第3話 フリコ
ついに嵐が来た。僕はマクを連れて草原に走った。風の中、飛んでくるものを避けながら僕らは走った。そして草原に着くとすぐさま岩陰に急いだ。ハッチを開けて、すぐに入れるようにする。
「いいかい、マク。このシェルターの中なら安全だ。中には食料もあるから、しっかり食べて。そして、入ったら3日間は出てきてはいけないよ。それまではじっと耐えるんだ。それからシェルターを出たら、まっすぐ北へ向かうんだ。きっと助かる。」
「あなたは?あなたはどうなるの?」
マクは泣きそうになりながら僕に抱きつく。その体は華奢で、少し震えていた。
「僕はここで死んでしまう。でも、必ずまた会える。それまでの我慢だ。だから、一人でも絶対に生きて。」
マクは声を出さずに頷いてくれた。僕は彼女を強く抱きしめて、シェルターに入れた。いよいよ風が押し寄せる。シェルターのハッチが閉まっていく。そして、風がー。
ゴウゥン!!
大きく低い音でハッチが閉まった。僕の目の前には暗闇と食料。
え。
僕はシェルターに入っていた。ハッと我に帰ると、ハッチを壊そうと叩く音が聞こえた。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガ
グラッ。
少し揺れた。それ以降、ハッチを叩く音はしなくなって、無音だけが残って、響いた。すでに何も考えられなかった。ただ一点を見つめ続けた。
それでも色々考えようとした。
結局のところ、父さんとは誰だったのか、マクとは誰だったのか、僕とは誰だったのか、フリコとはなんだったのか。このシェルターはなんなのか。僕の食べた食料には何が入っていたのか。考えた。でも一つだけ言える。どんなことになっても、フリコを信じれば、必ず救われる。だから信じる、祈る、何度でも。
気がつくと、4日が経っていた。僕は妙にスッキリした体と頭を動かして、外を求めてハッチを開ける。隙間から太陽が飛び込んだ。
空は晴れていた。草原は、岩と土だらけになっていた。その草原を見て。僕は、全てが終わってしまったんだなぁと思った。後悔が遠慮なく押し寄せて、吐きそうになる。味気ない食事が、胃から逆流してきそうだった。
その時。音が聞こえた。
フン、フンと、規則正しい、どこか懐かしい音が。僕はその音の方向に目を向ける。
フリコは動いていた。
ゆっくりと、悠然と揺れて、揺れて、揺れて。ただただ揺れていた。壊れきった瓦礫の山の中を、威厳を持って、揺れていた。
なんだっけ。
フリコを信じれば、誰が救われるんだっけ。
何を信じれば、誰が救われるんだっけ?
フリコは、揺れている。
フリコは揺れ続ける。
悠然と、大地を見下ろして、ゆっくりと揺れている。
みんながフリコを信じた。
そして全てがなくなった。
フリコは揺れる。
僕はフリコを背にして歩き出す。
それでも、僕はなんだか、
フリコを振り返ってしまった。
〜了〜
フリコ 三風 風矢 @0522Mochiduki
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