第3話『寝るって言ったよね?』
空港に着くと、既に辺りは暗くなっていた。
親には遅くなると言ってあるが、それでも心配かもしれないので、連絡をいれておく。
「ああ、父さん? 試験終わったよ。……ゲロは吐かなかった。気絶しそうになったけど。……うん。うん。帰りは夜中になるかな。一応鹿児島空港まで直で行けるけど。……うん。分かった。そんじゃ」
電話が終わると、スマホに着信があった。遥華からだ。
「何? 急いでるから後でね」
『ちょっと! それが幼馴染みに対する態度!? せっかくあたしが、夜中なのにわざわざ電話してやってんだから、感謝くらいしなさいよ!』
「ああーありがとうございます遥華さん。試験は無事に終わったから心配しなくて良いぞ」
感謝の気持ちなんて欠片もない『ありがとうございます』だったが、遥華には通じたようで、
『あっそ。無事に終わったんなら安心だわ。明日早いし、あたし寝るわね。お休み』
ブツッ! と切れてしまった通話。昴はスマホの電源を切り、カバンにしまうと、周囲の目も気にせずこう叫んだ。
「……横暴幼馴染みめ! お前ガキ大将だろ!? そうなんだろ!?」
「(……結構デカい学校なんだな)」
機内にて、試験終了時に渡された学校紹介のパンフレットをぱらぱらとめくる昴。
「(航空医学コースとか、皆エリートなんだろうなあ……)」
宇宙飛行士も相当のエリートなのだが、彼はそれに気づいていないらしい。
「(お、『海外宇宙機関研修』か。絶対NASAはあるよな。行きたいなあ。NASA。……まあ、合格出来ればだけど)」
自分の将来に希望を馳せながらがっくりと肩を落とすという、器用だか不器用なんだか分からない事をやってのける昴。宇宙飛行士になりたいなんて言うのだから、恐らく彼はそれなりに器用なのだろう。
「さーてさっさと風呂入って寝よう」
そう思い家に入ろうとした矢先、
「お帰り。めちゃくちゃ眠いけど待ってた」
「おっ!?」
いきなり声をかけられ飛び上がる昴。後ろを向くと遥華だった。
「え、お前寝たんじゃないの? 寒くない? うちくる?」
「疑問をマシンガンみたいに連発しないの。一個ずつ答えるから。まずね、その、試験が終わった解放感で寝れなかったっていうか」
「遠足が楽しみで寝れない小学生かお前は」
「うっさい。そんで、正直寒いからあげてくんない? おじさんまだ起きてるでしょ?」
「多分。あーでもそろそろ寝るかな……。ちょっと待ってろ」
バタバタと家に入り、数分すると戻ってきた。
「超良い笑顔でオッケーしてくれた。入れよ」
「おじゃましまーす」
まるで自分の家に入るかのようにズカズカと(それも夜中に)上がり込む遥華に、昴も閉口せざるをえない。
「……久しぶりだね。遥華ちゃん」
「おじさん! お久しぶりです!」
髪には白髪が混じり始めているが、良く見るとがっしりした体格の男____天田敏洋が出迎えた。
「昴、試験の手応えはどうだい?」
「まあ、上等……とは言えないけど、それなりにね」
「そうか。遥華ちゃんは?」
「面接でちょっとしくじったんですけど、それ以外は上々です」
「そうかそうか。二人が僕の後輩だと思うと、嬉しくなるよ」
「おじさんは、もう飛ばないんですか?」
「大分昔に引退したよ。……もう打ち上げに耐えられる体でも無いしね」
はははと肩を竦める敏洋。彼の顔は、笑っていながらも、少し悲しく見えた。
「ああ、客人がいるのに、お茶を出してなかったね。すぐ用意するよ」
「あっ、良いですよ! 別に居座るつもりじゃ無いですし!」
「いやいや、客人に対する礼節というものがあるからね。それに、体も冷えているだろう?」
「あ……、それはまあ、寒い中で、昴の帰りを待ってましたし」
「え、お前いつからあそこにいたの?」
「……アンタと電話した後からだったかな」
「じゃあお前九時くらいからいたの!?」
「うん」
絶対風邪引くじゃん。と戦慄く昴。
「ははは。談笑するのも良いが、一息ついたらどうだい?」
敏洋の朗らかな笑みで、真夜中の茶会が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます