第17話『仲直りのご飯』

翌日。

「……雨かよ」

せっかく皆で飯を食べに行こうと決めたのに、空は厚い雲に覆われ、ざあざあと雨が降っていた。

「今日、グループの皆でご飯行くんでしょ?」

「ああ。葵は何か、そういうの無いのか?」

「僕は特に……。っていうか昴君、食べ過ぎないでよ?」

「いっぱい食べなきゃ宇宙飛行士はやってけねえだろうに」

「昴君、一人で二人前とか食べそうだもんね……」

特段恰幅の良い訳でもない昴だが、食事はかなりの量を平らげる。ある日の夕食ではトンカツが出たが、おかわりを二度し、残してしまった者の分まで請け負い、平らげてしまった。いわゆる『健啖家』である。

「前から気になってたんだけど、あのトンカツはどこに収めたの? もしかして胃の中にブラックホールがあるの?」

「無い無い。普通に胃の容量が大きいだけじゃね? あと、授業だの実習だのでクッタクタになってるからさ。腹も減るってモンだろ」

「胃もたれしないの?」

「生まれてこの方無いね」

昴のあまりの健啖ぶりに、軽く引き気味な葵。

「そろそろ行くか。現地集合だから、早めに出ないとだしな」

「傘持った?」

「おう」

「財布は?」

「あるよ」

「スマホ」

「ポケットに入れてる」

「定期……」

「すぐ近くだから! 徒歩十五分! ってか、お前心配しすぎじゃね? 俺の母さんかよ」

「冗談だよ。本当の母さんだったら、もっと心配するんじゃないかな」

クスクスと笑う葵。その仕草は、どことなく女性的だった。

「葵さ、女装してもバレないんじゃね?」

「え、昴君もしかして、そっちの人?」

「違えし!?」

唐突にホモ疑惑をかけられ困惑する昴。当然彼は女子が好きだし、男子をそういう目で見るような趣味は無い。

「クソ……、マジ急がねえと遅れるから、もう行くぜ。じゃあな。また夕方に」

「うん。楽しんで来てね」






「悪い。遅れた」

「問題無い。昼時までに来てくれれば良いようなものだからな」

今日も今日とて渋い顔をしている源治。その他にも、昴以外は全員集まっているようだった。

「……俺待ちだったか」

「天田、腹は空かせて来たか?」

「走って来たからな。良い感じに空いてる」

「なっちゃん! パフェとかあるかな?」

「あったら良いね」

「半分こしようね!」

「う、うん……」

ぴょんぴょんと跳ねる友花。快活な姉とは逆に、菜乃花は気恥ずかしそうに肩をすぼめていた。






「すいませーん! 唐揚げ定食一つと、餃子一つお願いしまーす!」

「美春さん、どれにしますか?」

「私はこれ」

「カレーライス! 定番ですね!」

「なっちゃん! パフェ! パフェあるよ!」

「す、凄い大きそうだよ。ともちゃん……」

「更科そばか。……うむ。これにしよう」

各人が好きなものを注文していた。

「そういやあ、六月からは海外の宇宙機関で研修だっけな」

「ふむ。もうそんな時期か。どこに行くか、決めたのか?」

内之浦高校宇宙科では、一年時に各国の宇宙機関へ三週間滞在し、宇宙飛行士に必要な語学力、コミュニケーション能力を磨くとともに、最先端の宇宙開発技術に触れさせることによって、将来の宇宙飛行士としての自覚を持たせる________という名目で、『海外宇宙機関研修』を行なっている。

アメリカ航空宇宙局NASAロスコスモス ROSCOSMOS欧州宇宙機関ESAのいずれか一つに行き、研修を行う。

「そろそろ希望調査用紙が配られるんだっけか。俺はNASAだよ。やっぱり本場で学びたいしな」

「そうか。……天田は中々食べる方なんだな。胃もたれしないのか?」

「葵にも同じこと言われたよ。生まれてこの方した事が無いな。あ、醤油ラーメンチャーシュー入りお願いしまーす」

唐揚げ定食と餃子を平らげ、追加で醤油ラーメン(チャーシュー入り)を追加注文する昴。彼がもし宇宙飛行士を引退しても、フードファイターとしてやっていけるかもしれない。





「いやぁ、食った食った」

満足そうに腹を叩く昴。ラーメンを食べたあたりで腹八分となり、『今日はもう良いだろう』というような感じになった。

「天田お前……、大食い選手権とか出たらどうなんだよ?」

「早食いすると太るから嫌だよ。俺の代わりに鎌沢。お前が出るなら応援しないでもない」

「いやお前女子かよ。ってか、何で俺が出なきゃいけねえんだよ」

「何となく?」

「そんな理由で!?」

あんぐりと口を開ける鎌沢。彼も良いように昴に扱われているらしい。

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