは私がやったのよ。』
と。
「いいか…ましろ。お前はこの世界の人間のいや…俺の希望の光だ…。正しいと思う道ををつきすす…め。」
優弥はそう言葉を残すと、それ以上動くことはなかった。
戦いで受けたダメージや投げつけられた罵倒、そんなものよりも遥に強い痛みが体中を突き抜けた。
「そん…な__。わた…私は、こんなこと…。こんなこと!!望んでなんかない!!!」
__皮肉だった。
彼を失って感じたあまりに痛すぎる胸の痛み、こんなときに気づいてしまった感情があったのだ。
それはずっと鈍感過ぎた私が言えなかった想い…それを伝えることすらもできなくなってから__。
守りたかった世界も誰よりも大事だった人も失い、私は嘆いた。
たどり着いた先には夢も希望もない、生まれてこれまでないほど深い絶望の底へと叩き落とされた。
「侵入者は死んだか。レヴェリー!ご苦労だったナ!」
私が操られていた間従っていただろう、キメラにそう言葉を投げかけられる。
「お前たち、目障りな死体を外に捨ててこい。」
男の言葉にぞろぞろと集まってくる魔物と下級兵。
どうやらここは、もはや奴らのテリトリーであるらしく、あっという間に私と優弥の周りを取り囲んだ。
「お前…かァ!…さない…。」
「あ?なんだぁ?」
小太りのキメラは耳に手を当て、聞こえなかったというジェスチャーを取る。
「ゆるさない、ゆるさない。ゆるさない!お前たちみんな消してやる!」
私はそう叫ぶと立ち上がり、キメラを睨んだ。
「チィ!洗脳が解けたか!だがその男が死んだのならもう貴様も用済みダ!レヴェリーヴァイスを殺せェエエ!」
ぞろぞろと武器を構えて集まってくる敵。
数は数十人。このままの姿で戦っても勝ち目がないのはわかりきっていた。
「まとめて消してやる!!リブートォ!ヴォルカニックビートΞ´!!!」
炎を巻き上げ現れたカードを胸のブローチにかざし、変わっていく姿__。
それはファンタジー世界のドラゴンのごとく雄々しく刺々しい豪炎を纏う深紅の姿。
「燃え尽きろ!!はあああああ!!」
フォームチェンジが終了すると即座に、強く息を吹きかけるように群がる敵に向かって炎を吐く。
浄化の火であるその火は、阻むものを苦しむ暇すら許すことなく一瞬で燃やし尽くした。
「な、なんだこの姿は!?」
ブレスによってかなりの数の敵が消滅し、親玉のキメラを中心に敵が怯み動きが止まる。
だが、私は止まることはない。
あらゆるものを引き裂く竜の爪を彷彿とさせるガントレットを地面に突き入れ、マナを込める。
するとバリバリと地面に亀裂が入り、そこから炎が噴き出る。
「うああああ!なんだこれは!!」
「熱い…か、体が焼けるぅ!ぐああああ!」
燃え尽き、瞬く間に減る敵の数。
混乱に生じて私は、一人…また一人とその爪で敵を引き裂いた。
敵の中には背後を狙い飛び掛かってくる奴らもいたが、尻尾や翼を用いて叩き落とし、私はこの身体に触れることを一切許すことはなかった。
そして。
「残ったのはお前だけだ。」
数分と立たない間に、手下はみな消滅し小太りのキメラただ一人となった。
「生意気なァ!貴様などわし一人で消してやるワァ!」
男がマナをため込み、その姿を変貌しようとしていたその隙を狙い、私は、「ガンっ!!」と派手な音をたてて足を地面に突き入れた。
それは先ほど手を突き入れたときと同じ行動、ほんの数分でこのフォームの特徴を理解し、より効率的な攻撃方法を見つけていた。
「きさまあああっ!!」
亀裂が男の足元にまで渡り、そこから噴き出た豪炎の柱にキメラは直撃した。
「言っただろう。お前たちを許さないと!!俺は本気だッ!!!」
私はそう叫んだあと地を蹴り、男の胸元に爪を突き入れた。
「がああああっ!!」
キメラは、そのとどめの一撃を受け断末魔の声をあげたが、スッと一瞬にして表情を変えた。
「へ…へへへ…」
「何が可笑しい!!」
「おかしいだろ…!お前がどう足掻こうと、お前達はもう終わってるんだよォ…。くくっ、まあせいぜい足掻いてみせるんだなァ?地獄で待ってるぜ…」
男はそういうと手下たちと同じように粒子となって静かに消滅していった。
「…」
怒りに身を任せるままこの場にいた敵を全滅させると、風が吹きつける音以外何も聞こえなくなった。
無理な変身をつづけた故に強制的に変身は解除されていたが、私はそれすら気づかずにその場にただ立ち尽くしていた。
吐き出したい思いがたくさんあるのに、何を誰に吐き出せばいいかわからない。
ただそこにあった感情はどうしようもない虚無感。
「終わった」
一言こぼれたその言葉は何に対してそう呟いたのか自分でもわからない。
ただ、静かに時が過ぎていくだけだった。
そして、気づけば雨が降っていた。
まるで私の心を表すように、とめどなく体に雨粒が打ち付けられる。
なにより、人の気配すら感じなくなった廃墟の街に降る雨はどす黒く感じた。
このままどうなるかはわからない。
何なら寒さに震えながら奴らのいう地獄とやらに落ちてもいい。
そんなことを考えていた。
しかし、そんな時だった。
ブォオオオオン!!
