第2話 変化、崩壊、そして終わり。
僕は父さんの仕事場へ急ぐ。大きなフリコに向かって真っ直ぐ走る。両側に立ち並ぶ店からは、よく通る声が飛び交っていて、朝から街は大盛況だ。魚の匂い、牛肉の匂い、野菜の匂い。言葉とともにいろんなものが、僕の前や後ろを通り抜けて行く。やがてその感覚が消え、僕はフリコの下に着いた。今日のフリコはなんだか静かだ。僕は中に向かう。
中にはいつもの活気がない。みんながただただ黙々と作業している。それも正しいのかもしれないけれど、なんとなくの違和感が僕を包んだ。父さんのところに着く。
「ああ、お前か。」
やはり活気がない。何か深刻な事態に巻き込まれているのかもしれない。聞こうとしたけど、なんとなく聞いてはいけないような気がしてやめた。モヤモヤしながら父さんの作業を見る。しかし今日は、
「お前は…、もう今日は帰れ。また明日から来い。今日は、人に見られる気分じゃない。」
そう言って追い出されてしまった。僕が渋々フリコから出て行くときも、中は不気味なくらいに静かだった。
僕がフリコの外に出ると、マクも出てきていた。同じように追い出されたようだった。
「今日のみんな、どうしたんだろう…。」
マクが言った。僕には皆目見当がつかない。不安とぼんやりとした恐怖を抱えながら、僕らはフリコを後にした。やっぱり静かだった。
僕らは市場で時間を潰していた。基本的にこの時間はいつもフリコの中にいるので、それがない場合は暇でしょうがない。雑貨屋を冷やかしたり、何かを食べたり、僕らの知らない時間の市場を堪能した。そこにいる人々の顔は輝いていて、少しも今を疑っていない。僕らはその中で、デートというにはあまりにもお粗末なことをして、時間を潰す。
その時だった。
ごーーん。ごーーーん。
フリコの鐘が鳴る。重く、強く、どこか寂しい音をして、鐘が鳴る。
その瞬間、市場の時間が止まり、全員がフリコを見た。鐘のところに取り付けられたスピーカーから、男の人の声が出る。国王だ。
「嵐が来る。フリコが壊れる。終わる。」
ブツッ。切れてしまった。それだけだったのに、次の瞬間には、市場も、村も、城も全てが狂い出した。何かが、割れる、砕ける、破ける。悲鳴。嗚咽。高笑い。混沌という言葉がまるで辞書の中から出てきたように、世界が勝手に壊れていった。僕とマクは、ただ道の真ん中に立ちすくんでいた。
それから数日の間。この国は狂いに狂った。ある者は国を出ようとして死に、ある者は人を食べ始めた。国の最後を静かに待つ者もいれば、命を絶つ者もいた。父さんも、命を絶ってしまった。死体が町中に転がっているが、片付ける者はすでに食人者くらいであり、殺人的な異臭が立ち込めていた。だから僕は匂いの届かない、いつもの草原に行く。海の方を見ると、真っ黒い雲が迫ってきていた。実感がなかったけど、そろそろ死ぬのだ。漠然とした悲しさが込み上げる。
そんな時だ。あるものを見つけた。それは草原の唯一の岩陰にあった。金属の扉。人一人分のスペース。食料の棚。簡易的だが、頑丈なシェルターだった。急いで町に戻り、食料の確保。シェルターに入れて扉を閉める。これで助かる。そう思ったけど、僕はマクのことを思い出した。シェルターには一人しか入らない。マクを入れれば、当然僕は死ぬ。それは逆も然りだ。僕は揺れた。僕か。それともマクか。少し早めの走馬灯を見ながら、僕は揺れに揺れた。今までがどの道全て消える。それなら。
嵐が来る。僕は決めなくてはならない。
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