第2話『過酷な適性試験』

「受験生諸君。鹿児島から遠路はるばるご苦労だった。しかし、君達の大半は、この適性試験で落とされることになる」

 JAXA職員の口から告げられた衝撃の事実。

「仮にこの適性試験に落ちても、転科受験が認められるため、管制コースから航空医学コースのいずれかを選んで入学する事も可能だ」

 受験したコースに『適性無し』と判断された場合は、転科受験が認められている。

「……脅すようですまないが、この適性試験で、君達の努力を無駄にすることになるかもしれない。それでも受けるか?」

 全員が頷く。『絶対に宇宙飛行士になる』という強い意思が無ければ、この仕事は成り立たないのだ。

「……分かった。では、まずは『ホワイトパズル』に挑戦してもらう。これで、君達の宇宙飛行士としての忍耐力を見極めさせてもらう」

『ホワイトパズル』____実際の宇宙飛行士選抜試験でも使用される、真っ白なパズルだが、かなりの忍耐力を必要とする、難易度の高いパズルだ。

「君達にはこれを、十分以内に完成させてもらう。完成させられなかった者は、即脱落。転科受験の準備に入ってもらう」

 昴の顔から、汗が流れ落ちる。『転科』。それだけは避けたい。




『____では、始め』

 掛け声と同時に、パズルを組み始める____のだが、如何せん真っ白なので、どうにも取っ掛かりが掴めない。

「(……十分以内にこいつを完成させるには……)」

 カチカチと響く時計の音が、昴の集中を乱し、焦りを助長させる。

 だが、焦りを振りきるように、彼は手を動かし、パズルを完成させていく。

「(良し。これで完成だ)」

『____止め。では、ここで十五分の休憩をとります。次の耐G試験に備えてください』

「うわあ来たよ~」「俺絶対吐くわ」「元からブスなのに、Gがかかったらもっとブスになっちゃう……」などなど、不安を続出させる受験生達。

「耐G試験か……」

 ロケットの発射や、宇宙船の帰還時には、激しいGがかかる。宇宙飛行士は、それに耐えるために、遠心加速器という装置に入り、Gに耐える訓練を行う。

「(まあ、あいつ遥華だけ受かって俺が落ちたら、『恥さらし~』とか言われるだろうし)」

 出来るぞやれるぞ頑張るぞと、自分を鼓舞しながら、昴は耐G試験の会場に向かった。




「耐G試験を開始する前に、君達に伝えておく事がある。本来の耐G訓練では、5Gを三秒、8Gを四十秒かけるが、君達がまだ高Gに慣れていない一般人であること、それに伴う医学的な危険性を鑑み、本試験では、3Gに五秒、6Gに十秒耐えてもらう」

 つまり、実際よりも優しいぬるい条件で、『耐G訓練』に臨むというわけだ。

「リモコンを握ってもらうので、Gが辛くなったら、遠慮せずに離しなさい。くれぐれも失神しないように。特に女子。Gで歪んだ顔を見ても、失神しないようにな」

 かなり失礼なジョークの気もするが、幸いにも失笑を買うだけで済んだ。

「一人目の試験が終わるまでに鹿児島までの飛行機を手配しておくので、終わった者から帰ること。では、逢沢君。加速器に入りなさい」

「は、はい!」

 こうして、耐G試験が始まった。



「____では次。天田君」

「はい」

 加速器に入り、寝転がる。リモコンを握ると、外に何かが伝わったようで、

『では、1Gから徐々にかけていくからね。失神しないように、頑張るんだよ』

 その通信の直後、だんだんと加速器が回りだした。

 かかっているGは試験者にも分かるように、目の前の画面に表示されている。

 3.4、3.5……と、徐々にGがかかり、比例するように、息が苦しくなっていく。

「(ぐっ……、息……がっ……)」

 現在4.3G。そろそろ目の前が暗くなり始める頃だが、それでも昴は、リモコンを離そうとしない。もはや意地の領域である。

「んっ……ぐっ……うう……」

『大丈夫か? 辛いなら止めるが?』

「いい……え。問題……ない……です」

『驚いたな。このGで会話が出来るとは。そろそろ失神寸前だろうに。……ほら、6Gだ。頑張れ。あと十秒だぞ』

 胸が潰れそうな感覚に襲われながら、何とか耐える昴。案外自分には根性があるのかと、独り考えていた。

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