レイカ編2話:遭遇と捕縛
「お前たちは、どこかで拠点を構える準備をしておけ、俺はマキナスフィアの回収に向かう。」
誰も立ち入らないような路地裏、その中のすこしひらけた空間に奇妙な格好をした男が、部下であろう数人に指示を飛ばしている。
その部下たちの足元には獣が数匹仕えており、黒いオオカミのような姿をしているが黒いオーラのようなものを発しているため、ただの生物ではないことは誰の目でもわかる。
指示をうけた部下たちはそれぞれの持ち場につき、リーダーであろう男は「さてと」と言いながらその場から去ろうとする。
「今か。」
建物の上からその様子を見ていた私は、心の中でそうつぶやくとバラバラな方向へ散っていた部下の一人の目の前へと落下する。
「なっ!なにも____!」
男が突然現れた私の姿を見て大きな声を上げるがその言葉を言い切る前に、マナを足に集中させた回し蹴りを横腹に叩き入れて吹き飛ばした。
「敵だ!敵が来たぞ!」
男の声を聞きつけた仲間が魔物を引き連れてぞろぞろと集まってくる。
「あいつがレヴェリーヴァイスとかいうやつだ!!みんなやっちまえ!」
手下たちが私に向かって武器を構え突撃してくる。
「人違いだけど___。まぁ、いいか。みんなまとめて殺してやる。___バスターリブート。」
キーワードを口にして、私はXバスターを呼びだしすぐさま一体一体狙撃する。
最も一番にターゲットにするのは、狼型の魔物。
獣特有のそのスピード故に撃ちもらし接近されてしまった魔物も蹴り飛ばし、そこを射撃して打ち殺す。
この銃は高出力の武装であるため、いくらマナを纏ってダメージを軽減できる異世界の人間だとしても直撃した敵は魔物含めてすべて倒れていく。
「ひいっ!なんだあの武器は!!」
仲間が次々と倒れていく光景を目にして怯えて腰を抜かす男、私は漏らさず彼に銃口を向けるが____。
「もらったあああ!」
どうやら私がこの男たちの前に現れた時と同じ手段で裏を取られていたらしい、私の背後から嬉々とした声が聞こえた。
「遅い___!」
私はXバスターからグリップを取りはずし、そこから現れた光の刃を構え体を捻り、背後にいた敵の攻撃をかわしつつそのままの勢いで、その腹部へ斬撃を叩きこむ。
「ぐああっ!!」
路地裏に男の断末魔が響く。
怯えていた敵の手下はその光景を見て逃げ出すが、
「逃がさない。」
私は再びXバスターを構え、その背中に光の弾丸を打ち込む。
男は、「があッ」という声を漏らし、その場で倒れこんだ。
「これで、雑魚は最後か。」
その様子を確認した私はバスターを構える腕を下ろして、そうつぶやいた。
敵の亡骸は、マナが存在しないこの世界ではすぐさま粒子になって消滅するため、さっきまでいた敵は、この場所に亡骸一つ残っていない。
「ほう見事だ。レヴェリーヴァイス。だが終わりと決めつけるのはまだ早くはないかね?」
その言葉が聞こえた後、暗闇の中からふっと現れたのは先ほど手下たちに指示をしていたローブの男だった。
悲鳴が聞こえたのか、緊急事態を察知できるようになっていたのかはわからないが、追いかける必要がなくなり、私にとっては都合がよかった。
「安心して、すぐにでもあなたを追いかける気でいたから。むしろあなたから来てくれて助かったくらいよ。」
私は睨みつけながら男にそういった。
着ているローブを揺らしながらははは!と笑う男。
「こちらもマキナスフィアを探す手間が省けた。さあ、存分に殺しあおうぞ!」
男はそういうと、着ているローブを脱ぎ捨てた男。
「___キメラ兵か。」
ローブの中には多量の体毛のようなものと共に背中に蜘蛛の足が複数生えた姿、その顔も蜘蛛の面影が強くなるほど変形しており。
それがもともと同じ人間だったとは思えない。
ガレア帝国の人間は、異世界に巣くう闇の生物である『魔物』を扱う魔物使いが多く、戦闘も魔物を用いて戦うスタイルの人間が多いらしい。
しかし、異世界を征服しようとした際、生み出されたのは魔物と人間を融合させより高い戦闘能力を身に着けた怪人__キメラ兵という人間兵器を作り出した。
人道的でない上、失敗して命を落とすこともあるその危険な改造には代償があるものの、完成したキメラ兵一般兵よりははるかに高い戦闘能力を身に着けてあるため油断ならない存在である。
「上等。私は白、灰の白。覚悟しなさい蜘蛛野郎。」
私はバスターを構え蜘蛛男に向かって射撃する。
その弾丸は蜘蛛男に直撃すると思われたが、男が口から吐き出した糸のようなネットに触れた瞬間跡形もなく消滅した。
「私のネットに貴様のマナ兵器は通用せんよ。」
男の言葉を聞いて、私はバスターからセイバーへ武器を切り替え、その場を蹴りだして男の方へと駆ける。
ペッ!と言う音を出しながら、次々と私に向かって、糸を放つ蜘蛛男。
銃弾の様子からおそらくセイバーを用いてそれを叩き切ることはできないと考え、口がどこへ向いているのかを集中して確認し、私は飛んでくるそれを回避して距離を詰めていく。
そして、セイバーが届く距離になったとき、私は男が糸を吐く瞬間を見計らい。
地面を強く蹴って跳躍し男の背後へ回り込みそのセイバーを振り下ろした____。
しかし、背後に回った瞬間あることに気づいた。
___背中にも口と同じ形をした穴…器官が備わっていた。
「ちっ」
案の定、着地した瞬間を狙ってそこから糸を吐き出され。
回避することができなかった私の腕はそれに直撃しやつの糸によって縛られてしまった。
「キメラ兵が1体の魔物だけと合成されていると思い込んでいただろうが、残念だったなぁ?」
男は、そう言うと私の足にも糸を吐き、これで私の手足は完全に自由を奪われてしまった。
やはりマナを遮断する力があるらしく、糸が絡まっている場所から先には全く力が入らず、立っているのがやっとなくらいに力が足りない。
そのため、糸を力任せに引きちぎることすらかなわず、男はじりじりと私の元へと近寄ってくる。
「どうだね。私の糸は振りほどくこともかなうまい?」
「ええ、最悪ね。気持ち悪いことこの上ないわ。」
男の言葉に対して毒を交えて返答する私。
「とっておきは隠すもの。そうだろう?」
男は私の目の前にやってきて、拘束されている私の姿を見つめている。
「さて、マキナスフィアを頂いてしまおうと思うが___ふむ、よく見ると貴様、いい女だな。」
妙なことを口にしだした男。
「そんな気持ち悪い男に言われてもうれしくないわね。」
私がそういうと男は再び笑い声をあげる。
「この状況でそんな軽口を叩けるとは面白い女だ!どうやっても貴様は抜けられない。この先どうするかはこの俺次第だ!」
そういって私の顎を強引に掴む蜘蛛男。
___これでいい。極力近いほうが確実にやれる。
「ねえ、とっておきは隠すモノ___。そうでしょ?」
私は男に向かって笑みを浮かべ、『ある場所』へ力をため込む。
「なんだ貴様?何を言って____」
少し動揺した男の首が言葉を言い終える前に消し飛ぶ。
男の首は化物のように変形しているため、表情はわかりにくかったが、自分の身に何が起こったのか理解できないと言っているかのように口を歪ませているのはわかった。
それは無理もないだろう、手足を縛られていた私は、自分のその髪にマナをため込み、それによって近づいてきた男の首を切断したのだ。
___そもそも髪を武器に使うなんて考えにくいことだろう。相手がそう思うことを利用した私の隠し武装だった。
「ツインテールアタック。私、髪にマナをため込むの得意なの。」
男の亡骸は、ほかの者たちと同じように粒子状になって消滅し、この場は再び静かな路地裏になった。
「___終わった。」
私は、気配を探りこの地に敵がいないことを確認すると、変身を解いてその路地裏から背を向けて立ち去った。
路地裏を出て商店街の人通りの多い道に出た私だったが、ふと視界が歪んだため電柱に身を預けた。
私の体は、もう正常ではない。
捕まった時に施された洗脳は解かれたものの、人体改造による体の変化は戻ることはない。
その人体改造というのは、マナを持たないこの世界の人間である私の肉体にマナを宿らせるという改造。
世界の人間は大気中にあるマナを取り込んで自分用の魔法物質『マナ』へ変化させることができるらしいが、この世界の大気にはそんなものは存在しない。
そのため、マナを生成するには別の代償を用意するしかない。
ガレア帝国の連中がその代償として考え出したのは、私の快楽と言う感情。
食事など何かを満たしたことによるエネルギーをすべてマナに変換するというシステムだった。
それにより私の肉体は何か快楽を得るたびにマナを生成するようになった。
