第9話『やっぱり皆思春期なんだ』
「晴康さんって、どこの出身なんです? 顔が外国人みたいですけど」
「生まれは山口育ちは鹿児島の日本男児だぜい。顔が外国人みたいなのは、多分爺さんの遺伝だな。爺さん、イギリスの女と結婚してたらしいし」
「へえ……」
「じゃー、俺はやることあっからこれで。じゃーなー」
ブンブンと手を振り、走り去る晴康。……彼は『廊下を走るな』という規則を知らないのだろう。
昴達が談話室に行くと、数名の生徒が雑談に興じていた。
「なー、今年の一年、可愛い子多くね?」
「マジそれな。ああ、俺も彼女欲しいなあ」
悲リアの切なる願いだったり、
「なあ橘よ、お前どの子タイプ?」
「俺はあれだな。航空医学の澤井さん。奥ゆかしい感じがたまらんね」
「いやあ、あいつは根暗だろ。確かに顔は良いがよ」
「そういうお前は?」
「俺? 俺は断然宇田川さんよ。顔も良くて、性格も良いじゃん。……ま、高嶺の花ってヤツだろうけど」
いや違う。お前の知ってる遥華は、猫被った遥華だ。と大声で叫んでやりたい昴だったが、それをやるとヤバいヤツとして三年間暮らさなければならなくなるので、心の奥にしまっておくことにした。
「……あ、遥華?」
『どしたの? こんな時間に。もしかして、あたしが寂しくなった?』
時刻は午後九時半。
一言目からジョークをかます遥華に辟易しながらも、会話を続ける昴。
「な訳ないだろ。面白くないジョークだな」
『お世辞でも面白いって言っときなさいよ』
「あーおもしろーい」
『……このやり取り、前にもやんなかった?』
「やったな。一回だけ」
そこから謎の沈黙が、二人の間を支配し、その分の通話料金が無駄になっていく。
『何か喋んなさいよ』
「ネタ無いもん」
『雑談するとき大変そうね』
「うるさい」
『……んで、そっちはどう?』
ようやくまともな話になったと口角を上げる昴。
「だいたい女子の話。誰が可愛いとか、彼女欲しいとか」
『うわあ……薄々分かっちゃいたけど、改めて聞かされるとキモいような……』
「誠に申し訳ない……」
『いやいや、アンタは悪くないよ?』
精一杯フォローする遥華。確かに昴は、あの話に加わってはいない。
『まあ皆思春期だし、そういう話すんのも分かる。あたしらだって、何コースの誰がイケメンだとか、誰がブサイクだとか言ってるしね』
「うーん、それは知りたくなかった」
『でも男子もやってるじゃん』
「返す言葉もございません……」
くたっと手すりに寄りかかる昴。他人にした事は、自分にもブーメランのように返ってくるのだ。
『蛇足だろうけど、言っとく。アンタ、根暗じゃん? でも、うちの女子達にはウケてるらしいよ。『クール系イケメン』みたいな感じで』
「え、意外とモテてる感じなのか……」
『まあ、そんな感じ。……友達に呼ばれちゃったから、また後でね。そんじゃ』
「おお。じゃあな」
通話を切り、スマホをしまうと、四月のまだ肌寒さの残る風が、昴の頬を撫でた。
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