13-4 クイズゲーの次はアスレチック

「ところでさー」


 俺はジト目をノエルに向け、


「欠けちゃいけない俺達が一緒にいるのって、まずいんじゃないの?」

「んー……あんまりよくないけど……

 話したかったから……たまにはいいかなーって……」


 なまけものくらいのスピードで、きょろきょろと辺りを見回しながら、ほんわか応えるノエル。


 因みに俺達三人は、現在宙に浮いている。というより吊られている。


 バカでかい輪ゴムみたいなものがベルトのごとく腰に巻かれ、ついでに両手を腰の後ろで固定されて、天井から垂れたなっがい鎖(素材は腰のやつと同じっぽい)の先に繋がれている状態。鎖は手の間から伸びているので、少し腹筋に力を入れれば直立するから頭に血がのぼることはないが、輪ゴムは腰にジャストフィットした後すぐに、鉄に進化したのかと思うくらい硬くなった(なんで?)ので身動きは取れない。もちろん鎖は別々で、およそ十メートルずつ距離を置き、そしてなぜか横一列に並んでいる。因みに左から俺、ノエル、タガナの順。


 部屋に入ったら中央の床に三つ円が描いてあって、一人ずつそこに立って手を後ろに回せ、というから言う通りにしたらこうなった。普通は従わないだろ、などというツッコミはナシで。


 ついさっきまでは床があったんだが、三人が吊られた時点で通路にあった落とし穴のようにバコッと開いて、五十メートルくらいの深さの穴になった。ご丁寧に暗い穴の底には、ノエルより背の高い針がみっちり詰められている。落ちたら串刺し確定だな。


『ルールは簡単。五分以内に脱出すればいいだけ♪

 五分経ったら出口を封鎖して、天井を落としちゃうから頑張ってねぇん♪』


 若い女の声が途絶えた途端、四十メートルは離れた正面の壁の真ん中に通路への入り口が現れ、その上にでかでかと三百という数字が映し出される。いびつな赤い字のそれは、一秒ごとに一ずつ減っていくという脱出ゲームにありがちなタイマーだった。


「あー……問題が出るんじゃないんだね……」


 残念そうにノエルが呟いた。見れば、笑顔はそのままだが視線を下に向けている。

 俺は五秒ほど考えて、


「ひょっとしてノエル、さっきのクイズ楽しんでた?」

「…………えへへ」


 照れたように笑うメガネ。


 えへへ、じゃねーよ。シンなら超絶にかわいいだろうけど、いい大人、しかも男がやってもキモイだけだよ。


「能天気すぎだろ、お前。ここは敵の根城なんだぞ」


 呆れてジト目を向けると、


「いやぁ……こういう凝ったことする妖魔なんて滅多にいないし……

 出てきた問題も……世界も分野も混ざってて……面白いものばかりだったから……」

「マスター、華月様。今は話をするよりも、抜け出す方が先だと思うのですが」


 両足をバタバタさせながら、タイマーをガン見しているタガナが言った。

 タイマーは残り四分を切っている。


「わたくしにはどうにも出来ませんので、助けてくださいね」


 こんな状況でも、やはりにこにこ笑顔は崩さないタガナ。というより、変化してからずっと表情変わってない。人外だから顔の筋肉使えないのかな?


「んー……硬いねぇこれ……」


 ノエルはぼそっと呟くと、俺の方にやんわり笑顔を向けて、


「華月、よろしくー……」

「…………しょーがねぇなー」


 俺は軽く肩をすくめた。

 それから両足を振ってくるんっと上下反転し、両膝で鎖を強めに挟む。次いで両腕に力を込めて――


 ボギィッ


 耐えきれなかった腰の輪が、バラバラに砕けて落ちていく。これで両手が自由になった。


 うーん……なんとなく鉄よりは硬かった気がする。壊せたからどーでもいいんだけど。


 次は、腹筋を使って上体を起こし、両手で鎖を掴むと同時に足を下ろす。二人の方に向き直り、全身で振り子のごとく鎖を揺らして、勢いがついたところで飛ぶ!