雨の音に混じって響くエンジン音。次第にその音は近づき、私の身体がライトで照らされる。
視線を向けると、そこにいたのは小柄な体系の人間、体つきからして女性だろうか。
マナを感じないためきっとこの世界の人間の生き残りだろう。
彼女は私を見つけると、バイクを止めるわけでなく乗り捨てるように飛び降りて私に向かって走ってきた。
「ましろ!ましろなの!?ねえ!?なんとかいいなさいよ!」
__柊こころ。
私が連れ去られてどれだけの月日がたったのかはわからない、でもヘルメットを外したこころの顔つきは少しだけ大人びて見えた。
「__こころ」
私がそう口にするとと「良かった!ホントによかった」とこの冷え切った体を、彼女は包み込んだ。
「ずっと、もう一度正気のあんたに会いたかったと思ってた…。本当に__。」
雨でわからなかったがこころは、きっと私の胸で涙を流していたんだろう。
彼女の温もりが次第に私へと伝わってきた。
そして疲労か、懐かしい温もりに安堵したのかここから先の記憶は曖昧だが、言われるがままこころの乗っていたバイクに共にまたがったのは記憶している。
翌日、目覚めたときには私は知らない部屋で眠っていた。
「目が覚めた?」
こころが私の元に駆け寄ってくる。
やはり少し大人びていていて、私の知らないうちに年月が過ぎていたことを気づかせる。
「…ここは?」
「ここは__そうね。あんたを巻き込んでの侵略が始まった後アルプスが残った人間を集めて各地に町を作ったの。まぁシェルターみたいなものかしら?結構な人間が死んじゃったから。ある程度団結した方が安全でしょ?」
おそらく私が目覚めた廃墟は、元々どこかの町だった場所だったのだろう。思った以上に事は深刻だった。
まぁ、町にあれだけの敵が徘徊していたということは、ガレア帝国の侵略はかなり進んでいるのはそれを聞いて察することはできた。
「んで、ここは新しいあたしの新居、あたしの家族はあんたの家族と合流したらしいから、たぶんよその町にいるんじゃないかしら?」
「そっか」
私は、こころにそっけなく答える。
「無理しないでゆっくりしなさい。あ、あんたならここに一緒に住んでもいいわ。…ま、働いてはもらうけど。」
こころはそれ以上何も言わなかった。
私の心情を察していたのかは知らないが、私自身愛する人を失い。自分のせいでこうなっている現実を突きつけられてもう何も考えることが出来なかった。
どうやらこちらの人間たちも優弥が残した技術から何とか対抗するマナ兵器を多少は生み出していたらしい。
敵の脅威はあるだろうが、今のところは町にいれば戦いとは無縁の静かな空間が広がっていた。
そんな空間で私は、町の外の廃墟とは不釣り合いの澄み切った青空をじっと眺めていた。
何日も、何日も。
「ねえ、ましろ。そろそろ立ち上がったらどうなの?貴方らしくないわ。」
私らしく。その言葉を聞いて私は思った。『らしく』とはなんだろうと、いつの間にか私は自分というものを忘れていた。
もしかしたら、あの雨の日に使った『竜のフォーム』によって自分自身も焼き尽くしてしまったのかもしれないと思うほど
あれから何の感情も湧き上がらなかった。
「ねえ…ねえ、しっかりしてよ!そんなにあいつが死んだのがつらいの!?それともこの事態が全部あんたの責任だと思ってるの!?」
こころは、あの日のように私の両腕をがっしりと掴んだ。
私を見つめるその目は、まだ希望を信じているという瞳。
その視線はまっすぐと私をみていて、どうにも私は視線を合わせることが出来なかった。
「こんな事態になったのは、あんたに甘えてしまったしまった私たちの…人間のせいよ!あんたが背負う必要なんてない!それに…あいつはあんたにすべてを託してもいいと、あんたしか希望がないと思ったから命を捨ててまで助けたんじゃないの!?」
そして「しっかりしろ!レヴェリーヴァイス!正義の味方なんだろ!!」と言って彼女は私の頬を叩いた。
「お願いだから、いつもみたいに冗談の一つでも言いなさいよ!ずっと…何年も心配してたのよ…!大親友として!だから___。」
ピピピ___。
こころの言葉を遮るように発信音がなる。
「なに?え?南門に巨大な魔物!?うん。わかった。すこし避難誘導したらそっちにいくから。」
こころは携帯をしまい、「__ごめんましろ、話は後。行ってくる!」と背を向けて壁に立て掛けられていたVPΔのバスターのような形状をした銃を肩にかけて部屋から出ようとする。
___私にできることはなんだろう。
私にはわからない。すべてを失いすぎて涙すらもでない私にできることなんてあるのか。
おそらくこの世界はもう手遅れだろう。
そんな世界に私は必要とされているのか?
わからない。でも
「いや、こころは避難誘導をお願い。敵がいるなら南門には私が行く。」
「まし…ろ…?」
最後に残った大事な人の為にもう一度武器を取ることくらいなら、今の私にもできる。そう思ったから
「戦いは私(正義のヒーロー)の方がきっと向いてる。そうでしょ?こころ…ちん?」
私の戦いは再び始まった。
いつ終わるのか、終わりが来るのか、私たちに大逆転の勝ち目があるのかそれはまだわからないけれど。
チャンスはあるのに、後悔だけはしたくない。
そう思うことはできた。
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