別に反応が鈍くなったりと言うような障害はないが、体のマナが枯渇すると動けなくなるほど私の体はマナという物質に強く結びついてしまった。
この立ち眩みに似た症状は、マナの残量が少なくなった証拠だった。
___今はタイムスリップした次の日の昼。
敵がやってくるのを待ち構え続け、気づけば食事を取ることも忘れていた。
私は少しふらつく足で商店街を歩く、おいしそうな香りが私の空腹をさらに深いものへと変える。
何を食べようか迷っているとき、私はあることに気づいてしまった。
「私、そういえば持ち合わせが…。」
私がいた時間ではお金を持っていたとしても使い道がないほど荒廃していたこともあり、金銭を持ち歩くことなんて重みになると思いもっていなかったことが裏目にでてしまった。
(どうしよう…。)
今の私には帰る場所もなければ、万全な時はまだしも今は働ける元気もない。
どうするか、それを迷いながら私は意味もなく商店街を歩き続ける。
_____そんな時だった。
「あら?」
目の前に現れた女性がそう言う。
誰だろうか、私は視線を下に向けていたためその人の顔を確かめるために視線を上にあげる。
「あっ」
思わず私の口からそんな声が漏れるほどの人物。
それは___私とは違って薄い茶髪の女性。この国の人間にはよくある特徴、だがその顔は私に似た顔つき。
そう私は、この人を誰よりもよく知っている。
(姉さん____!!)
ヤバイ!とそう思って急いで振り返り逃げようとするも、
「ぐあっ」
着ていたパーカーのフードの部分を掴まれ、私はそんな声を吐き出した。
「ちょっとちょっと、逃げることはないでしょう?」
姉さんは、私のフードを引っ張り私を引き寄せるとそういった。
「ましろちゃん___よね?」
私の顔を見つめ、そう問いかける姉さん。
この人からは逃げられない。そう悟った私はぐっと入れていた力を抜き、観念することに決めたのだった。
それから30分ほどして、姉さん__水無月ひなたに捕縛された私は彼女に空腹を見抜かれて水無月家へと連れてこられた。
「聞きたいことはいっぱいあるけど、食べて落ち着いてからにしましょ」と言われテーブルにつかされる私。調理をしているのは姉さん____私がした方がよかったと今になって思う。
「はぐはぐ…」
出された料理は、見た目はちゃんとした料理なのに、極端に味がないか味が濃いかでお世辞にもおいしいとは言えない。
「どう?ましろちゃん。お姉ちゃんの手料理はおいしい?」
向かい側に座りニコニコと話す姉さん。
「___味見くらいはしてよね…。」
私は、おいしくないそれを食べながら答える。
本当においしくはないが満たされるのなら私の力になるため、飢えて死ぬよりはマシと考えるしかない。
「ごちそうさま。」
出されたものを完食した私は姉さんに向かって手を合わせてそう言う。
何度も言うが、____本当においしくなかった…。
しかし食べさせてもらった以上、礼を言わなきゃいけない。
「うんうん。お粗末様。それで___」
姉さんがニコニコしてそういうが言葉の最後を濁らせる。
「姉さん。私は___ましろだけど、その、姉さんの知ってるましろじゃないの」
私は、そう一言いうと、ある程度の未来の話を伝えながら自分の存在がどういうものかを説明した。
もちろん混乱させるわけにはいかないから、未来がどうなってしまったのかとか姉さんたちがどうなったかなどは無理にでも曖昧にして話した。
姉さんは、ありえないことだと馬鹿にすることも笑うこともせず、私が話すことを頷きながら私から視線を外すことなく聞いてくれた。
「なるほど、未来から来たましろちゃん___かぁ。うーん。まあいじめられても学校に通ったあのましろちゃんが学校をサボるなんてことありえないし、本当のこと、なんでしょうね。」
姉さんは腕を組んでうんうんと頷く。
よかった。信じてくれた。
私は安堵して「ふぅ」と一つ息を吐いた。。
「でも、ごめんね。私はね?今起きてることしか信じないって決めてるから。未来世界がどうだとかそのあたりは信じてないわ。」
姉さんは人差し指を立てて私に向ける。
「だけど一つだけ、目の前にいるあなたは大変な思いをしてこの時代に来た別のましろちゃんだということだけ、信じてあげる。」
すべては信じてはいないと言う姉さんのその言葉に私は言い返す言葉もなく、それでもいいと納得することにした。
