第6話『夢へのスタートダッシュ』

「皆座ったな。このクラスの担任を任ぜられた、鐘崎秋穂だ。担当教科は体育、他に宇宙科共通科目の、宇宙教養を受け持っている」

 長身、その体は引き締まっていて、されど女性としての魅力も十分備えている。

「私が担任になったからには、お前達を優秀なクラスに仕上げるつもりだ。……私の授業は厳しい。覚悟しておけよ」

 鋭い視線を投げ掛ける秋穂。この教師は、視線だけで人を怖がらせることが出来るらしい。真面目に怒れば、どうなるか分かったものではない。

「そろそろ入学式だ。……新入生に相応しい、きちんとした容貌でな」

 背筋を伸ばし、式の開始に備える。

『____新入生諸君。ようこそ、国立内之浦高校へ』

 テレビ画面に映ったのは、還暦を迎えたであろう男。口髭が中々に濃く、その分脳天が寂しげな紳士だ。

『諸君はこれから、宇宙飛行士、地上管制官、整備士、航空医官を目指し、三年から六年もの間、学業に励むことになる。教員、生徒一同、君達の入学を歓迎する』

 あの校長、ウィッグとか着けたりしないのかな。とか考えている昴だったが、その間にも式は進む。

『では、各クラスの担任を紹介します。……飛行コース一年一組、浅田新助』

 画面に映ったのは、眼鏡を掛けた、柔和な顔の男性教師。

『飛行コース一年二組、鐘崎秋穂』

 我らが担任。目付きが悪い……ではなく、芯のある目をした女性教師だ。

『管制コース一年三組、冴島鳴美』

 まるで仏のような顔をした女性教師。髪もパーマがかかっているのか、余計そう見える。

『整備コース一年四組、薄井義人』

 やせ形の男性教師。まるでゾンビのようだ。

 ふと昴は周りを見回す。……だいたいの生徒が居眠りをしていた。

『整備コース一年五組、荒城藤治郎』

 こんがり焼けた肌の中年教師。口から見える白い歯が眩しい。

『航空医学コース一年六組、伊藤結愛』

 白衣を纏った、儚げな印象の女性教師。

『航空医学コース一年七組、白間絢香』

 ニヤリと笑った、短髪の女性だ。

『航空医学コース一年八組、桜井樹』

 いかにも研究者然とした、神経質そうな男だ。

「……起きろ、お前達。式中だぞ」

 苛立ちを含んだ声で、注意を飛ばす秋穂。

 生徒達は眠い目をこすりながら、式の残りの次第を消化していった。




「ぐああ……超眠かったな」

「あはは……、次は寮見学で、そのまま入寮だよね?」

「ああ多分……」

 内之浦高校は、実家の距離に関わらず、全生徒の入寮が義務付けられている。

 普通科で言うなら、『連帯感を育むため』、宇宙科で言うなら、『選抜試験に合格した同期として、同級生クルーとの絆を育む』という観点かららしい。

「俺達どっちだっけ」

「『星天寮』だったかな。ここから近いし、すぐだよ」

 その『星天寮』に向けて、二人は歩き出した。

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