第16話『謝罪、そして和解』

訓練開始から二週間。今日は、閉鎖環境適応訓練の最終日だ。

「この間はごめんなさい……」

最終日になり、ようやく復帰が許された美春。彼女は深々と頭を下げ、蚊の鳴くような声で謝意を示した。

「私も、嫉妬で周りが見えなくなって、たまたま江藤が一人でいたからって、首絞めて……。挙げ句、『死ね』なんて……」

「……美春さん。もう過ぎてしまった事です。私自身、首を絞められたのはびっくりしましたけど、もう良いんです。あなたがこうして、謝ってくれたんですから……」

慈愛に満ちた笑顔を浮かべ、優しく赦すジュリア。

皆の真ん中に立ち、巌のような表情を浮かべていた源治がふっと目を開き、美春に問いかけた。

「伊藤。江藤は赦しているが、俺達はまだ信用し切れていない。……誓ってくれ。『もうあのような事はしない』と」

美春は何度か唇を震わせ、俯く。しばらくそのまま固まっていたかと思うと、顔を上げ、決心したように口を開いた。

「……今回は、私の自分勝手な行動で、皆に迷惑をかけました。グループの評価ってヤツも、私のせいで下がったかもしれない。大なり小なり、皆、私に恨み言があるかもしれません。それはどうぞ、私にぶつけてください。……でも、これだけは信じてほしい。もう二度と、あんな事はしません。……ごめんなさい」

先ほどよりも深く頭を下げる美春。

源治は「うむ」と小さく呟くと、渋い顔のまま、彼女に手を差し出した。

「握手を交わしたいのだが。良いか?」

彼の手を、そっと握る美春。

「……皆、俺達の和解を祝して、これは天田の提案なのだが……、飯を食べに行かないか? 今日で訓練は終わるし、明日は休日だ。無論、強制はしない」

「田津、お前どうよ?」

「本を買いに行くついでだけど、大丈夫だよ」

「ともちゃん、どうする?」

「あたし賛成! なっちゃんも行こ!」

「私はいいよお……」

「(見える見える。友花さんに、菜乃花さんが無理やり飯食わされてんのが……)」

昴自身、かなりの健啖家だが、この少女二人、特に妹の方菜乃花は、相当な少食に見える。そもそもあの小さな体躯で、二人ともよく宇宙科の選抜試験をパス出来たものだ。

「天田! 食費はお前持ちで良いか?」

飯に行くと聞いてハイテンションな鎌沢。

昴としては、十人分の飯代を一人で負担させられるなんて、嫌がらせも甚だしい。

「ふざけんな。一人ひとりが払うに決まってるだろ」

「言い出しっぺだろー?」

「知らねえよ!? っていうかお前、金無いから便乗して払ってもらおうって魂胆なんだろ」

「……バレてる……っ!」

「もろバレだよ」

「天田、鎌沢。その辺にしておけ。終わりが近いと言えど、今は訓練中だぞ」

源治が仲裁に入った。その厳然とした態度に、すごすごと引き下がる二人。

「学校の近くにレストランがある。明日の午前十一時に集合にしたいと考えているが、異議は?」

源治が皆を見回してみると、異議を唱える者はいなかった。

「……異議は無いようだな。では、この予定で行こう」

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