それはそうだ、必ずしも確定した未来が訪れるとは限らないのだから…。
「ありがとう姉さん。」
私は、一言そういうと軽く頭を下げる。
それでいい、少しでも理解をしてくれる人がいると安心感は違う。
「いいのよ。ましろちゃん!」
姉さんは、立ち上がると私に近づいてぎゅっと、私の頭をそのあまり膨らみのない胸へ引き寄せた。
「うんうん、ちょっと土のにおいが凄いけど、この感じは紛れもないましろちゃんだっ。」
懐かしい姉さんの香りに涙がこみ上げる私だったが、この状態が五分間も続いた。
流石に苦しくなり、軽く姉さんの体を突き飛ばす。
「ちょっと姉さんっ、流石にしつこいわ…」
私は、姉さんを軽く睨みつけると。
彼女は「ああっ、その表情___新しい!」と少し感激していた。
…ホント、たまにこの人が怖くなることがある。
「あぁそうだ。ましろちゃん。ボサボサの髪なんとかした方がいいわ。女の子なんだから大事よ?お風呂でも入ってきたらどう?」
姉さんが思い出したように突然私の頭を指さしてそう言う。
思えば、身なりに気を使わなくなってどれぐらいたっただろう。
ずいぶん髪も伸び、雑な手入れしかしてこなかったから今触ってみてその髪のボロボロ加減に驚いた。
「___姉さん、お願いがあるんだけど。」
それから数十分。
「本当によかったの?ましろちゃん。ずっと長い髪にこだわってきてたでしょ?」
暖かいシャワーを浴びて、リビングに出ると姉さんが冷たい麦茶を手渡しながらそう問いかけてくる。
あれから1時間ほどかけて、私の頼み事を姉さんは叶えてくれた。
それは、髪を切ること。
長年伸ばしてきたきた髪は、姉さんによって肩のあたりまで短くなった。
「ええ、ありがとう姉さん。これは私の決意の証だから。」
そういいながら、私は短くなった髪の毛先を指先でくるくると巻く。
「ましろちゃんがなんの決意をしているのか、お姉ちゃんわからないけど、…きっと止められないことなんでしょうね。」
姉さんには、正義の味方になって戦っていたなんて話もしていない。
ただ伝えたのは、未来には人が起こした災害が起きて私も巻き込まれてしまったという話をした程度だ。
ここですべてを姉さんに話してしまえば、過去の私を止めてくれるかもしれないと考えたが、姉さんはきっと私の意思を尊重するから言ったところで変わらない気がしたのでせめて姉さんが巻き込まれないようにそこは黙っておくことにした。
「私にしかできないことがあるから…ね。
それと…姉さん。ここにいる私はましろであってもあなたの知ってるましろではないからその名前は自分の妹に呼んであげて。私は___そうね。何もない私は…レイ…カ。そう、レイカ。柊レイカ、これからはそう呼んでほしいな。」
私は、重い手錠の付いた腕を服に通しながら姉さんに向かってそう言う。
姉さんは「そっか。わかったわ。___レイカちゃん」と一言言って私の頭をそっと撫でる。
「でもレイカちゃん。あなたもましろちゃんである以上、この家はあなたの家だから。いつでも、帰っておいで。」
姉さんの言葉に私は「極力そうすることのないようにしたいけどね。」と一言答える。
すると、突然姉さんは私の耳を引っ張り
「お金も、住む場所もないくせによく言うわねー。私の妹はー!いい?ましろちゃんがいない平日のこの時間帯にご飯とお風呂に来るのを約束しなさい!」
と言う。
痛いがそれに甘えたくなかった私はやせ我慢して、ぷいと目線をそらすが姉さんはもう片方の耳も掴んでさらに強引に引っ張る。
「痛い痛い!!あぅ、わ、わかったよ!」
私は、思わずそう言葉を吐き出した。
姉さんは、私の言葉を聞くと「よろしい!」と腰に手を当ててそう言った。
本当、この人にはいい意味でも悪い意味でも驚かされる。
そのうっとおしいほどの元気さが、姉さんのとりえであり私の心の支えだった。
「じゃあ、姉さん。今日はもう行くね。いろいろありがとう。料理、おいしくなかったよ。」
私はそういうと、靴を履いて再びアスファルトを踏みしめた。
未来を変えるために私はこれからも戦い続けよう。
遠ざかっていく家をふと振り返り、そう誓った。
__この胸に姉さんの笑顔を刻みつけながら。
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