 カシャンッ


 狙い通り、ノエルが吊るされている鎖へと移れた。もちろん頭の上にだ。あとは鎖を握る両手の間隔を少し開け、


「ふっ」


 気合を入れてぶっちぎり、ノエルの方を通路に向けてぶん投げる。


「あー……」


 なさけない呻きを残して通路に転がるイモムシその一。

 同じようにしてイモムシその二も投げ入れる。

 最後に思いっきり勢いをつけ――このままジャンプで通路に飛びたいところだが、多分それだけじゃ距離が足りない。


 なので。


「よいせっ」


 俺は天井目指して飛んだ。空中で体勢を整え、天井には両足から着地! 同時に蹴る!

 そうすればこの通り、余裕で滑り込めるというわけだ!


 俺が通路に入ったところで、上からスライドしてきた壁によって出入口が塞がれた。


「さすが華月……五分もいらなかったね……」


 ぶざまに転がったまま微笑むメガネ。


「まぁ、試練って言うわりには簡単だったな」


 応えつつ、まずはタガナの腰の輪を壊す。ノエルはその次。

 自由になった二人は同時に礼を言った。

 俺は『そんなのいいよ』と返して先に進んだ。




 二つ目の試練は、燃える海の上で綱渡り。長さは五百メートルくらいで、左右の壁から大砲みたいな玉が絶え間なく、それも猛スピードで飛んでくるというおまけ付き。

 しかし俺のバランス力をもってすれば、この程度目を閉じたままでも余裕余裕。めんどくさいから二人を抱えてひょいひょい歩いてあっさりクリア。



 三つ目は、重力が何十倍にもなっている部屋。出口までの距離は百メートルくらいだったが、一歩入った時点でノエルとタガナが床と一体化。そのまま張り付いて動けないとわめいていたが、俺はちょっと体が重くなった感じしかしなかった。ジャンプもふつーに出来るし。

 それ以外は何の仕掛けもないため、二人を引きずって(持ち上げようとしたら痛い痛い言われたので)難なくクリア。つか、さっきより楽だった。



 四つ目、でかいドーム型の部屋の中で、マシンガンと死神の鎌とレーザービームが搭載された巨大ロボ(見た目はカマキリっぽい)十体とのバトル。

 二十体だったらノエルに召喚してもらえたのに、と肩を落としつつも圧勝。因みにその間ノエルは入り口に座って寝ていた。なんかムカついたので手加減ビンタで起こした。




「次はどんなのだろうな♪」


 五つ目の試練に向かいながら、声を弾ませ、そしてハッと気付く。足を止めてゆっくり振り向けば、


「……楽しいよね、これ……」


 お前も楽しんでるじゃないか、とでも言いたげににーっこり笑うノエルの姿。メガネがきらっと光った気がしたのは――さすがに見間違いのはず。


 くっ……さっき能天気っつったの根に持ってるな……

 しっかーし!


「ははは、そんなわけないだろ。ほら、あの……今のはあれだから、次も簡単だといいなーって意味だから」


 手をパタパタ振りながら笑って誤魔化せば問題ない!


 さらに何か言われる前に、くるっと踵を返して再び進む。自然と後に続く二人。


「楽しいかどうかはともかく――

 主護者用の試練というわりには容易なものばかりですね」


 タガナが不思議そうに言った。


「あー……多分ねぇ……そう思うのは華月がいるからだよ……

 並大抵の主護者じゃ……こんなに簡単に進めない……」

「やはり華月様はとても頼りになりますね♪」

「おいおい、俺はこれから最強になる男だぞ?

 このくらいよゆーでクリアして当然だろ」


 褒める二人をまったく見ずに、まじめな口調で返す俺。むろん後ろを見なかったのは、にやける口元を隠すため。こういう時は感情がぜんっぜん表に出ない矢鏡が羨ましくなるな。その方がなんかかっこいいじゃん。


 ――などと考えているうちに。

 一行は次の部屋に到着した。

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