第5話『根暗に会話は難しい』

「じゃあ、父さん。母さん。行ってくるよ」

「ああ。夏休みに帰っておいで」

「飛行士の訓練、キツいかもしれないけど、頑張ってね?」

「うん。じゃ」

 スーツケースをガラガラ引きずり、歩き出す昴。

「ちょ、ちょっと待って! どうせ目的地同じだし、一緒に行かない?」

 それを、何度かすっ転びそうになりながら走ってきた遥華が、昴の肩を掴んだ。

「うん? 別に良いけど」




「どう? 緊張してる?」

「いや。ただ、友達出来るかなあって」

「まあ、アンタ、根暗だしね」

「根暗じゃありませんー。ちょっとコミュニケーションが苦手なだけですー」

「あっ、じゃあコミュ障か!」

「何なのこの子……」

「友達出来なくても、あたしがいるから良いじゃん」

「良い……良いのか?」

「お世辞でも良いって言いなさい。ほら」

「良い……です」

 無理やり感が否めないが、遥華が昴の支えになっているのは事実だろう。

「ま、アンタがいじめられたりしたら、あたしに言ってよ。全部ぶっとばしてやるから」

「怖いのでやめときます」

 幼少から喧嘩っ早かった遥華。彼女にいじめの仲裁を頼めば、遥華といじめっ子の双方が謹慎処分になること請け合いだ。

「冗談冗談。この容姿完璧性格美人、歩く姿は百合のような遥華ちゃんよ? ぶっとばしたりなんかしたら、イメージに傷がついちゃう」

「容姿完璧でも性格はなあ……」

 そう昴がこぼした刹那、鋭い回し蹴りが叩き込まれ、朝から声帯を潰しかけた昴だった。




「尻が割れるかと思った」

「お尻は元から割れてるでしょ。ほら、着いたわよ」

「……おおお」

 昴の眼前に広がるのは、純白の巨大な校舎。

 右手遠方には、内之浦宇宙空間観測所のロケット発射台がそびえ立っている。

「入学式は教室でだって。全校放送でやるのかな?」

「さあ……。って、俺とお前、クラス別じゃないっけ?」

「同じ階にあんのよ。飛行コースと管制コースの教室は」

 階段を上がると、すぐに教室があった。

 昴は『一年二組・飛行コース』と書かれた教室に入る。遥華は管制コースなので、もっと奥の『一年三組・管制コース』だ。

 教室に入ってみると、既に何人かの生徒が談笑していた。同じ中学校の生徒同士だろうか。

「(同じ中学は遥華しかいないけど、あいつは別クラスだもんなあ……)」

 同じ学校の人間がいないと、どうしても肩身の狭い思いをすることになる。

「(まあ、あいつ遥華はコミュ力高いし、速攻友達作ってるだろ)」

 つくづく俺とは違うな。と、自分と幼馴染みとのコミュ力の差にうんざりする昴。

 無いものを嘆いても仕方がないので、とりあえず会話の輪に混ざることにした。

「よ、よお。何の話してるんだ?」

 やっちまった。会話の入り方としては落第な入り方だ。

『何だコイツ』『お前行けよ』『嫌だよ何か根暗くさいもん』

 そんな内容を目で交わしている。

「え、えっと、普通に宇宙の話とかかな」

 しどろもどろになっている昴を見かねたのか、中性的な外見の生徒が切り出した。

「どういう話なんだ?」

「うーん……、天田飛行士かなあ」

「天田飛行士か。そんな有名なのか?」

「ISS組み立てに関わった人だよ? 知らないの?」

「いや、知ってるけども……」

 それどころか、自分の父親だとは言えない。雰囲気的に。

 その時、教室前方の扉が開き、長身の女性が入ってきた。

「……席に着け。HRを始めるぞ」

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