第15話『とある管制官の片想い』

「皆特に異常は無いよ。昨日の件を除けば」

『あれはね……』

こめかみを押さえる遥華。管制官の間にも、昨日の件は動揺をもたらしたらしい。

『彼女、一週間の謹慎だって。あんなにやらかして、良くこの程度の処罰ですんだわね……』

「下手すりゃ停学とか退学だったはずだろ? 校長も寛大だよな」

『うん。……嫉妬からっての、何か分かるな』

「え、遥華、嫉妬したことあるの?」

『あるわよ。アンドロイドじゃあるまいし』

ぶぅ。と、顔を膨らませる遥華。

「……もとは可愛いんだよなあ……」

『へっ!? あ、あ、アンタ今、何て……?』

「うん? いや、お前もとは可愛いんだから、殴る蹴るを無くせばモテるんじゃ無いかなって。あと猫被りもやめようか」

『うっさい!!』

『宇田川さん、交信中でしょ?』

『あっ、ごめんなさい!』

「(ほら出たそう言うのだよ)」

『で、異常は無いのね。それなら良かった。今日の課題は特に厳しいから、覚悟しなさい』

「はいよー」

ぷらぷらと手を振る昴。 遥華は不機嫌そうな顔で通信を切った。




「宇田川さん、今日機嫌悪いね。月のアレ?」

「えっ、違うよ? それは大分先かな。幼馴染みがウザくてさ」

「幼馴染みかあ。天田君でしょ?」

「そう! 夏実聞いてよ! 昴がさあ!」

「はいはい。私これからB班の管制入るからさ。休憩の時に聞くよ。宇田川さん、十二時までA班管制でしょ?」

管制官はシフトが組んであり、昨日の訓練開始から今日の午後十二時までが遥華の管制時間帯。午後十二時からは、夏実も遥華も休憩時間だ。

「ふふふ。A班にはとびきり難しい課題が残ってるの。昴の困り顔が見物だわ……!」

「遥華、結構Sだよね。そんなんじゃ天田君をゲット出来ませんぞ?」

「い、いや、あいつはそんなじゃないし。あんなのタイプじゃないし」

「じゃあ何で顔が赤いのかなあ? ねえ?」

ニヤニヤと迫る夏実。彼女も案外Sなのかもしれない。

「……………いや、生まれたときから一緒だし、嫌いじゃないけど……」

「よっしゃ言質取りましたっ!」

「ああああ言っちゃダメ! あいつにバレたらあたしが何されるか分かんないのよう!!」

ぎゅうううと抱き着く遥華。男子の管制官が「おお……」とどよめく。

「素直になりなよ宇田川さん。宇宙飛行士と管制官の間に、隠し事はナシだよ?」

「そりゃそうだけど……」

顔を真っ赤にして俯く遥華。照れからか、指をちょんちょんさせている。

「だって……いっつも追いかけ回してる時は平気なんだけど、面と向かって話すと、正視できないっていうか、照れるっていうか……」

この時、管制室にいた全ての管制官の思考が、奇妙にも合致した。

____「この子、いじらしすぎやしないか?」と。

「……よーし分かった。宇田川さん。その想いをぶつけちゃえ。私達も手伝うしさ」

「そんな、無理だよ……」

「弱気になってどうすんの。いつもの活発な宇田川さんはどこへ?」

「フラれるの、怖いもん……」

「女は度胸だよ。私が告ってフラれた回数教えてあげようか。五回。五回だよ。五回も告白してフラれてんの。宇田川さん、私より可愛いんだから、絶対成功するって!」

「そう……?」

「仮に失敗したら、私に抱き着きなよ。好きなだけ泣かせてあげるから」

「か、かっけえ……!」と、男子の思考が合致した。

「うん……。頑張る。この訓練が終わったら」

「おいそれニート理論じゃないかいっ!!」

管制室が笑いに包まれた。




「ぶあっしゅ!」

「……む? 風邪か?」

「いや、誰かが噂してるんだろ。予想つくけど」

「そうか。風邪で無いなら良い。しかし、常日頃から体を作らねば、病気には勝てないぞ」

「知ってるよ。そのくらい」

「うむ……」

昴は昔から体が強い方で、風邪くらいの病気にしかかかったことが無く、インフルエンザや他の病気とは無縁だった。

「佐竹は何か病気したことあるのか?」

「いや、これと言った病気は無いな。まあ、無病息災が一番良いのだが」

「そうだな……」

宇宙飛行士には、頑健な体が必要とされる。

その点では佐竹も昴も、恵まれた体を持っているといえた。

「佐竹、この訓練が終わって、自由になったら、ラーメンでも食いに行かね?」

「うむ。良いだろう」

死亡フラグのように食事の約束を取りつけると、昴は一人、自分のベッドに戻った。

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